ショートショート

2007.06.15

こむら返り

 今日は、久しぶりにショートショートをお届けしよう。

 私は数ヶ月に一回程度の割合で、明け方近くに強烈なこむら返り(足がつること)のために目を覚ましてしまうことがある。足がつると、
「アイタタタタ」
とうめき声をあげ、つってしまった足が一刻も早く元通りになることを切に祈りながら、足に両手を添え、痛みが引いて行くのを歯を食いしばってじっと待つことになる。

 あるとき、やはり明け方近くに突然、こむら返りが起こった。私はいつものように、つった足に両手を添えようとしたのだが、何やら周りがやけに騒がしいことに気がついた。一体何ごとかと思いながら眠い目を開いて周りを見渡してみるると、私が足を抱えている姿を応援するかのように、たくさんの老人たちが声援を送ってくれているのが見えた。

 「ようし、そうじゃ! 来ておるぞ! さあ、引っ張りなされ!」
「おうおう、その調子じゃよ、その調子!」
「ほうら、来ておる、来ておる! 今じゃよ! 力いっぱい引くのじゃあ!」
私は、自分の身に何が起こっているのかわけがわからなかったが、とにかく言われるがままに自分の足を一生懸命引っ張った。すると、私の足の小指の先に赤い糸が結び付けられ、その糸が更に下に向かってピンと伸びているのが見えた。しかも、その糸の先からは大きな手応えを感じるのだった。いつの間に誰が何のために私の足の小指に赤い糸を結んだりしたのだろう? 私は不思議に思いながらも、とにかく自分の足を一生懸命引っ張った。

 すると、足の小指に結び付けられた糸の先から、人間の足が見えて来た。
「ほうら、釣れた。それがアンタの赤い糸の相手じゃ。思い切り引っ張りなされよ」
そう言われて、私は力の限り、自分の足を引っ張った。私が引っ張っていた赤い糸の先は、その男性の足の小指に結び付けられているようだった。その男性が私の赤い糸の相手だと言う。私の赤い糸の相手はどんな人なのだろう。そう思うとわくわくして、足を引っ張る力にもいっそう力がこもった。

 ある程度、力をこめて引っ張ると、糸は磁石のように操作して、素早く二人を引き合わせた。気がつくと、私の隣にその男性が立っていたのだ。私は、初めて会ったその男性のことを、どこかで会ったことのあるような懐かしさを覚えていた。それだけではない。初めて出会ったばかりなのに、彼のことをとても好きだと感じたのだ。出会ったばかりのその男性は、私に向かって照れ臭そうにこう言った。
「はじめまして。小村(こむら)と言います。よろしくお願いします」
こむら返りを通じて出会ったから、苗字が小村なのだろうか。私はおかしくてクククと笑った。
「はじめまして。私は谷口えりと申します。こちらこそよろしくお願いします」
そう言って、ぺこりと頭を下げた。

 私を応援してくれていたはずの老人たちは、いつの間にか姿を消していて、代わりに高校生か大学生くらいの男女が私たちの様子を見守っていた。その中の一人が私のところにやって来て、こう言った。
「ありがとう。あなたが赤い糸の人と出会えたおかげで、私たちもこうして若返ることができました。私たちの役目はこれで終わりね。どうかお幸せにね」
そう言って、若い男女はどこかへ立ち去って行った。あとでわかったことだが、こむら返りからの復帰を応援すると、老人たちが若返るらしい。だから老人たちは、こむら返りに悩まされている人の所在を聞きつけると、どこからともなく集まって来るのだそうだ。シャレみたいな話だが、小村と私の仲人(なこうど)をした人たちが、若人(わこうど)になったということだ。

 小村と私はすぐに意気投合し、恋人同士になった。ほどなくして私たちは結婚し、私の苗字も小村に変わり、私は小村えりになった。こむら返りには一字足りない小村えりである。

 小村と出会ってからの私は、こむら返りに悩まされることもなくなった。私は今ではすっかり確信している。私にこむら返りの症状が表れていたのは、小村と出会うためだったと。いや、むしろ小村のほうがもっと確信しているはずだ。何しろ、小村がえりに出会うための症状だったのだから。今、こむら返りに悩まされている人は、赤い糸の人と出会える前兆かもしれない。

※皆さん、いつもたくさんの応援クリックをありがとうございます。m(__)m 先日、こむら返りで早朝に目を覚まし、こむら返りを何か物語にできないかと模索していたところ、少々強引ではありますが、このような物語が出来上がりました。辛い辛いこむら返りですが、赤い糸の相手と出会うために、赤い糸同士が引き合っているのだとしたら、とてもロマンチックなものになるでしょうね。

さて、今回も記事の中にボタンを埋め込ませていただきますが、どうぞよろしくお願い申し上げます。

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2007.02.07

あるある大臣伝

 今日は、柳沢伯夫厚生労働大臣の発言をネタに、ショートショートをお送りしよう。

 これからお届けするのは、テレビのトーク番組に、柳沢伯夫厚生労働大臣がゲスト出演されたときの模様である。

司  会  者 :「さて、今日も『あるある大臣伝』の時間がやって参りました。わたくし、司会のまるみと申します。『あるある大臣伝』では、毎回、日本の大臣をゲストにお迎えしていますが、偽りなく真実をお伝えして参りたいと思いますので、最後までどうぞよろしくお願い致します。今日は、『女性は産む機械』で見事に二〇〇七年流行語大賞に輝いた柳沢伯夫厚生労働大臣にお越しいただいてます。柳沢厚生労働大臣、どうぞよろしくお願い致します。」

柳沢厚生労働大臣:「こちらこそ、どうぞよろしくお願い致します」

司  会  者 :「では早速ですが、柳沢厚生労働大臣の発言がきっかけとなり、『産む機械』、更には『育てる機械』が実際に製造され、少子化社会に大きく貢献されたばかりでなく、大変な経済効果をもたらされました。まず最初に、そのあたりの状況やご感想などをお話しいただけたらと思います」

柳沢厚生労働大臣:「そうですね。最初のうちは皆さんもご存知の通り、非難囂囂(ひなんごうごう)だったわけですが、災い転じて福となすと申しましょうか。N社さんが『産む機械』や『育てる機械』を実際に製造してくださり、無事に少子化問題は解決され、経済効果も高まりました。N社さんにはとても感謝しています。」

司  会  者 :「この『産む機械』や『育てる機械』なんですけれども、どういった機械なんでしょうか」

柳沢厚生労働大臣:「一言で言いますと、女性の形をしたロボットですね。『産む機械』に対し、男性が働きかけることによって、『産む機械』は身ごもることができます。人間よりも早く子供が生まれるのが特徴です。『産む機械』によって子供がどんどん増えて行くものですから、今度は『育てる機械』が開発されたわけです」

司  会  者 :「そう言えば、柳沢厚生労働大臣も、実際に『産む機械』や『育てる機械』を購入されたそうですね」

柳沢厚生労働大臣:「はい。『産む機械』と『育てる機械』、それぞれ五台ずつ購入させていただきました。『産む機械』から生まれた子供たちを、『育てる機械』が引き取り、実に良く面倒をみてくれています」

司  会  者 :「なるほど。噂によりますと、機械のお手入れなどもご自分でなさっているとか」

柳沢厚生労働大臣:「はい。その通りです。どういうわけか、家内は機械に対してやきもちを妬いてますのでね。ただの機械のなのに、女性の心理はずいぶん複雑なようです。機械の世話は全部私が行っています。まあ、ときどき油を挿したり、なでてやったりする程度ですけども。『産む機械』と『育てる機械』、それぞれ五台ずつありますので、それなりに手入れも大変ですが、子供を十二人も産んでくれたので、国としてもとても助かっています」

司  会  者 :「そうですか。ところで、これは私の女性としての単純な疑問なんですけれども、『産む機械』と『育てる機械』を製作したN社は、どうして『子種を植えつける機械』も一緒に作らなかったのでしょうか?」

柳沢厚生労働大臣:「それは・・・・・・。N社の開発担当が男性だったからでしょう。男性が自ら、自分たちの愉しみを奪ってしまうとは思えませんからね」

司  会  者 :「とおっしゃいますと、男性たちは、『産む機械』に対して性行為を行うことを愉しみとされているわけですね。でも、それではずいぶん不公平ですね。今や、多くの女性たちは、出産を『産む機械』に任せっぱなしです。おそらくですが、女性の社会的な地位が向上したおかげで、男性に従順な女性が減って来たのでしょうね。それに対し、男性に従順な『産む機械』は、男性たちに広く受け入れられているのでしょう。その結果、もはや、生身の女性たちは、出産に関して出る幕がなくなってしまったと言っても過言ではありません。出産には、産む苦しみもあれば、苦労して生んだという大きな喜びもあろうかと思います。生身の女性たちは、それらの苦しみや喜びを『産む機械』に横取りされてしまっているのに、男性たちは自分たちの愉しみだけは取っているのですね」

柳沢厚生労働大臣:「おやおや、そういうご意見はおだやかではないですね」

司  会  者 :「おかしいとは思われませんか? 『産む機械』や『育てる機械』が存在するならば、『子種を植えつける機械』も同時に存在すべきです。しかし、実際はそうではありません。つまり、今の世の中は、男性と女性が対等ではないのです。日本はまだまだ男社会ということです。」

柳沢厚生労働大臣:「・・・・・・」

司  会  者 :「ところで、柳沢厚生労働大臣は、映画『マリーアントワネット』をご覧になりましたか?」

柳沢厚生労働大臣:「いえ、観てません」

司  会  者 :「そうですか。日本に限らず、海外においても、昔から、子供を産まない女性は虐げられて来ました。しかも、跡継ぎには男の子を産まなければなりませんでした。日本の皇室にも、かつては側室制度が存在していましたよね。権力者は、健康な男の子を産んでもらうために、たくさんの妾たちを囲っていました。それこそ『産む機械』だったのかもしれません」

柳沢厚生労働大臣:「ちょっと待ってください。私は少子化の話をしていたのです」

司  会  者 :「映画『マリーアントワネット』では、子供が誕生しないことに対し、マリーアントワネット自身が周りからとやかく言われます。でも、当時のフランス王室になかなか子供が誕生しなかったのには、それなりの理由がありました。マリーアントワネットは夫に対して彼女なりにアプローチしていたようですが、夫はいざという段階になると夫婦の営みから逃げてしまっていたようです。しかし、子供が生まれない理由が何であろうと、虐げられるのはいつも女性です。それもやはり、『産む機械』だからでしょうか」

柳沢厚生労働大臣:「あなたは一体何をおっしゃりたいのだ。少子化の話はどうなったんだ」

司  会  者 :「少子化ですか。ではおうかがいしましょう。柳沢厚生労働大臣は何故、そこまで少子化にこだわるのですか?」

柳沢厚生労働大臣:「それは、これから高齢化社会を迎えようとしているのに、今、子供が生まれていないと、やがて働き盛りの若者たちがいなくなってしまうからです」

司  会  者 :「なるほど、つまりは税金を納める対象の人たちが少なくなるために、日本の財政が赤字になることを懸念されていらっしゃるのですね。少子化に対し、命の尊さとか、次の世代に何か大切なことを伝えて行きたいという熱い想いはないのですか?」

柳沢厚生労働大臣:「もちろん、ありますとも。実際に、生まれたばかりの赤ん坊を見ていると、命の尊さを実感せずにはいられません。命の尊さよりも前に、生命の不思議とでも申しましょうか。この子たちを守って行きたい。そんな気持ちを強く抱きます」

司  会  者 :「柳沢厚生労働大臣。命の尊さを実感していらっしゃるのなら、新しい生命を望むことも積極的な行動の一つですが、政治家として、他にも実践すべきことがあるのではないでしょうか」

柳沢厚生労働大臣:「とおっしゃいますと?」

司  会  者 :「今でも世界のあちらこちらでは殺し合いが絶えません。新しく生まれて来る命も大切ですが、既に存在している命を守って行くことも大切ではないでしょうか」

柳沢厚生労働大臣:「むむむ・・・・・・」

司  会  者 :「もしご覧になっていなければ、『トゥモロー・ワールド』という映画をご覧になってください。『トゥモロー・ワールド』では、この世に子供たちが一人も誕生しなくなってしまう世界が描かれているのですが、それでもなお、人々は戦争を辞めようとしないという皮肉が表現されています。もしも命の尊さを実感していらっしゃるならば、どうか殺し合いを止めさせてください」

柳沢厚生労働大臣:「わかりました」

司  会  者 :「それから、さきほどの税金のことですが、昔と比べて、多くの女性たちが社会に進出して来ました。その社会で、男性たちと対等に働いている女性たちもいます。例えばその人たちは、国に対して、男性たちと同じように税金を納めています。その分を、その人たちの老後まで貯金していただくことはできないのでしょうか?」

柳沢厚生労働大臣:「それは・・・・・・」

司  会  者 :「つまりは、国の財政難を少子化の問題に摩り替えているだけなのではないですか?」

柳沢厚生労働大臣:「・・・・・・」

司  会  者 :「少子化問題は、様々な要因が重なって生じた課題だと思います。昔は、女性が外に出て働くということはあまりありませんでした。だから、育児に専念することができたんです。でも、今は違います。少子化の要因を女性にだけ求めずに、もっと広い視野で考えていただけないでしょうか。例えば、環境ホルモンにも目を向けるとか」

柳沢厚生労働大臣:「今度は環境ホルモンのお話しですか」

司  会  者 :「はい。環境ホルモンの中でも、特に環境エストロゲンと言われているものを生活中から排除できるよう、世の中に働きかけてください。環境エストロゲンは、男性の精子にも、女性の子宮にもよろしくない影響を与えているようです。具体的には、プラスチックの改良を進めてください。温められたペットボトルや、電子レンジで温められたプラスチックに入ったお弁当を飲食しても、私たちの身体に害がないようにしてください」

柳沢厚生労働大臣:「わかりました。環境問題を担当している大臣に相談しておきます」

司  会  者 :「ありがとうございます。それではお時間になりましたので、そろそろお別れの時間となりました。柳沢厚生労働大臣、本日はどうもありがとうございました」

※登場人物は実在の人物と大いに関係がありますが、会話の内容と実在の人物は必ずしも一致しません。

※皆さん、いつもたくさんの応援クリックをありがとうございます。m(__)m 更新が遅くなり、申し訳ありません。いつの間にか、昼休みには書き切れないボリュームになってしまいました。この記事を書きながら、『シャーロットのおくりもの』という映画の中で、シャーロットという名前のクモが、たくさんの卵を産み落として亡くなってしまうシーンを思い出していました。そのシーンを観たとき、クモのシャーロットが自分の世代から次の世代に自分の持っているすべてを伝えて行くという重要な役割を果たしていると感じました。子供のいない私が言うのも何ですが、これが本来の動物のあるべき姿なのではないかと感じました。子供のいない私にも、そういうことを感じさせてくれるくらい、とても素敵な映画でした。

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2007.01.23

笑点もどき

 今日は、久しぶりにショートショートをお届けしよう。いつものように、前日の記事を題材にしてみたのだが、何しろ仕事が忙しくて頭の中がぐちゃぐちゃなので、とんでもないストーリーになってしまうかもしれない。

 ホットヨガのレッスンには、六十分のビギナーコース、七十五分のベーシックコース、九十分のベーシックコース、七十五分と九十分のアクティヴコース、六十分の脂肪燃焼コースがある。支店によっては他のコースも用意されているのだが、だいたいこのようなコースとなっている。実は、これらのコースは、レッスンを受ける人たちだけのものではなかった。スタッフの方たちも、これらのコースに参加していたのだ。と言っても、同じであるのはコースの名前だけで、コースの内容はまったく異なっている。あるとき私は、それらのコースを見学する機会に恵まれた。そのときの様子をお伝えしようと思う。

 私たちがいつもレッスンを受けているスタジオの中に、スタッフの方たちが勢ぞろいしていた。ヨガマットを床に並べ、その上にバスタオルを敷き、胡坐(あぐら)をかいて座っている。いつもインストラクターが使っている正面のマットには、年配の女性がスタッフの方たちに顔を向けて座っていた。手には、大きなパネルのようなものを持っている。
「はい、それでは次の会員さんです。この方はどなたでしょう? はい、わかる人?」
年配の女性はそう言って、大きなパネルをスタッフの方たちに見えるよう、上に掲げた。すると、後列で胡坐をかいていたスタッフの一人が手を挙げて、
「その方は、A山B子さんです」
と言った。年配の女性は、パネルの裏側に書かれている情報を確認し、
「はい、正解です」
と言った。すると、スタジオの隅の方からヨガマットを手に持った人が歩いて来て、さきほど正解したスタッフのヨガマットの上にもう一枚、ヨガマットを重ねた。ヨガマットを重ねてもらったスタッフは、新たに重ねられたヨガマットの上にバスタオルを敷き直して再び胡坐をかいた。
「では次。この方はどなたでしょう? はい、わかる人?」
再び、年配の女性が大きなパネルを上に掲げながらスタッフに問いかけると、今度は別のスタッフが手を挙げて、
「C川D美さんです」
と答えた。年配の女性は、パネルの裏側に書かれている情報を確認したが、間違っていたのか、答えたスタッフを軽く睨みつけた。
「残念、違います。はい、彼女のマットを持ってって」
年配の女性がそう言うと、さきほどヨガマットを運んで来たスタッフが、今度は間違って回答したスタッフのマットを取り上げに行った。間違って回答したスタッフは、ヨガマットを取り上げられて、マットなしの状態になってしまった。そう、スタッフの方たちは、テレビ番組の「笑点」のルールで、ホットヨガの会員の人たちの顔と名前を覚えていたのである。

 「では、ここで汗をふいて、水分補給を行いましょう」
年配の女性がそう言うと、レッスンに参加しているスタッフの方たちは、タオルでそれぞれ自分の身体の汗をふき取り、持っていたペットボトルの水を飲んだ。会員の顔と名前を覚えるレッスンといえども、ホットヨガのレッスンらしく、三十八度の室温、六十五パーセントの湿度の環境で行われているのである。

 スタジオ内を見渡すと、既に何枚もヨガマットを獲得しているスタッフがいた。このレッスンは、決められた時間内にどれだけたくさんのヨガマットを集められるかを競い合うものだった。六十分のビギナーコースでは、入会年数が二年以上の会員の写真が使われる。つまり、ビギナーコースは、既に馴染みの会員の写真ばかりなので、答え易くなっているのだ。七十五分のベーシックコースでは、入会年数が一年以上の会員の写真、九十分のベーシックコースでは、入会年数が半年以上の会員の写真がそれぞれ使われている。七十五分と九十分のアクティヴコースでは、入会年数がそれぞれ半年以上と三ヶ月以上の会員の写真が使われのだが、写真が掲げられる時間が超ウルトライントロクイズ並に短い。そのため、レッスンを受けているスタッフは、瞬間的に掲げられる写真を決して見逃すまいと、じっと目を凝らして見つめているのだった。

 どのコースも、レッスンが終わる頃には全身が汗でびっしょりになる。中でも、六十分の脂肪燃焼コースは、スタジオ内の高い場所に掲げられた写真を何度もジャンプして確認しなければならないので、かなり激しいレッスンとなっている。しかも、高い場所に掲げられる写真の中には入会したての会員の写真もある。運動量の激しい脂肪燃焼コースのレッスンは、脂肪燃焼に高い効果をもたらしているのである。

 現在は、脂肪燃焼コースよりも激しいコースはないのだが、あまりにも優秀なスタッフが多いために、近々、脂肪燃焼コースよりももっと厳しいコースが開設されることになっているそうだ。そのコースは、自分たちの勤務している支店だけでなく、他の支店の会員の顔と名前も覚えるというものだという。

 このようにして、ホットヨガのスタッフの方たちが、自分たちの勤務する支店に登録されている会員の顔と名前を一生懸命覚えていることは、会員の皆さんにはあまり知られていないことだろう。今度、少し早めにレッスンに出掛けて行って、使われていないスタジオの中をそっとのぞいてみるといい。もしかすると、ヨガマットを使って、笑点もどきのレッスンをしているスタッフの方たちに出会えるかもしれない。

※皆さん、いつもたくさんの応援クリックをありがとうございます。m(__)m このショートショートは、神戸店のスタッフの方が、私の名前と顔をちゃんと覚えてくださっていることから想像してみました。実際は、どのようにして覚えていらっしゃるのでしょう。顔写真を提出しているので、それが手がかりになっていることは確かだと思います。ちなみに、私はスタッフの方たちの名前をなかなか覚えられません。(^^; インストラクターの方は、いつもレッスンの前に口頭で名乗ってくださるのですが、耳で聞くだけなので、時間が経つと頭の中から離れて行きます。名札をつけてくださっていたら、ちゃんと覚えられると思うのですが・・・・・・。名札と言えば、以前、カメラ関係のオフなどで、名札を付けて参加していたことがありました。名前を覚えてもらえるので、このアイディアはとても効果的でした。私が参加しているカメラ関係のサークルでも、名札を付けて参加するパーティーがあります。名札があると、話しかけるきっかけにもなります。お互いの名前を示し合うことは、コミュニケーションの第一歩だったのですね。ホットヨガのレッスンで、他の会員の方とのコミュニケーションがなかなか始まらない原因がわかったような気もします。

さて、今回も記事の中にボタンを埋め込ませていただきますが、どうぞよろしくお願い申し上げます。

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2006.12.08

マッサージチェア

 今日は、昨日の予告通り、ショートショートをお届けしよう。

 私の職場にはリフレッシュコーナーがあり、マッサージチェアに座って、身体のコリをほぐせるようになっている。リフレッシュコーナーには同じマッサージチェアが二台並んでいる。これらのマッサージチェアは、好きな時間に利用できるので、私もしばしば利用している。

 そのマッサージチェアは、電気で動いているため、機械のもみ方や叩き方が激しくて痛みを感じても、決して加減してはくれない。もしもこのまま機械が暴走してしまったらどうなるのだろうという不安が常にある。この不安は、機械と人間のコミュニケーションが一方通行であるために生まれている。

 もともとマッサージチェアは、人間がコリをほぐす動作を同じ力で供給し続けることが体力的に難しいために開発されたものである。しかし、利用者からは、あまりにも無機質であることへの不満の声も上がっていた。しかし、その一方で、見知らぬ生身の人間に身体をほぐしてもらう恥ずかしさを感じなくても良いというメリットもあった。

 ご存知の通り、私の仕事はソフトウェアの開発業務である。主にWindows上で動作するソフトウェアを開発しているが、ときには特殊な機器を制御するソフトウェアを開発することもある。

 あるとき、マッサージチェアの制御用ソフトウェアの開発業務の仕事が私のもとへ舞い込んで来た。マッサージチェアのコントローラから発信される信号を受け取り、マッサージチェアの本体に命令を送ったり、コントローラのユーザインターフェースを考える仕事である。コントローラのユーザインターフェースとは、平たく言えば、コントローラが表示するメニューをどのような使い勝手にするかということである。私は、マッサージチェアの会社に出向き、どのような方針でソフトウェアを開発したらいいか、話を聞きに行った。

 マッサージチェアの担当者は、次にリリースするマッサージチェアでは、他社の類似製品に大きな差を付けたいと言った。マッサージチェアは、どこの製品にもそれほど大差がなく、ユーザの決め手になっているのは価格くらいだと言う。しかし、他社製品にないようなマッサージチェアを開発できれば、売り上げはぐんぐん伸びるだろうという目論見(もくろみ)だった。

 「私は肩こりの症状に悩まされることも多いので、社内に設置されているマッサージチェアを良く利用していますが、一回につき十五分程度座っていると、その間に何か別のことができないかなあとは思いますね。そう言えば、以前、同じ職場の人と話をしていたんですが、マッサージしてもらっているときに、芸能人が語りかけてくれるようなマッサージチェアがあれば面白いんじゃないかと」
私がそう言うと、マッサージチェアの担当者は、目をキラキラさせながらこう言った。
「なるほど。利用者の方の生の声はとてもありがたいです。あはは、芸能人の声ですか。いやあ、これはなかなかいいアイディアだと思いますよ」
「そうですか、ありがとうございます。コントローラでメニューを選ぶときに、好みの芸能人も一緒に選べるようにしておくんです。そして、自分の選んだ芸能人の語りかける声を聞きながら、身体をほぐしてもらえるようにすれば、利用者も楽しめると思うんです」
「おお、それはすばらしいアイディアですね!」
マッサージチェアの担当者はかなり乗り気の様子だった。しかし、そのやりとりを傍で聞いていた別の担当者が途中で口を挟んで来た。
「芸能人の声を起用しても、その芸能人が不祥事を起こしたり、人気が下火になったりすると、マッサージチェアの売り上げも急激に落ち込みますよ。また、こんなことはあまり言いたくないですが、その芸能人が他界したりしたら、すぐに作り変えなければなりません」
せっかく盛り上がっていた芸能人バージョンのマッサージチェアの話も、別の担当者の一言でかき消されてしまった。

 しばらく沈黙が続く中、私はふと、先日の地下鉄の中での出来事を思い出した。
「あっ! 関西のおばちゃん!」
思わず声に出してしまったので、マッサージチェアの担当者たちは怪訝な顔つきで私を見た。
「関西のおばちゃん? どういうことですか?」
「すみません。関西のおばちゃんの話って、とにかく尽きないじゃないですか。そして、相手に笑って欲しいときに相手の肩をぱんぱん叩きます。そののエネルギーを肩叩きのエネルギーとして生かすんですよ。」
「それはイカスねえ!」
乗り気だった担当者は、どうやら洒落好きのようである。
「マッサージのコースを選択するコントローラでは、おばちゃんの話も一緒に選べるようにするんです」
「おお、これは素晴らしいアイディアだ。よし、それで行きましょう」

 話はとんとん拍子に進み、私のアイディアが採用されたということで、私はマッサージチェアの会社から十万円の謝礼をいただいた。

 マッサージチェアには、関西のおばちゃんの話を五十話ほど挿入し、周りに音が漏れないように、利用者だけがヘッドフォンで聞くことができる仕様にした。関西のおばちゃんの話は尽きなかったので、五十話程度の挿入話を録音するために、わずか数人のおばちゃんを集めただけで十分だったと言う。コントローラのユーザインターフェースも決まった。私の担当していたコントローラの制御の部分も、あらかじめコントローラからの信号の仕様が提示されていたので、命令を実行する部分を作り込むだけで終わった。そして、社内での結合テストが完了し、いよいよ本番テストの段階となった。

 私は、開発の担当者として本番テストに立ち会うために、再びマッサージチェアの会社を訪問した。そこには、私たちが納品したコントローラの制御プログラムが組み込まれた試作品があった。

 マッサージチェアの商品名は、ずばり、「関西のおばちゃん」と名付けられた。私は、出来上がったマッサージチェアの外見を見て驚いた。何と、ふっくらしたおばちゃんが、トレーナーを着て、笑みを浮かべて両手を広げているいるのである。そのマッサージチェアには、関西のおばちゃんの貫禄が見事に表現されている。マッサージチェアに座ると、トレーナーを着たおばちゃんのひざの上に乗るような形になる。
「あはは、トレーナーを着ていますね」
「ええ、実はこのマッサージチェア、母がモデルになってくれたんです」
「え? お母様が?」
マッサージチェアの担当者は、コントローラを私に差し出した。私は靴を脱いでマッサージチェアに腰掛け、ヘッドフォンを耳に当てた。リクライニングボタンを押すと、マッサージチェアは後ろに倒れた。倒れるときに、
『倒すでー』
という声がヘッドフォンの中から聞こえて来た。関西のおばちゃんの声である。私はぷっと吹き出した。コントローラからの命令が正常に動いているということは、どうやら私の作ったプログラムも正常に動作しているようである。コントローラのディスプレイには、マッサージの強さや速さを選べるメニューが表示されている。更に同じメニューから、関西のおばちゃんの挿入話を選択できるようになっていた。私は、「ボーリングに通う編」と表示されているメニューを選択し、実行ボタンを押した。

 わくわくしながら耳を澄ませていると、ヘッドフォンを通してガタンゴトンという効果音が聞こえて来た。
『へええ、いろんなことができるんやねえ。わたしゃ、さっぱりわからんわ』
関西のおばちゃんの声が聞こえて来た。いよいよ、おばちゃんの話が始まったようである。
『私ね、携帯電話も持ってへんのよ』
『こないだな、息子が電話掛けて来てな、そのあとお風呂に入ってん。そしたらな、お風呂に入っとるときに息子が帰って来よったんよ。まさか、家の近くまで帰って来とるとは思わへんやろ? もう、裸で出て行ったがな』
おばちゃんの声が聞こえるやいなや、肩をぱーんと叩かれた。両手を広げて立っていたはずのおばちゃんの人形の手が動いたのである。おばちゃんの人形の手は、人間の手のような特殊加工が施されていた。これはなかなか面白い。そう思いながらも、私はヘッドフォンから流れて来るおばちゃんの語り口調と話の内容に、どこか聞き覚えのあるものを感じていた。もしかして、もしかして? そう思っている間にも、おばちゃんの話はどんどん続く。
『学生さん?』
『えー、学生さんやないの? じゃあ、いくつ?』
『えええええええ! 四十一? 絶対見えへんわ』
そう聞こえた途端、おばちゃん人形が私の肩を連打した。四十一という年齢に驚いたおばちゃん人形が興奮して私の肩を叩いているのである。
「ううううう、効きますねえ、これは」
私は半分悲鳴のような声を上げていた。

 しばらくすると、おばちゃん人形は言った。
『これ、トレーナーやねん』
ああ、もう間違いなかった。私が選んだのは、先日、地下鉄で会ったあのおばちゃんの声だ。ということは、マッサージチェアの担当者は、あのおばちゃんの息子さんなのだろうか?

 おばちゃん人形の話は更に続いた。仲間たちとのボーリングを楽しむために、地下鉄沿線にあるボーリング場に向かう途中であること。トレーナーだけでは寒いので、袖のない薄い半纏を羽織っていること。この時間に出掛けて行っても、別のチームの人のプレイがまだ終わっていないので、すぐにはプレイできないこと。マイシューズを持っているが、荷物になってしまうので、毎回、二百円払ってシューズを借りていること。地下鉄に乗るために自宅からバスに乗ったが、目の前でバスが走り去ってしまって、次のバスまで十分待ったこと。もうすぐ神戸ルミナリエが始まること。今度、石川さゆりさんのコンサートに行くことなどを聞かせてくれた。そして、話の区切りごとに、私の肩をぱんぱん叩いた。
「これは確かに効きますねえ」
私はおばちゃんにぱんぱん叩かれながら、心地よい肩叩きの感覚に酔いしれていた。

 既にストーリーを知っていた私は、このメニューがいつ終わるかも知っていた。おばちゃん人形が、
『乗り過ごしたらあかん。ほな、またね』
と言うと、おばちゃん人形の動きは停止した。素晴らしい出来である。

 「素晴らしいですよ! それに、とっても楽しいですね」
「そうですか、そう言ってもらえるとありがたいです。母も喜びます」
とマッサージチェアの担当者は言った。
「実は私、以前、地下鉄の中でお母様にお会いしてます」
「ええっ? 本当ですか? じゃあ、もしかしてあのとき、毛糸の帽子を被っていた学生さんもどきはあなたのことだったんですか」
驚く担当者の様子を見て、私はぷっと吹き出した。やはり、おばちゃんは、帰宅してから私のことを息子さんに話して聞かせたようである。

 「関西のおばちゃん」のマッサージチェアは、売れ行きが良かった。オプション品として、関西のおばちゃんの挿入話が録音されたカセットが飛ぶように売れたことも、マッサージチェア業界では異例のことだった。オプションのカセットを入れ替えることで、様々な関西のおばちゃんの話を聞くことができ、そのおばちゃんの話に反応して、様々なバリエーションの肩たたきを実現することができたのである。

 「関西のおばちゃん」のプロジェクトが成功してしばらく経った頃、マッサージチェアの担当者と私は結婚した。それがガンモである。そして、ガンモの家でおばちゃんと同居するようになった。しかし皮肉なことに、私が肩こりを感じても、生のおばちゃんが話をしながら私の肩をぱんぱん叩いてくれるので、我が家にマッサージチェアは要らない。

※皆さん、いつもたくさんの応援クリックをありがとうございます。m(__)m エネルギーはできるだけ有効活用したいものですよね。この物語は、そうした想いから生まれました。例え十五分や二十分の時間であっても、できるだけ楽しく過ごしたいものですよね。こんなマッサージチェアがあったら、使ってみたいと思いませんか? しかし、これは、叩く専門のマッサージチェアかもしれません。どこかに「もむ」というエネルギーが余っていたら、そのエネルギーを有効活用したいものです。

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2006.12.03

まるみ軒

 今日は久しぶりにショートショートをお送りしよう。

 ホットヨガのレッスンに出掛けたものの、替えのズボンを忘れてしまい、私はすっかり途方に暮れていた。これからどうしようかと思案しながら更衣室でひらめいたのは、ひざ掛け用に持っていた二枚のショールをスカート替わりに腰に巻きつけることだった。とりあえず、ショールをスカート替わりにしてホットヨガのスタジオを出たあと、どこかでラフなズボンを買って履き替えよう。そう思っていたのだ。私は二枚のショールを腰に巻きつけたあと、ドキドキハラハラしながらホットヨガのスタジオを出て、おぼつかない足取りで三宮のセンター街を歩き始めた。

 しばらく歩くと、男が一人、私のところに寄って来た。そして、おもむろに私の足元にうずくまると、腰に巻いているショールをペロンとめくって中に入ろうとしたのだ。
「ちょ、ちょっと、何をするんですか!」
私は驚きの声をあげた。すると、男はきょとんとした顔をして、
「何だ、まだ営業中じゃなかったの?」
と言った。
「営業中?」
私が眉間にしわを寄せながら尋ねてみると、男は更にこう言った。
「いや、営業中だと思ってたんだよ。営業中じゃなかったのならごめんよ。また来るよ」
そう言って、男はスタスタと人ごみの中に消えて行った。はて、彼は一体何者なのだろう?

 さきほどの不可解な出来事が何なのかわからないまま、私はセンター街の衣料品店を探しながら歩いた。ラフなズボンを売っているお店を探していたが、なかなか見つからない。少々焦りを感じながら更に歩いていると、今度は見知らぬ女性が近づいて来た。そして、やはり私の足元でうずくまり、私のスカートをペロンとめくって中に入ろうとしたのである。
「ちょ、ちょっと、どういうことですか、一体」
私が悲鳴をあげて後ずさりすると、その女性は、
「あら、のれんが出てるから営業中だと思ったんですよ。ごめんなさいね」
と言いながら立ち去った。のれん? 営業中? 一体どういうことなのだろう。

 もしかして・・・・・・? いや、まさかそんなことが有ろうはずがなかった。しかし、それでも私は不安になって、自分の腰に巻きつけているショールに目をやった。すると、何と、私がショールだと思いこんでいた布は、いつの間にかのれんに変わっていた。しかも、「まるみ軒」などと書かれている。「まるみ軒」の文字の周りには、ラーメン屋にありがちな赤いグルグル巻きの模様が描かれていた。震える手で「まるみ軒」と書かれたのれんをペロンとめくってみると、おいしそうなラーメンの匂いが漂って来た。なるほど、人々はこの匂いと「まるみ軒」ののれんにつられてやって来たようである。しかし、自分でも気づかないうちに自分の身体の一部がラーメン屋さんに変わっていたとは驚きだ。

 もっと中を覗き込もうとすると、中から、
「へい、いらっしゃい!」
という威勢のいい声が聞こえて来た。中に誰かいるのか! 私は恐る恐る、腰をかがめてのれんの中をのぞき込んだ。すると、白い服を着て頭にねじりはちまきをつけた小人が、厨房のようなところで湯気を立たせながらラーメンを作っていた。私と目が合った小人が、
「まいどお!」
と言った。
「いや、ちょっと待ってよ。一体これはどういうこと?」
私は驚きを隠し切れずにおろおろしながら言った。
「どういうことって、まるみさんがここで店を出してみないかって誘ってくださったんじゃありませんか」
と小人は言う。
「私が?」
「そうですよ。おかげ様で、長年の夢が叶いました。本当にありがとうございます」
小人は深々と私におじぎをした。

 私はわけがわからなかった。小人と話しているうちに、男性客がやって来た。
「へい、いらっしゃい!」
と小人は元気良く言った。え? いらっしゃい? ということは、この男性は私のショールをめくって中に入って来たというのか? そう思うやいなや、男性客の身体はみるみる小さくなり、店の中のカウンターに腰を下ろした。
「肉団子ラーメンちょうだい」
「はいよー」
小人はてきぱきと麺をゆでて、麺の上に肉団子を盛り付けた。
「はい、当店名物の肉団子ラーメン、上がりぃ」
「ありがとう。この肉団子がうまいんだよねえ」
男性客は、小人の作った肉団子ラーメンをおいしそうにすすり始めた。「まるみ軒」の名物である肉団子ラーメンは、麺の上に大きな肉団子が三つ乗っかっていた。私は、一連の様子をあっけに取られながら見ていた。スカート替わりに巻いたショールがラーメン屋ののれんになっていて、その中で肉団子ラーメンがせっせと作られているなんて、一体誰が想像できようか。

 私が店の様子を観察している間にも、お客は次から次へとやって来た。どうやらこのラーメン屋はひどく繁盛しているようである。しかも、やって来るお客のほとんどが肉団子ラーメンを注文している。
「肉団子ラーメンって、そんなにおいしいの?」
と私は小人に尋ねてみた。すると小人は、目に涙をいっぱい浮かべながらこう言ったのである。
「おかげ様で、肉団子ラーメンは大好評ですよ。でも、もうすぐ私の役目も終わりです」
私には、小人が何故、目に涙をいっぱい浮かべているのかわからなかった。

 私は、繁盛している「まるみ軒」の様子をうかがいながら、これから衣料品店でラフなズボンを買う計画をどうしようかと思案していた。私が思案している間にも、お客は次から次へとやって来た。私はラフなズボンに履き替えて映画を観に行きたかったが、映画を観るよりも楽しい光景がそこには広がっていた。

 小人は一人で「まるみ軒」を切り盛りしながら、せっせと肉団子ラーメンを作り続けた。私は、働く小人の様子を見守りながら、いつの間にか彼に微笑みを送っていた。お客の足が途切れた頃、小人が私にささやいた。
「肉団子ラーメンは、あと二食でおしまいです。そうしたら、まるみさんともお別れですね」
私は、小人が何を言っているのか良くわからなかった。小人は相変わらず、目に涙をいっぱい浮かべていた。

 まもなく、二人連れのお客がやって来て、肉団子ラーメンは売り切れになった。小人は、とうとう最後の肉団子ラーメンをお客に出した。彼にとって、お店を閉めることがそれほど辛いのだろうか。最後のお客は、彼の作った肉団子ラーメンの汁まできれいにたいらげると、満足して帰って行った。

 最後のお客を送り出した小人は、しんみりとした口調で私に話し掛けて来たのである。
「まるみさん。これで私の役目はおしまいです。まるみさんのおかげで、ラーメン屋になるという長年の夢が叶いました。本当にありがとうございました。まるみさんもどうかご健康で。また私がここで肉団子ラーメンを作ることがありませんように」

 小人はそう言うと、店の外に出て、「まるみ軒」ののれんを裏返しにした。その途端、小人の姿もお店も、ラーメンの匂いもすっかり消えてしまったのである。私は何が起こったのかわからずに、ただ呆然とその場に立ち尽くしていた。

 ふと我に返ると、目の前に衣料品店があった。店先には、ラフなズボンが並んでいる。私はそこでラフなズボンを買い、お店の中の更衣室を借りて、買ったばかりのズボンに履き替えた。そのとき、身につけていたショールをペロンとめくってみると、中から小さなラーメン鉢が二つ転がった。拾い上げた小さなラーメン鉢には、「まるみ軒」のロゴが入っていた。それらのラーメン鉢の匂いをくんくん嗅いでみると、小人の作っていた肉団子ラーメンの匂いがした。私はこみ上げて来る感情を抑えながら、それらのラーメン鉢をそっとティッシュに包み、ポケットの中に大事にしまいこんだ。

 それから数日後、私は半年に一度の婦人科検診に出掛けて行った。私の子宮にはいくつもの筋腫があるために、半年に一回の割合で医師の診断を受けているのである。エコーの機械を手にした主治医が、モニタを見ながら何やらぶつぶつ言っている。何を言っているのかと耳を傾けてみると、
「まさか、こんなことがあるとは思えないけどなあ」
などと言っているのだった。
「どうしたんですか?」
私は診察台の上に身体を倒したまま主治医に尋ねた。すると主治医は、信じられないといった口調でこう言った。
「あなたの子宮には、筋腫がひとつもありません。手術をされたあともないし、一体何が起こったのでしょう? 何か心当たりはありますか?」
「いえ、特に何も・・・・・・。あっ、そう言えば、デトックスのためにカナダのハーブティーを飲んでいますが・・・・・・」
と言いかけて、私は、あっと思った。まさか、まさか、あの肉団子ラーメンは・・・・・・。

 そう思うと、小人の顔が思い出され、とめどなく涙が溢れて来た。私は、ポケットの中をまさぐった。ちょうど、あのときと同じジャケットを着ていることを思い出したからだ。ポケットの中からティッシュに包まれた小さなラーメン鉢を見つけ出した私は、その小さなラーメン鉢を握り締めてわんわん泣いた。あの小人は私に対して、絶対的な愛情を注いでくれる存在だったのだ。そして、自分の役目が終わると同時に姿を消してしまった。小人は、私を救うことの喜びと、役目を果たしてしまうともう二度と会えなくなることの寂しさの中で揺れていたのだ。

 おそらく小人は、私の筋腫を削って肉団子ラーメンを作った。そのおかげで、私の子宮から一切の筋腫がなくなっていた。私は、肉団子ラーメンを作ってくれた小人と、小人の作った肉団子ラーメンをおいしいと言いながら食べてくれた人たちに心から感謝した。しかし、主治医にそんな話をしても信じてもらえるはずがない。しきりに首をかしげる主治医に別れを告げて、私は静かに病院をあとにした。これから先、あの小人にはもう会えないだろう。しかし、もしも彼に会えるとすれば、私の中に再び筋腫ができたときだろう。小人は、私との再会を喜んでくれるのだろうか。それとも、悲しむだろうか。

 私は、「まるみ軒」で拾ったラーメン鉢をピアスに加工して、今でも大事に耳に付けている。

※皆さん、いつもたくさんの応援クリックをありがとうございます。m(__)m 「のれん」を題材にして書き始めたところ、思いもよらない結末を迎えてしまいました。自分のことを絶対的に愛してくれる存在が、役目を果たすと目の前からいなくなってしまうかどうかはわかりません。皆さんにも、そのような存在に心当たりがあるでしょうか。

さて、今回も記事の中にボタンを埋め込ませていただきますが、どうぞよろしくお願い申し上げます。

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2006.11.17

マフリャー(後編)

 国立蛇研究所の所長は、太ったおばさん夫婦の蛇に、強力な毒消しを注射した。その毒消しは遺伝子にまで到達し、今後この夫婦の蛇に生まれる子供は毒を持たない蛇となるという。
「チクリとしますが、いいですか。はい、チクリー」
本当にこの人に任せてしまっても大丈夫なのだろうかと不安になってしまうくらい、ギャグを連発したがる所長だった。所長は更に、蛇が寒い冬の間でも活動できるような改良を加えた遺伝子を組み込んだ。そして、最後の仕上げとして、暖かい毛皮を持ったミンクの遺伝子と、太ったおばさん夫婦の蛇の遺伝子を仲良く絡ませて、二匹の体内に埋め込んだ。この遺伝子がうまく作用すれば、およそ十日間ほどで暖かい体毛が生えて来るはずだという。太ったおばさん夫婦の蛇には、身体の中に起こって行くであろう大きな異変が予測されたため、蛇専用のベッドに縛りつけられたまま十日間を過ごした。

 「毛が生えて来てる!」
十日目の朝、目覚めた太ったおばさんの蛇は、自分の身体に毛が生えて来ているのを確認して、喜びの声をあげた。見ると、夫の蛇にも同じように毛が生えている。それらはまだ産毛だったが、太ったおばさん夫婦の蛇のほぼ全身を覆い尽くしていた。

 「やった! 成功じゃ! このあと、ご夫婦が性交すれば、ご夫婦の間に生まれて来る子供たちはみんな、ミンクのような毛を持つ蛇になるぞよ」
所長はまたしてもシャレを飛ばしながら大喜びしていた。所長のシャレは、いつも説明が必要になるくらいにわかりにくい。何はともあれ、所長が行った改良は、大成功を収めたのである。

 やがて、太ったおばさん夫婦の蛇の全身は、ミンクの毛皮で包まれるようになった。二匹の蛇が這っていると、高級なマフリャーが一人で勝手にもぞもぞと動いているかのようだった。

 太ったおばさん夫婦の蛇は、まもなく国立蛇研究所を出て、仲間たちのところへ戻った。二匹を迎えた仲間たちは、全身を毛皮で覆われた二匹を見て、驚きの声をあげた。
「大成功だ! これで人間たちと仲良くなれるぞ。ばんざーい、ばんざーい」
蛇たちは尻尾を取り合って大喜びした。更にありがたいことに、国立蛇研究所の所長からのプレゼントで、十日間飲み続けるだけで、太ったおばさん夫婦の蛇のような暖かい体毛を持つ蛇に生まれ変わることのできる秘薬を手土産に持たせてくれていたのだ。すべての蛇が我も我もとその秘薬を飲み、十日後には、すべての蛇に産毛が生えて来たのである。やがて、すべての蛇が高級なマフリャーに変身した。

 一方、人間たちの世界では、高級な毛皮に包まれた蛇が登場したということが広まり、大変な騒ぎになっていた。これまで気持ち悪いと思ってなかなか近づくことのなかった蛇が、高級な毛皮に身を包んだ動物に生まれ変わったのである。やがて蛇は、生きたまま捕獲され、値段がつけられ、マフリャーとして人間たちの首に巻かれるようになった。高級デパートのマフリャー売り場には、暖かい体毛に包まれた大蛇たちが並べられていた。彼らは人間たちの首を暖めることで、人間たちにかわいがられるペットとなったのである。これまで忌み嫌われる存在だった蛇たちにとって、こんなうれしいことはなかった。

 蛇たちは、人間たちのペットになると、おいしいものをたくさん食べさせてもらえることを知った。そして、これまで人間たちにかわいがられていた動物たちが、いかに優遇されていたかを知ったのである。蛇たちは、これまでにない待遇に浮かれていた。

 しかし、このような浮かれモードも、そう長くは続かなかった。冬の間は、首に巻かれて人間たちにかわいがってもらえる蛇たちだったが、蛇たちがもっとも生き生きと活動している夏の間は、マフリャーとしての役目を果たせないため、人間たちにかまってもらえないことが次第に蛇たちのストレスになって行った。また、夏の間、防腐剤の効いたタンスの中に仕舞われることに対して、不満を訴える蛇も出て来た。そして、とうとう、蛇のマフリャーを覆す、衝撃的な事件が起こったのである。

 それは、ある心ない人間の行為から始まった。彼女はとても裕福だったが、蛇に食べさせる餌を何とかして節約したいと思っていた。彼女がこれまで使っていた毛皮は、死んだ動物の毛皮だった。死んだ動物に餌を与える必要はない。蛇もそうあるべきだ。彼女はそう思い、使用人に命じてマフリャーの蛇を殺し、蛇の身体に生えている暖かい毛皮だけを剥ぎ取ったのである。そして、あたかも蛇が生きているかのように、蛇の模造品を作らせ、剥ぎ取った毛皮を貼り付けて、マフリャーとして首に巻いたのだ。

 人間たちにはわからなかったが、マフリャーとなって、別の人間たちの首に巻かれている蛇たちには、そのマフリャーがもはや生きている蛇ではないということがすぐにわかった。彼女は、マフリャーの蛇があたかも生きているかのように振舞い続けていたので、蛇たちはいよいよ不審に思った。そして、蛇の興信所を使って事実を調査したところ、自分たちの仲間が彼女の使用人によって殺されたことを知ることになるのである。蛇たちは、仲間の死を心から嘆き悲しんだ。

 彼女は、ある社交の場において、お酒に酔った勢いで、自分は死んだ蛇の毛皮を使っていると暴露した。すると、彼女の真似をする人がまたたく間に増えて行ったのである。人間たちは次々にマフリャーの蛇を殺し、暖かい毛皮だけを剥ぎ取って、蛇の模造品に毛皮を貼り付け、首に巻き始めた。多くの人間たちは、マフリャーの蛇の世話を面倒だと感じている上に、蛇に与える餌を節約したいと思っていたようだった。蛇たちは、この事実に強い衝撃を受け、もう二度と子孫を反映させないと誓った。

 「俺たちは、ずっと人間たちと仲良くなりたいと思っていたけど、人間たちが動物をかわいがる理由がやっとわかったよ。彼らは、自分たちの利益に繋がるかどうかで、どの動物をかわいがるかを決めるんだ」
最後に残った蛇が、恨み言のようにそう言って、森のどこかに去って行った。このようにして、暖かい毛皮を持ったマフリャーの蛇は、世の中から姿を消してしまったのである。

※皆さん、いつもたくさんの応援クリックをありがとうございます。m(__)m 動物に対する人間の愛情は、どこまでが本物なのでしょう。そもそも、動物を捕獲するという行為が、私には不自然に思えてなりません。ペットショップで動物を「買う」という行為にも、抵抗があります。ペットショップで「買って」、無責任に捨てられてしまう動物も、世の中には多いですよね。彼らは人間に対して、一体どのような感情を抱いているのでしょうか。餌を与えてくれる優しい人なのか、それとも、自分の都合のいいときだけかわいがってくれる人なのか。一度、彼らの気持ちを聞いてみたいものです。もしかすると、利用されているのは、私たち人間のほうだったりして・・・・・・。(^^;

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2006.11.16

マフリャー(前編)

 名古屋の人は、マフラーのことをマフリャーと言うのだろうか。そう思って「マフリャー 名古屋」という検索キーワードで検索してみると、かなりのサイトがヒットする。それはさておき、今日はマフリャーに関するショートショートをお送りしよう。

 蛇は、自分たちが人間たちに忌み嫌われる存在だということをはっきりと自覚していた。しかし、そのことは、蛇たちにとって大変不名誉なことだったのだ。何とかして人間たちに好かれるような存在になりたい。そこで、蛇たちは、皆で集まって会議を開いたのである。

 会議の席で、ある蛇が言った。
「人間たちが私たちのことを忌み嫌っているのは、私たちが体温を感じる存在ではないからじゃないだろうか」
それを聞いた別の蛇が口を開いた。
「なるほど。確かに、人間にかわいがられている犬や猫たちは、体温を感じられる存在ですね」
「その通りです。だから、私たちも体温を感じられる存在に生まれ変わればいいのです」
会議に参加している蛇たちは、これはいいアイディアだと思ったが、体温を感じられる存在に生まれ変わるのは、並大抵のことではないこともわかっていた。誰もそのことを口にしないでいると、中年の蛇が口を開いた。
「体温を感じられる存在に生まれ変わるのはかなり難しいと思います。せめて、人間たちに暖かさを与えられる存在になることはできないでしょうか」
それに対し、年配の蛇が口を開いた。
「そう言えば、人間たちにかわいがられている犬や猫には暖かい体毛がある。しかし、私たちには暖かい体毛がない。暖かい体毛さえあれば、人間たちにかわいがってもらえるのではないだろうか」
「なるほど! 体温を感じられる動物になるよりも、身体に毛を生やすほうがきっと近道に違いない」
「そうだそうだ!」
ほとんどの蛇が賛成意見で盛り上がっているところへ、水をさす蛇が出て来た。
「でも、暖かい体毛なんかなくても、熱帯魚のように、人間たちに気に入られている動物はたくさんいる」
せっかくいい案だと思っていたのに、水をさされてしまったので、蛇たちは揃ってため息を漏らし、やがてしんと静まり返った。しばらくすると、沈黙を破るかのように、のっぽの蛇が口を開いた。
「熱帯魚たちが人間たちに気に入られているのは、彼らの肌の模様が美しいからじゃないだろうか。それに、彼らは、人間が観賞するのに、手頃な大きさだ」
「なるほどなるほど。私たちは、肌の模様も美しくないし、大きさもまちまちだからね」
そう言うと、頭にリボンを付けたおしゃれな蛇が、
「あら、私の肌の模様は美しいですわよ」
と胸を張って言った。(作者注:実際のところ、蛇の胸がどこにあるのか良くわからない。)すると、おしゃれな蛇の隣で話を聞いていた蛇が、
「肌の模様は確かに美しいかもしれんが、お前さんには毒があるからねえ」
と言った。確かにその蛇の肌の模様は美しかったが、彼女は人間たちが最も恐れている毒蛇だったのである。
「ははあ、こういうところに人間が忌み嫌う原因があるのかもしれませんね」
学者タイプの蛇がそう言うと、おしゃれな蛇は、がくっとうなだれた。

 蛇たちは、長い時間、ああでもない、こうでもないと言いながら討論を繰り返していた。途中で何度も休憩を挟みながら、何時間も何時間も討論を続けた。やがて、討論に疲れて果てて皆が黙り始めた頃、
「マフリャー」
と誰かが言った。太ったおばさんの蛇だった。
「暖かい体毛を生やして、マフリャーになって、人間たちの首回りを暖めてあげればいいんじゃないかしら?」
彼女の瞳があまりにも輝いていたので、他の蛇たちの瞳にも輝きが移り、皆の瞳が次第に輝き始めた。すると、太ったおばさんの蛇とは対照的なやせっぽちの蛇が口を開いた。
「そう言えばおいら、以前、大きな病気をして、国立蛇研究所にお世話になったことがあるんだ。おいら、あそこの所長にとても世話になって、今でも交流があるから、相談してみようかな?」
「国立蛇研究所? そこに行けば、毒を取ってもらった上に、私たちにも暖かい体毛が生えて来るっていうのかい?」
「うん。日本で一番有名なところだから、大丈夫だと思うよ。そこの所長さんは、おいらたちのこと、何でも知ってるよ。おいらが知らないことまでさ。これはおいらの考えだけど、おいらたちの中から代表で男の蛇と女の蛇を一匹ずつ選んで、国立蛇研究所に連れて行って、暖かい体毛のある蛇に改良してもらうんだ。すると、その二匹の蛇から生まれるすべての子供には、暖かい体毛が生えるってわけさ。もちろん、毒を抜くこともできるはずだよ」

 その提案に対し、会議に参加していた蛇たちの間で一斉にどよめきが起こった。一体どの男女が国立蛇研究所を訪れるのか? 「俺が行く」、「お前が行け」、「私が行くのよ」。まあ、とにかく、やんややんや大騒ぎになった。しかしやはり、選ばれるのは、夫婦の蛇で訪れなければ意味がない。そうして、更にやんややんやと言いながら、蛇たちは一組の夫婦を選び出したのである。それは、マフリャーの言いだしっぺの太ったおばさんの蛇とその夫の蛇だった。

 「じゃあ、よろしく頼むよ」
仲間たちに期待を背負って送り出された太ったおばさん蛇の夫婦は、照れながらも、やせっぽちの蛇に案内されて、蛇の目(じゃのめ)町にある国立蛇研究所へと向かった。

 やせっぽちの蛇は、国立蛇研究所の所長の前で、仲間たちとの会議で決めたことを話して聞かせた。
「おいらたちのような蛇が、人間たちから忌み嫌われている存在だということは、所長さんもご存知のことと思う。でも、おいらたちは、これ以上、人間たちに忌み嫌われた存在であり続けるのはもう嫌なんだ。人間たちと友好的な関係を築きたいと思っている。そこで、どうしたらおいらたちが人間たちと仲良くできるか、仲間たちと会議を開いたんだ。その結果、人間たちに忌み嫌われているのは、おいらたちが暖かい体毛を持っていないからだという結論に達した。そこで、所長さんにお願いなんだけど、そこにいる蛇の夫婦に改良を加えて、暖かい体毛を持つ蛇にして欲しいんだ。そして、今後その夫婦から生まれるすべての蛇たちが、暖かい体毛を持つ蛇であるようにして欲しい。それから、どんな蛇も、毒を持たないようにして欲しい。おいらたちは、人間たちが寒いときに首に巻きつけるマフリャーに生まれ変わって、人間たちの役に立ちたいんだ。とにかく俺たち、人間たちと仲良くなりたいんだよ」
やせっぽちの蛇の熱弁にじっと耳を傾けていた国立蛇研究所の所長は、傾いた耳を元に戻しながらこう言った。
「それはそれは、思い切ったことを思いついたもんじゃね。人間たちとのこれまでの関係ではご不満なのかね? 長いものには巻かれろって言うじゃないか。しかも、こんなヘビーな話」
「・・・・・・」
「ん? 面白くないかえ? 一応、シャレを言っておるつもりなんじゃが」
「シャレなんて言ってないで、真剣に相談に乗っておくれよ」
「わ、わかったよ。そちらの蛇のご夫婦を暖かい体毛を持つ蛇に改良してあげよう。今後、このご夫婦の蛇から生まれる子供たちも、暖かい体毛を持つ蛇にしよう。それから、牙から一切の毒を排除しよう。これでいいのかえ? ああ、おやすいご用じゃよ。だから、これに対する謝礼はいらんよ」
「それを言うなら、シャレはいらんよ、じゃないの」
「何、何? 文句あるのかえ?」
「いや、ないない。所長さん、どうかこの二人をよろしく頼むよ!」

 こうして、やせっぽちの蛇は、蛇の夫婦をシャレ好きな国際蛇研究所の所長に預け、仲間たちのところへ帰って行った。

(明日の記事に続く)

※皆さん、いつもたくさんの応援クリックをありがとうございます。m(__)m またしても、はちゃめちゃなショートショートを書いてしまいました。それにしても、何故でしょう。最近、何か一つの存在や出来事を思い浮かべるだけで、思考がどんどん広がります。おかげ様で、楽しみながら記事を書かせていただいています。皆さん、ありがとうございます。一気に書き上げるつもりで書き始めたのですが、長くなってしまったので、前編と後編に分けてお届けします。この結末は、いかに?

さて、今回も記事の中にボタンを埋め込ませていただきますが、どうぞよろしくお願い申し上げます。

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2006.11.14

整体ジム

 私が書いているのは、寓話というよりもショートショートと表現することのほうが相応しいことに気がつき、先日より新たに設置した「寓話」カテゴリを、「ショートショート」カテゴリに変更させていただいた。今回は、ひどく背骨の曲がったレントゲン写真から想像を膨らませながら書き上げたショートショートをお送りしよう。

 ひどく背骨の曲がったレントゲン写真を見た私は、「またか」と思いながら深いため息をついた。私の背骨は、いつまで経ってもまっすぐにはなってくれない。ホットヨガにも背骨の歪みを調整するポーズがあるが、それだけだけでは全然足りないのかもしれない。

 支払いを済ませて病院を出ようとすると、レントゲン撮影をしてくれた技師が私のほうをチラチラ見ているのに気がついた。見ると、何やら手にちらし寿司、いや、チラシを持っている。私が視線を送ったのに気がついたレントゲン技師は、さりげなく病院を出て来て私に近づいて来た。
「良かったら、これ、どうぞ。今、歳末セールをやっていて、いつもよりもいい器具を使えるようになってます」
レントゲン技師はそう言って、私に一枚のチラシを差し出した。いかにもパソコンを使って手作りしたと思われるそのチラシには、「整体ジム」と書かれている。

 「何ですか? 整体ジムって?」
とチラシを受け取った私が尋ねると、
「世間一般の整体医院は整体師さんが患者さんを治すでしょ。整体ジムはそうじゃなくて、整体できる設備を患者さんにお貸しして、ご自分で身体の歪みを矯正していただく施設のことです。私の兄が経営しています。あなたの背骨、かなりかなり醜く曲がってますよね? 一度利用されてみてはいかがですか?」
なるほど、レントゲン技師は、撮影ばかりでなく、現像も担当していたのだ。だから、私の背骨がひどく曲がっていることを知って、このような勧誘をして来たのだろう。

 レントゲン技師から手渡されたチラシには、整体ジムと名づけられた施設に三日間通うだけで、背骨がまっすぐになると書かれている。
「本当に背骨がまっすぐになるんですか?」
と半信半疑で私が尋ねると、
「もちろんですよ。土日もやってますので、三日間なら、一日だけお休みを取られて通うことができるでしょう。あなたのその背骨じゃ、ホルモンバランスが崩れてしまうのは無理はない。あなた、婦人科系の疾患があるんじゃないですか?」
私はぎくりとした。確かに私には婦人科系の疾患があり、二つの女性ホルモンのうち、エストロゲンが過多になってしまっている。そのため、分泌が少なくなってしまったもう一つの女性ホルモンであるプロゲステロンをアメリカから個人輸入した天然のホルモンクリームで補っている。
「背骨がまっすぐにならないと、いつまで経っても女性ホルモンのバランスは取り戻せませんよ」
とレントゲン技師は言った。
「整体ジムでは、どのようなことをするのですか?」
と私が尋ねると、レントゲン技師は、
「そこに出向いてもらって、一日十五時間、矯正器具にぶら下がって背骨を矯正するんです」
と言った。
「一日十五時間?」
私は驚きのあまり、すっとんきょうな声をあげた。
「それじゃ、仕事があるので、私はこれで。整体ジムは、あなたのような方のお越しをお待ちしていますよ」
そう言って、レントゲン技師は病院に戻って行った。

 私は、帰りの電車の中でレントゲン技師からもらったチラシをしげしげと眺めた。現在は幸いにして、比較的仕事も穏やかだ。月曜日に一日くらい休みをもらっても大丈夫じゃないだろうか。ひどく曲がった背骨をまっすぐにしたい私は、頭の中でそんなことを考えていた。

 帰りにガンモと待ち合わせてチラシを見せると、
「そんな胡散臭いところに行くのはやめろ」
と反対した。しかし私は、短期間で背骨をまっすぐにしたい一心で、月曜日に有給休暇を取り、整体ジムに予約を入れたのである。電話に出たのは、「さしすせそ」の発音がひどく不自然な中年男性だった。

 電話を掛けてみてわかったことだが、三日間、毎日ジムに通うのかと思っていたところ、帰宅しないで整体ジムに宿泊し、もっと集中的に矯正する方法もあると言う。そうすれば、三日間の矯正が二日間に縮まると言うのだ。私は一泊だけならと、宿泊コースを選んだ。

 チラシに描かれている地図で示された駅で降りて、地図通りに歩くと、整体ジムの看板が見えて来た。何やら怪しげなプレハブ式の古びた建物である。一歩足を踏み入れると、体育館の用具室のような臭いがした。恐る恐る、受付の呼び鈴を鳴らすと、中からジャージを着たおじさんが出て来た。その人が、整体ジムのオーナーであり、レントゲン技師のお兄さんだった。
「いらっしゃいませ。お待ちしていました。さあ、どうぞ。まず、こちらの書類に必要事項を書き込んでください」
オーナーは、上の前歯が欠けていた。それで、「さしすせそ」の発音が不自然だったようである。私は、案内されるまま、ひとまず椅子に座り、書類に目を通しながら必要事項を書き込んだ。宿泊コースの欄に○をつけて、書類に住所と名前を記してオーナーに渡した。料金は前払いと言われたので、その場で支払いを済ませた。
「ありがとうございます。それでは、ご案内致します」
オーナーはそう言って、私をジムの中に案内した。ジムの中は広い体育館のような部屋で、数人の人たちが矯正器具を使いながらうごめいていた。私は、その異様な雰囲気に圧倒された。ダイエットのためなのか、お腹の上に大きな石を置いている女性がいる。
「あの方は、お腹の脂肪を取ってしまいたいのです。中高生のときに、布団の下に制服を敷いて寝てたでしょ。あの感覚ですよ。すぐにぺちゃんこになるでしょう」
他にも、口の中に太い金具を突っ込んでじっとしている人や、重い石を背負いながら、イボイボの石を足で踏みつけている人がいた。オーナーは、驚いている私を更衣室に案内した。
「ここで楽な格好に着替えて、また戻って来てください。それまでに、あなたが使う器具を用意しておきますからね」

 着替えたあとに更衣室から出ると、オーナーが器具を用意してくれていた。それは、ベッド付きのぶら下がり健康器のようなものだった。
「今、歳末セールをやっているので、ちょっと奮発してみました。いつもなら、あちらの器具を使っていただくんですけどね」
オーナーは、そう言いながら、右手にある鉄棒のような器具をあごで指して言った。それは、ベッドの付いていないぶら下がり健康器だった。今回は、ベッドが付いている分、サービスということらしい。つまり、ベッドが付いているために、矯正中でもそのまま眠ることができるのだ。しかも、そのベッドの中には、立ったまま用を足せる簡易トイレまで付いていた。トイレさえついていれば、わざわざ器具から離れることなく、矯正に専念できるというわけである。

 私は恐る恐る器具にぶら下がった。背中にベッドがあるために、ぶら下がるにしてもかなり楽チンである。おまけに簡易トイレは、下着の中に大小二つの管を通すだけで使用することができた。その器具は、一見、ぶら下がり健康器のようではあるが、手でぶら下がっても全体重が手にかかることのないように、足でも支えられるよう、工夫されていた。支ええる比率は、手が六十パーセント、足が三十パーセント、ベッドが十パーセントといったところだろうか。しかも、ぶら下がった両手も止め具でがっちりと上から固定されるので、思いのほか楽チンだったのである。

 こうして私は、まるまる二日間、曲がった背骨の矯正のために、その器具にぶら下がり続けた。初めて簡易トイレで用を足すときは、水着を着たまま海の中でおしっこをするような気持ち悪い感覚に襲われたが、それも回数を重ねるごとに慣れて来た。また、身動きが取れなくても、六時間ごとにオーナーが食事を取らせてくれるので、空腹に悩まされることもなかった。

 四十八時間ぶら下がり続けた私は、無事に背骨の矯正を終え、ぶら下がり健康器から離れることになった。固定されていた止め具が外され、両手が自由になった。簡易トイレの管も外され、私の足は四十八時間ぶりにジムのコンクリートの地面を踏みしめた。確かに背骨の不快感がなくなっている。短期間で背骨がまっすぐになるなんで、本当に素晴らしい! と、そのときである。何やら自分の身体に異変が起こっていることに気がついたのである。手が伸びているのだ。

 私は慌てふためいた。手をだらんと身体の側面に下ろしてみると、自分の手の平が地べたに付いた。
「うわああ! オーナー、私の両手が伸びてしまっています!」
私は絶叫した。オーナーは顔色一つ変えず、
「なあるほど、あなたの体重なら、わずか一日半の矯正で良かったのかもしれませんね」
とつぶやいた。
「いやいや、ちょっと待ってくださいよ。どうしたら元に戻るのですか? 何とかしてくださいよ!」
私は金切り声をあげた。すると、オーナーは、落ち着き払ってこう言ったのだ。
「手を短く矯正するプログラムがあります。重い石を二日間、頭の上で持ち上げ続けるのです」
「また矯正ですか! もう、いい加減にしてください!」

 私は結局、手を短くする矯正にもトライする羽目になった。しかし、今度は石が重すぎて、手が短くなり過ぎてしまった。そこで再び手を長くする矯正を行ったが、今度は左右の長さが違ってしまい、それを矯正するために、あれやこれや・・・・・・。そうして私は、ジムから出ることができずに、この記事をジムの中で書いている。ああ、いつになったらガンモに会えるのだろう・・・・・・。

※皆さん、いつもたくさんの応援クリックをありがとうございます。m(__)m 根本的な治療を行わなければ、一つだけ治しても、どこか別のところがおかしくなるといったことが多々ありますよね。この話は、そういうことを表現したショートショートでした。このような勧誘はないと思いますが、時間がかかるはずの処置を短時間で行おうとする場合、何か落とし穴があるかもしれないということの教訓でもあります。長い文章を読んでくださってありがとうございました。m(__)m

さて、今回も記事の中にボタンを埋め込ませていただきますが、どうぞよろしくお願い申し上げます。

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2006.11.10

着メロのおかず

 今日は、昨日書いた耳コピーに思うをショートショートでお届けしよう。

 ある男女がお見合いの席で出会った。最初はもじもじして接点を見つけられなかった二人だったが、話が趣味の話題に及んだとき、二人の会話は一気に弾んだ。

男:「ところで、ご趣味は何ですか?」
女:「とても恥ずかしいのですが、着メロ作りでございます」
男:「えっ? 着メロ作り・・・・・・? それは意外ですね。どのようにして着メロを作っているのですか?」
女:「はい。好きな音楽や気になる音楽を耳で聴いて覚えては楽譜に起こして、着メロに変換するのでございます」
男:「なるほど。でも、着メロと言っても、携帯電話の会社や機種によって、ファイル形式が異なると思うのですが・・・・・・」
女:「はい。作るときは、MIDIシーケンサに向かって音符を打ち込みます。そのようにして出来上がったMIDIファイルを着メロ用のファイルに変換するのです」
男:「なるほど。それならわかります」
女:「そう言えば、お勤めは○○電機だということですが、十五時になると、こんな音楽が流れませんか?」

 女はそう言って、おもむろに自分の携帯電話を開き、着メロを聞かせた。

男:「おおっ! これは驚いた。私の会社の体操の音楽ですよ。もしや、あなたがこれを着メロにされたのですか?」
女:「はい、そうです。以前、○○電機に派遣されていたことがありますので」
男:「なるほど、これは愉快だ。よろしければ、その着メロファイルをいただけませんかな?」
女:「おやすいご用です。では、こちらのサイトにアクセスして、ダウンロードしてください」

 自然な流れの中で、男と女はメールアドレスを交換し合い、男は女が手作りしたという着メロの体操の音楽をダウンロードして自分の携帯電話に取り込み、会社の人気者になった。中には、男の携帯電話が鳴ると、体操を始めてしまう同僚もいた。

 男と女は体操の音楽の着メロをきっかけに急接近し、やがて二人は愛し合うようになり、結婚した。プロポーズの言葉は、「着メロのように、二人で人生の和音を奏でよう」だった。

 結婚して家庭に入った妻は、やがて自分が作った着メロを食卓に並べるようになった。おかずを作るよりも、着メロを作るほうが好きなのである。食卓に並べられた着メロは、口に含む度に、美しい音色を奏でた。

夫:「おや、この着メロは、少し辛いみたいだね」
妻:「あら、そう? ちょっと待っててね。作り直して来るから」

妻はそう言うと、パソコンの前に座り、真剣な顔つきでMIDIシーケンサを操作した。

妻:「ええと、ここをこうしてと・・・・・・」

しばらくMIDIシーケンサと格闘していた妻は、再び食卓に戻り、お皿の上に作り直した着メロを盛り付けた。

妻:「これでどうかしら。第二十三小節からのトランペットのボリュームが大きかったので、少し絞ってみたの」
夫:「うん、なかなかいいよ。これならいける」

 夫はそう言って、お皿に盛り付けられた着メロをもぐもぐとおいしそうにたいらげた。

 妻は着メロを作り、毎日食卓に並べる。仕事から帰宅した夫は、妻の作った着メロをおかずにして、おいしそうにご飯を食べる。しかし、料理に得意分野があるのと同じように、妻には着メロ作りの得意分野と不得意分野があった。

夫:「おや、今日もロックかい」
妻:「そうよ。たまには水割りにする?」
夫:「いや、そうじゃなくて、着メロの分野。日本のフォークソングもなかなかいいぞ」
妻:「そうね。私も日本のフォークソングは大好きよ。熱いエネルギーを感じさせてくれるから」
夫:「そう言えば、クラシックの着メロはビタミンやミネラルが豊富らしいね」
妻:「噂にはそう聞いているけど、私にはクラシックは難しいわ」
夫:「まあ、人には向き、不向きってものがあるからね」
妻:「ロックばかりだと、栄養が偏っちゃうかしら」
夫:「まあ、栄養が偏ったとしても、個性だと思えばいいさ」
妻:「ありがとう。愛しているわ、あなた」
夫:「僕も愛しているよ。これからも、同僚があっと驚くような着メロを作り続けておくれ」

 着メロをきっかけに結ばれた二人は、いつまでも幸せに暮らしたという。

※皆さん、いつもたくさんの応援クリックをありがとうございます。m(__)m ようやく週末になりました。急に寒くなって来たので、体調管理には充分気をつけましょう。私は、手洗いやうがいを心がけているせいか、年間を通してほとんど風邪を引かないのですが、先日、オフィスで喉が痛いと言っている人に、「うがいをしたら?」と言ったところ、驚かれてしまいました。彼女にはうがいをする習慣がないようです。少し喉がイガイガする程度のときは、うがいをするだけでウィルスを追い出すことができますので、皆さんもどうかお試しくださいませ。

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2006.11.07

デジタルとアナログ

 世の中にデジタルが浸透しつつあるのに、すべてがデジタル化されないままでいるのは、私たちを取り巻く環境や私たちの存在自身がアナログだからだ。しかし、もしも私たちを取り巻く環境や私たちの存在自身もデジタルならば、以下のようなことも起こり得るのではないだろうか。今日は、昨日の転勤の話にちなんで、私たちを取り巻く環境や私たちの存在自身もデジタルだったらどうなるかという仮定のもとに大きく想像を膨らませながら、「ショートショート」をお届けしたい。

 私たちを取り巻く環境や私たちの存在自身がデジタルならば、例え会社から転勤を言い渡されたとしても、悲劇的に感じることなく、簡単に住居を変更することができる。インターネットを使って住民管理システムにログインし、転勤先の会社に近い空き地を選択し、移動日時を指定したあと、移動ボタンを押すだけである。仕事を休んで住民票を更新しに行く手間も必要なければ、家の売却について不動産業者に相談する必要もない。また、引越し屋さんに荷物を運んでもらう必要もないので、面倒な荷物の梱包も不要である。ボタン一つで、現在の住居をそのまま移動させることができる。

 転出元や転入先のご近所さんたちへのごあいさつも、ご近所さんたちのメールボックスに、デパートのサイトから電子マネーを支払ってダウンロードした引越し用のご挨拶アイテムを添付して送付するだけである。

 また、私たちは、携帯電話のように、自分自身をカスタマイズすることができる。引越しをすれば、自分自身のコントロール画面を開き、使用する言語を選択することができる。まず、日本語、英語などの母国語カテゴリがあり、その下に標準語、大阪弁、京都弁、神戸弁、広島弁、岡山弁、名古屋弁などの方言のカテゴリがある。方言は、居住する場所に関係なく、自分の好きな方言を選択して良い。

 睡眠時間に関しては、起床時間と就寝時間を設定しておくだけで、毎日、同じ時間に起床し、就寝するという規則正しい生活を送ることができる。食べ物に関しては、充電式なので、バッテリさえ持つならば、一日中でも活動し続けることができる。自宅の専用ベッドの中で就寝している間に充電することもできれば、コンビニエンスストアの中に設置された休憩所で仮眠を取りながら充電することもできる。

 毎日の着替えはアバター形式になっている。衣料品店のサイトから、季節に合わせて電子マネーを支払ってダウンロードした服をクローゼットにストックしておいて、日替わりで着用する。アバターでは、髪型のほか、顔の表情まで選ぶことができる。

 結婚相手は、結婚したいと思い立ったときに、結婚相手紹介サイトにアクセスする。結婚相手紹介サイトは、住民管理システムの個人情報とリンクしているため、結婚したい相手の条件を登録しておけば、相手はすぐに見つかる。

 条件に合った相手と出会い、結婚したあと、うまくやって行くことができなくても、決して泣いたり悲しんだりする必要はない。アバターの服を着替えるように、結婚相手を何度でも取り替えることができる。その代わり、運命的な出会いにむせび泣くこともない。

 電子マネーは、労働したり奉仕すると、ポイントとしてもえらる。行動に応じて、いつの間にかポイントが溜まっているのである。自分にどのくらいのポイントが残っているのか、住民管理システムにログインしてチェックしておくと良い。

 さて、ここまで書いてみて、アナログとは、誰かと相対的な関係を築いたり、喜怒哀楽を感じたり、時間を掛けたりすることだということがわかる。悩みがあるのも、私たちがアナログの人間だからだ。喜びがあるのも、私たちがアナログの人間だからだ。木枯らし一号に吹かれてひどく寒いと感じるのも、私たちがアナログの人間だからだ。アナログの人間だから、これまで住んでいた環境を手放すことは一筋縄では行かない。新しい場所に、これまでの環境をごっそり連れて行くことができない。家ごと引っ越しをすることができない。

 また、デジタルは、バーチャルに置き換えることもできる。つまりは仮想なのである。デジタルの良さとは、タフであること、処理のスピードが速いこと、正確であること、人間の限界を超えた処理が可能なこと、同じ処理の繰り返しができること、多くの正確な複製を作り出すことができるところにあるのではないだろうか。しかし、それは電気と同様、0か1の世界で、まったく動作しないか、快適に動作するかのどちらかである。決して、その中間の状態はない。アナログの世界は、時には0にも1にもなり得るし、また、0と1の中間を彷徨い続けることもある。

 転勤を打診され、
「わかりました。行きます」
と即答できるのは、デジタルだと思う。0と1の中間の世界を彷徨えば、即答なんてできるわけがない。デジタルは、見た目は美しいが、0と1の間にあるものを削ぎ落としてしまっているということを忘れてははならないのではないか。デジタルなものを仕事で生み出し続けている私はそう思うのだった。

※皆さん、いつもたくさんの応援クリックをありがとうございます。m(__)m かつて、文章を書くことが好きだと宣言しましたが、毎日綴っているエッセイの他に創作という形を取るならば、その中でも「ショートショート」や「寓話」を書いて行きたいと思いました。私のサイトでも、いくつかの「ショートショート」や「寓話」を公開しているのですが、どれも気合の入っていないものばかりであります。(苦笑)今回、アナログの大切さをデジタルを引き合いに出すことで述べてみましたが、逆説的な方法は、大切なものを表現しやすいと気がつきました。寓話の多くが逆説的な表現方法を取っているのは、そのほうが表現しやすいせいかもしれませんね。

さて、今回も記事の中にボタンを埋め込ませていただきますが、どうぞよろしくお願い申し上げます。

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