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2009.07.12

患者で溢れ返るクリニック(後編)

患者で溢れ返るクリニック(前編)の記事に応援クリックしてくださった皆さん、どうもありがとうございます。m(__)m 長い長い記事を読んでくださり、感謝致します。今回、後編を書かせていただきましたが、こちらも長くなってしまいました。記事を三回分に分けたほうが良かったかもしれません。それでは、婦人科の雰囲気をたっぷりと味わってくださいませ。

 順番が近くなったとの電話連絡を受けて、待合室の椅子に再び腰を降ろしたものの、私の名前はなかなか呼ばれなかった。私は十五時から予約している映画のことが気になり、何度も何度も時計を見ては現在時刻を確認した。待合室にいる人たちが名前を呼ばれても、すぐに診察というわけにはいかず、いったん中の待合所に入っている。クリニックの人たちは、その待合所のことを「中待合(なかまちあい)」と呼んでいた。

 「○○さん、中待合へどうぞ」
ようやく私の名前が呼ばれたのは、電話連絡を受けてから三十分以上経過した頃だったろうか。中待合と呼ばれる椅子に腰掛け、再び名前が呼ばれるのを辛抱強く待った。さすがにこの頃になると、私の中では待つことに対し、そろそろうんざりし始めていた。午前中のうちに検査を受けて、午後には映画三昧の予定だったはずが、家を出るのがすっかり遅くなってしまい、クリニックに着いたのは十一時過ぎだった。ところが今はもう十四時を回っている。すなわち、三時間以上も順番待ちをしていることになる。これほどまで患者さんが多いのは、やはり女医さんだからなのだろうか。そんなことを思いながら、私はあともう少しと自分に言い聞かせながら、根気強く中待合で順番待ちをしていた。

 私と一緒に中待合に呼ばれた患者さんが診察を終えて出て来た。いよいよ私の番かと思っていると、ようやく私の名前が呼ばれた。この瞬間をどれだけ待ち焦がれたことだろう。診察室に入ると、気さくな雰囲気の院長が私に話し掛けてくださった。I医師の紹介状を持参していたので、I医師のことが会話に出て来た。私は、
「健康診断では子宮頸がんの検診しか受けられないので、I先生に子宮体がんの検査の必要性をお尋ねしたところ、不正出血がある人と子宮が大きい人は受けておいたほうがいいとのことでしたので、自宅からも近いこちらをご紹介いただきました」
と言った。すると院長は、
「子宮体がんの検査は、必ずしも有効な結果をもたらすというわけではないですが、それでもよろしいですか? それから、子宮が大きいから子宮体がんの検査が必要というわけではないんですね。子宮体がんの検査が必要かどうかは、エコーで子宮の様子を診るという方法を取っていますが、よろしいですか?」
とおっしゃった。それに対し、私は、
「はい、それでかまいません。お願いします」
と答えた。

 すると、カーテンで仕切られたスペースに案内された。そこには、婦人科特有の足を広げて座る椅子があった。その奥で下着を脱ぎ、バスタオルで下半身を覆いながら台の上に座るように指示された。健康診断で行う子宮頸がんの検査もそうだが、子宮体がんの検査もまた、このような足を広げて座る椅子に座って行うのである。

 子宮頸がんは子宮の入口付近の細胞を採取するが、子宮体がんはもっと奥にある細胞を採取するため、検査の機械が膣の中に入ると痛みを感じることがある。検査の機械が膣の中に入ったときに傷みを感じるかどうかは、婦人科の医師の腕による。私はこれまで、何度か子宮体がんの検査を受けているが、痛みを感じたことはなかった。

 私の準備が整うと、カーテンで仕切られた婦人科特有の椅子のところに院長が入って来られた。院長は、私が筋腫の手術をしぶっている理由について質問を浴びせながら、子宮体がんの検査を行った。私は、院長の質問に対し、
「手術は根本原因を取り除くわけではないので、治療ではないと思うからです」
と答えた。すると院長は、
「じゃあ、子宮ごと取るのはどうなの?」
と更なる質問を投げかけて来た。私は、
「実は、麻酔も苦手なんです」
と答えた。すると院長は、
「わかった。どうしても切りたくないというポリシーがあるんやね」
とおっしゃった。その間に検査の機械が膣の中に入って行ったが、院長と話をしているうちに、まったく痛みも感じることなく検査は終わってしまった。

 気さくな雰囲気の院長に、私はいつの間にか魅了されていた。何故、初めて出会ったばかりの私に、こんなにも友好的に話し掛けてくださるのだろう。しかも、水曜日の診察は、他の女医さんたちと一緒というわけではなく、院長が一人だけで精力的に患者さんたちを診ていらっしゃるのである。待合室の混雑からすれば、おそらく院長はまだお昼ご飯を食べてはいらっしゃらないはずであり、朝から何十人もの患者さんたちと接して来られたはずなのだ。そう思うと、これほど診察に熱心な院長ともう少し話をしたい衝動に駆られた。とは言え、私も三時間待ってようやくこうして院長にお会いできたわけである。診察室の外には、他にもたくさんの患者さんたちが順番待ちをしている。そう思うと、いつもI医師の診察を受けているときのようには、次々と言葉が出て来なかった。

 子宮体がんの検査を終えたあと、婦人科の足を広げる椅子の奥で、私は下着をつけた。検査のときに膣の中に入った機械の影響により、出血があるとのことだったので、備え付けの紙ナプキンを使うように言われた。私は紙ナプキンを一ついただいたものの、結局その紙ナプキンは使わず、予備で持ち歩いている自分の布ナプキンを使うことにした。看護師さんには、その日のお風呂は控えるように言われた。下着をつけ終わると、私はいったん診察室の外に出て、再び中待合で待つことになった。

 中待合でしばらく待っていると、もう一度、名前が呼ばれたので診察室に入った。今度はエコーの検査である。施術台の上に仰向けになり、お腹を見せて、その上からエコーを取っていただいた。院長は私のお腹のふくらみをご覧になり、
「これは脂肪じゃなく筋腫だって、周りの人たちに言ってあげなあかんで」
とおっしゃった。面白いことをおっしゃる女医さんだと思った。クリニックがこれほど多くの患者さんたちで溢れているのは、女性の気持ちのかゆいところに手の届く診察だからなのかもしれない。

 院長は、私の筋腫は生理の出血の多くなる場所にもあるので、生理の出血量は多いだろうとおっしゃった。しかし私は、
「布ナプキンに変えてからは、出血量もそれほど多くはなくなりました」
と答えた。他にも、乳製品を控えたことや、野菜中心の食生活を心掛けていることなどを話したかったが、話を始めると長くなってしまいそうで、思わず控えた。院長が、布ナプキンという言葉を初めて耳にされたらしかったので、
「昔の赤ちゃんのおしめみたいなものですね」
と細くしておいた。院長は、私の回答が新鮮だったらしく、
「私も長いこと婦人科の医師をやってるけど、布ナプキンなんて初めて聞いたわ。そんなん、どこで買うん? インターネット?」
と尋ねられたので、
「そうです。主にインターネットで購入しています」
と答えた。院長は、私の貧血の状態も気に掛けてくださったので、私は五月の健康診断結果で得たヘモグロビン値を伝えた。

 院長曰く、
「最近は医師の言いなりになる患者さんが多いから、手術をしないという確固たるポリシーを持っている患者さんは珍しいね」
とのことだった。どうやらそのポリシーが気に入られたのか、
「家も近いし、女性同士やし、これからもお互い情報交換して行こか。片寄ってる情報もあるかもしれへんしね。I先生の診察で足りないところをサポートして行くし。一回MRIを見せて欲しいから、I先生のところでMRIフィルムをお借りできる?」
と言ってくださった。

 私はとてもありがたかったのだが、I医師のことはどうなるのだろうと心配になった。I医師のところで撮影したMRIフィルムを見てみたいとまで言ってくださったので、私が多少戸惑っていると、
「わかった。こっちからI先生に連絡を入れて、MRIフィルムをお借りしておくわ」
とおっしゃった。そして、
「桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)を処方してもらってるんやね。それならこっちでも出せるけど、どうする? もちろん、あなたがI先生のことが好きならそれでいいけど」
ともおっしゃった。つまり、I医師から離れて院長が私の面倒をみると言ってくださっているのである。それにはさすがに私も即答できなかった。何故なら、私にとってI医師の診察は、毎回、とても楽しいものだからだ。それがなくなってしまうのは、どうしても寂しい。

 結局、およそ三週間後に今回の子宮体がんの検査結果を聞きに来ることになった。院長は、そのときまでにI医師のところから私のMRIフィルムを取り寄せてくださるのだという。そのクリニックは、私が仕事帰りに寄れるギリギリの時間まで診察されているので、次回は平日の夜にうかがうことになった。院長曰く、
「平日の夜のほうがゆっくり話ができるから」
とのことだった。

 お礼を言って診察室を出ると、十五時からの映画の上映時間が早くも差し迫っていた。何と、十一時過ぎにクリニックに着いて受付を済ませてから、十五時に診察が終わるまで、実に四時間も経過していたのである。

 お会計を済ませた私は、大急ぎで映画館へと自転車を走らせた。劇場に入ると、ちょうど予告編が終わり、本編が始まったところだった。レディースデイということで、劇場はひどく混雑していた。あらかじめチケットを購入しておいて良かったと思ったのだが、鑑賞し易い席をと思い、真ん中の席を予約していたので、既に座って上映を楽しんでいらっしゃる方たちに謝りながら、席に着かなければならなかった。何はともあれ、上映時間に間に合って良かったとほっと胸を撫で下ろしつつ、さきほどまでとは違うモードに気持ちを切り替え、映画を鑑賞したのだった。

※皆さん、いつもたくさんの応援クリックをありがとうございます。m(__)m それにしても、長い長い待ち時間でありましたが、待った分だけ、実りは大きかったように思います。記事も、ずいぶん長いものになってしまいましたね。I医師とクリニックの院長の診察は、実に対照的であります。I医師は必要最小限の診察をされていますし、クリニックの院長は、常に拡大を目指しているような感じですね。ちなみに、この日の診察料は検査料と合わせて四千円ちょっとでした。他の患者さんが支払っている診察料も比較的高く、全体的に少し診察料が割高なのかなあと思いました。これからどうするのか、まだ決めていませんが、流れに沿ってみようかと思っています。

さて、今回も記事の中にボタンを埋め込ませていただきますが、どうぞよろしくお願い申し上げます。

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