ベストではない選択
月に一度の定時退社日だった。仕事は切羽詰まった状態にあったが、社員の人たちが残業をしないと言うので、私も十九時過ぎに仕事を上がった。そして、セミナーのために大阪の支社に出掛けて行ったガンモと合流するためにガンモに電話を掛けた。お腹がとても空いていたが、ハワイに出掛けるためのスーツケースも買っておかなければならない。本来ならば、先日の三連休に大阪まで出掛けて行く予定だったのだが、行こうと思っていた日に大雨が降ってしまったため、出掛けられなかったのだ。
私はとにかくお腹が空いていたが、ガンモと話し合って、一時間半かけて大阪まで出掛けて行くことにした。大阪に着いたのは二十時半くらいだったろうか。もたもたしているとお店が閉まってしまうので、私はYodobashi-Umedaの二階にあるスーツケース売場へと急いだ。ここは、スーツケースの数が豊富なのだ。
スーツケース売場でガンモと合流すると、私たちは熱心にスーツケースを選び始めた。私が持っているスーツケースはとても古いので、スーツケースを転がすための安定した取っ手が付いていない。確か、付いていたのは、少しアンバランスな引っ張り棒だったはずだ。最近のスーツケースには、どのスーツケースにも、折り畳み式の取っ手が付いている。
私たちは、閉店までのわずかな間に、どのスーツケースにするか、あれこれ悩んだ。まず、サイズを選択するのにしばらく悩むことになった。最初のうちは、大きなスーツケースを買って、二人で使えばいいのではないかと思っていたのだが、移動のことを考えると、大きなスーツケースを一つだけ買うよりも、中くらいのスーツケースを二つ買って、各々が持ったほうがいいのではないかという結論に達した。しかし、いざ大きさを選ぼうとすると、できるだけ大きなスーツケースを買っておいたほうが今後のためにいいのではないかとも思えて来た。そんなことで迷い始めると、なかなか決断を下すことができなかった。
結局、大きさは、一番大きなスーツケースよりも一回り小さいサイズのスーツケースに決めた。しかし、ようやく大きさは決まったものの、今度は色で悩み始めた。私が欲しいと思った大きさ、デザインのスーツケースには、二番目に好きな色であるオレンジがなかったのだ。オレンジは、第二チャクラの色でもある。私の最も好きな色は緑なのだが、ガンモもまた緑が好きなので、お揃いのものを買うときは、ガンモが緑、私がオレンジを選ぶことに決めているのだ。しかし、そのデザインのスーツケースには、ガンモの好きな緑もなかった。それでも、閉店時間がひどく差し迫っていたので、デザインの気に入ったそのスーツケースを買うことに決めた。お互い、好きな色は諦めて、グレーと白にしたのである。
ところが、いざ、お会計の段階になり、店員さんに確認してみると、オレンジならあると言う。私はすかさず、
「じゃあ、白をオレンジに変えてください」
と申し出た。私がオレンジを選ぶと、ガンモの選んだグレーとは少し色合いが合わなくなってしまった。何となく、ベストではない選択のような気がして来た。それでも、購入したスーツケースは、メーカーからの直送になるが、わざわざ持ち帰らなくても自宅に配送してくれると言うので、少しだけ小躍りした。
売場を離れたあと、ガンモが、
「やっぱり亀のタイプにするんだった」
とボソッと言った。亀のタイプとは、スーツケースの背中の部分が衝撃に耐えられるように黒い蛇腹のクッションになっていて、表の部分が亀の甲羅のようにテカテカ光る緑のコーティングが施されたスーツケースだった。そのタイプのオレンジがあれば、私も迷わずそれに決めたかったのだが、店員さんに確認するまでもなく、オレンジ色はないものと決め込んで、最初から避けてしまったのである。
私たちのスーツケース選びは、本当にハワイに行けるのかどうか判断できずに躊躇し続けている私たちの気持ちを反映しているようでもあった。しかし、ガンモがハワイに出掛けるときも、かなり躊躇し続けていた。躊躇し続けて出掛けて行った割には、ずいぶん楽しめたようで、結局、ハワイを楽しんで来たガンモの提案で、結婚十周年の旅行をハワイに決めることになったのだった。スーツケースを選ぶときに、ベストではない選択のように感じられたとしても、人生、どんな結果が待っているかわからない。
※いつも応援クリックしてくださっている皆さん、どうもありがとうございます。m(__)m 選択肢がいろいろあることはありがたいのですが、何ごとも、「これ!」というインスピレーションを感じながら選択して行きたいものですよね。そうでないと、本格的な始まりまでの期間を思い切り楽しく過ごせないような気がしています。
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