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2010.05.04

一人、また一人(8)

映画『アイガー北壁』の記事に応援クリックしてくださった皆さん、どうもありがとうございます。m(__)m 本作は、ドイツ、オーストリア、スイスの合作映画となっています。もともとドイツは山岳映画の製作が得意な国だったらしく、登山に関して素人の私が観ても、ずいぶん専門的な描写だと感じました。さて、それでは、一人、また一人(7)の続きを書かせていただきますね。なお、このあとこの話題はいったんお休みさせていただき、この続きは週末を中心に書かせていただくことにします。

 派遣契約が打ち切られることになった派遣仲間は、仕事の引継ぎの都合により、三月いっぱいまでと言われていた派遣契約期間が四月半ばまで延長された。私ともう一人の派遣仲間は、プロジェクトメンバ全員が参加する彼女の送別会が開催されることを望んでいた。しかし、こうした送別会の提案は、彼女の直属の上司が率先して行うべきだとも思っていた。というのも、派遣社員の管理はすべて、それぞれの直属の上司に委ねられていたからだ。言い換えれば、派遣社員にはそれぞれ直属の上司がいるのに、彼女の直属の上司を差し置いて、私たち派遣社員が率先して彼女の送別会を企画することは憚(はばか)られたのだ。そこで私たちは、彼女の直属の上司が、彼女の送別会の開催に向けて動き始めるのを静かに待っていた。

 ところが、タイムリミットが次第に近付いて来ているというのに、彼女の直属の上司は彼女の送別会開催について何の動きも示さなかった。もしかすると、彼女が最も契約を打ち切られてはいけない立場であるがゆえに、送別会を企画することをためらっているのかもしれない。しかし、彼女は本当は、お酒を飲むのが好きなタイプなのだ。彼女の直属の上司はそのことを知らないのかもしれない。私はそう思い、思い切って彼女の直属の上司に話し掛け、彼女の送別会を企画してもらえるように打診してみた。

 やはり、彼女の直属の上司は、彼女の立場を考え、彼女の送別会の企画をためらっていたようだ。そこで私は、彼女が本当はお酒を飲むのが好きであることを彼女の直属の上司に伝えた。それを聞いた彼女の直属の上司は、彼女の送別会を企画すると約束してくれた。

 かくして、彼女の送別会が行われることになった。開催場所は、職場近くの居酒屋である。驚いたことに、プロジェクトメンバ全員に相当する十人が彼女の送別会に参加した。もともと私の参加しているプロジェクトは、プロジェクトメンバ同士のコミュニケーションが活発ではない。以前も書いたように、出社時や退社時のあいさつも交わさなければ、旅行のお土産を配っても、「どこに行って来たの?」と尋ねられることもない。普段から、そうした無機質な関わり方をしているため、飲み会が開催されたとしても、みんなとても大人しい。

 ところで、居酒屋のメニューに映画『ゼブラーマン』シリーズの関連メニューが用意されていた。何を隠そう、私はゼブラーマンなるものを知らなかったので、最近、映画館で観る予告編にゼブラーマンなるものが登場しているが、あれは一体何なのだと、すぐ近くに座っていた私の直属の上司に尋ねてみた。私の直属の上司は、私が普段から映画館に足繁く通っていることを知っていたので、逆に私がゼブラーマンを知らないことについて驚いていた。そのとき、私は思った。私の周りにいる人たちの目に映っている私というのは、単に映画を良く鑑賞している人という印象でしかないのだと。実際、私がどのような映画を好んで鑑賞しているかについては、ほとんど知らないのだ。だから、私が普段、好んで鑑賞しないようなアクション映画やヒーローものやアニメやエンターテイメント性の高いアメリカ映画などを鑑賞したかと尋ねて来る。読書が好きな人だって、どんな本でも読むわけではないはずだ。それなのに、映画をたくさん鑑賞しているというだけで、どんな映画でも鑑賞していると思われてしまうのは、人間関係をそれ以上深くしようとせず、単に大きなカテゴリだけで捉えて満足してしまっているように思える。そのため、私はいつも、職場における人間関係に渇きを覚えている。

 さて、普段は大人しいプロジェクトメンバも、お酒が入って来ると次第に大胆になって来た。私は、自宅ではほとんどお酒を飲まないが、お酒は割と強いほうである。最初のうち、お酒の好きな直属の上司とほぼ同じペースで飲んでいたのだが、そのうち直属の上司のペースを追い越してしまった。

 金曜日の夜だったので、居酒屋からは二時間の時間制限が設けられていたのだが、お酒を飲んで大胆になったためか、二時間を過ぎても送別会はお開きにならなかった。しかも、部屋にカラオケの設備があったため、普段は大人しい直属の上司が先頭を切って一曲歌うと、他のプロジェクトメンバも次々にカラオケで歌い始めた。私も調子に乗って、主に昔のアニメソングを歌った。

 普段は世代のギャップなど感じることなく話をしているというのに、カラオケが始まると、たちまち世代のギャップを感じてしまった。思えば、派遣仲間の中で最も年齢が高いのは私で、そのすぐ下の派遣仲間でも私と十歳ほど離れている。何を隠そう、直属の上司だって、私よりも二つ年下である。プロジェクトメンバの中で最も多いのは、私よりも二歳~四歳年下の四十代前半の男性社員である。唯一の救いは、上司のまた上司が私よりも六歳年上であることだ。

 四十代前半の男性社員の方たちには、私の歌った昔のアニメソングが通じたようなのだが、十歳以上も年の離れた派遣仲間たちには、私の歌った歌がちんぷんかんぷんだったそうだ。ショックだったのは、十歳年下の派遣仲間に、ザ・フォーク・クルセダーズの「イムジン河」をまったく聞いたことがないと言われたことである。私だって、ザ・フォーク・クルセダーズはリアルタイム世代ではないが、生まれてこのかた、「イムジン河」を一度も耳にしたことがないという世代もあり得るということに驚きを覚えた。

 カラオケは大いに盛り上がり、時計を見ると、いつの間にか二十三時を回っていた。かつて、残業が認められていた頃は、まさしくこれくらいの時間まで残業をして帰宅していたこともあったが、この時間に帰宅するとなると、私の場合、午前一時近くになってしまう。それでも、金曜日の夜だったので、私は眠い目をしょぼしょぼさせて、カラオケで受けたジェネレーションギャップの余韻を引きずりながら店を出た。

 愚かなことに、店を出て初めて、送別会の開催中に誰一人として、今回の主賓である派遣契約を打ち切られる派遣仲間に対し、お疲れ様の一言も言っていないことに気が付いた。そこでまたしても私が提案し、上司のまた上司に、彼女に対する餞(はなむけ)の言葉をお願いした。上司のまた上司は、意外にもあっさりと、彼女に対してお疲れ様と言い、今日で終わりではなく、まだ数日残っているので、それまでよろしくお願いしますと締めくくった。

 こうして彼女の送別会を終えたわけだが、実はその後に行われた別の飲み会で上司のまた上司と一対一で話す機会があり、今回のこと、すなわち、彼女の派遣契約を打ち切らなければならなかったことは、上司のまた上司にとって本当に辛いことだったと聞かせてくれた。こうした大切な話は、例え飲み会の席であっても、一対一で話をしているときに行われる。私は、彼女の送別会のときにも、上司のまた上司からその言葉が聞きたかったと思った。もしも彼女自身が、上司のまた上司からその言葉を直接聞いていたならば、もう少し楽な気持ちで辞めて行くことができたかもしれないと思うと、少し残念に思えたのだった。

※皆さん、いつもたくさんの応援クリックをありがとうございます。m(__)m 思えば、私の参加しているプロジェクトは、受身の人が多いですね。そのため、何か思うことがあっても、なかなか発言しない人が多いようです。ちなみに、私は派遣社員という立場ではありますが、普段からかなり発言しているほうであります。(苦笑)そういう雰囲気のプロジェクトですので、送別会の最中に、送別される側の派遣仲間に対し、お疲れ様の一言もなかったとしても、妙にうなずけてしまうのです。(苦笑)

さて、今回も記事の中にボタンを埋め込ませていただきますが、どうぞよろしくお願い申し上げます。

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