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2009.02.07

「お客様ご自身の手でお願いします」

ズームレンズころりんの記事に応援クリックしてくださった皆さん、どうもありがとうございます。m(__)m 秋葉原もずいぶん変わりましたね。私が東京に住んでいた頃の秋葉原は、まだまだ女性の姿が少なくて、女性にとっては敷居の高い場所だったと記憶しています。かつてはわかる人たちだけのマニアックな市場だったためか、店員さんの呼び込みもそれほど多くなかったと思うのですが、最近では店員さんの呼び込みもずいぶんにぎやかになりましたね。店頭で、ラップ風の呼び込みをしている店員さんがいて、思わず見入ってしまいました。秋葉原は、わかる人たちだけが訪れる敷居の高い街から、誰にでも受け入れられる幅広い街に変貌して来たように思います。

 精力的に秋葉原を歩き回ったせいか、私たちはひどく疲れ果てていた。帰りの飛行機は二十時十五分に羽田を飛び立つ予定だった。羽田まで移動するにはまだ早かったので、私たちは身体を休ませるために秋葉原のマクドナルドに入った。マクドナルドを選んだのは、夜行高速バスに乗車した際、マクドナルドの無料コーヒー券を一枚もらったからだ。それに加え、私はマクドナルドの「トクするケータイクーポン」の会員でもあるので、夜行高速バスでもらった無料コーヒー券と引き換えにもらえるコーヒーと同じプレミアムローストコーヒーSをわずが百円で購入することができる。とは言え、私はもともとコーヒーを好んで飲んでいるわけではない。それでも、わずか百円で身体を休ませることができるのならという気持ちから、普段、ほとんど飲まないコーヒーを注文したのである。

 地下にある禁煙席はほとんど満席だった。私はかつて、これほど混雑したマクドナルドを利用したことがない。満席に近い状態ではあったが、何とか二人で座れるテーブル席を確保し、腰を下ろした。近くにあるカウンター席を見てみると、溝の口で利用したケンタッキー同様、一つ一つの席にコンセントがあった。マクドナルドでコンセントを利用できることを意識して持ち歩いているのかどうかはわからないが、何らかの電源コードをコンセントに挿し込んでいる人たちがいた。マクドナルドで充電するのは人間の身体だけではなく、電子機器も同じだというわけだ。

 私たちはコーヒーをすすりながら、歩き疲れた身体をじっくりと休ませた。羽田には十九時くらいに到着すればいいはずなので、秋葉原を出るのは十八時くらいでいいはずだ。しかし、次第に店内が混みあって来たので、私たちは少し早めにマクドナルドを出ることにした。

 考えてみれば、ガンモはこのあと、コインランドリーで洗濯をすることになっている。最低でも、洗濯におよそ三十分、乾燥におよそ三十分は掛かるはずなので、ガンモはできるだけ早い時間にホテルに帰ったほうがいいだろう。私はそう思い、予定よりも早めに山手線に乗ることにした。そして、ガンモには少し早めにホテルに帰ってもらうことにして、私だけが品川から京急線に乗り換えた。ガンモの帰宅は金曜日の深夜の予定だったので、またしばらく会えないことになる。

 ところで、関東地方においては、関西で使用しているICOCAよりも、Suicaのほうが便利である。山手線から京急線への乗り換えも、Suicaで楽ちんだった。

関東地方においては、この一枚のICカードを持っていれば、ほとんどの列車に乗ることができる

 終点の羽田空港で京急線を降りると、長いエスカレータを昇って羽田空港の搭乗口へと進んだ。そう言えば、関西から他の地方へ出掛けて行くと、いつも思うことがある。それは、ほとんどの地域では、エスカレータの立ち位置が関西地方と違って左側だということだ。東京から関西に引っ越したとき、私はしばらくの間、エスカレータで右側に立つということに慣れなかった。しかし、関西在住期間が長くなるにつれ、エスカレータに乗っても自然に右側に立てるようになっていた。ところが、関西地方から他の地方へ出掛けて行くと、ほとんどの地方ではエスカレータの立ち位置が左側である。おそらくそれが標準なのに、関西地方が特殊なだけに、違和感を感じてしまうのである。いつか関西地方で一斉に呼びかけて、他の地方に合わせて左側に立つように変えたほうがいいと思う。

ほとんどの地域では、エスカレータは左側に立つ

 予約していたのは、羽田から神戸までのスカイマーク最終便である。スカイマークは、新幹線を利用するよりも割安な上に高速で移動できるからだろうか。私が利用する便は満席だった。チェックインカウンターで自分の名前を告げると、インターネットでチケットを購入したときのクレジットカードの提示を求められた。確か、インターネットで予約したときに、空港カウンターでクレジットカードの提示が求められると書かれていたが、そうすることにより、本人確認を行っているのかもしれない。

スカイマークの航空券。一万二千円で利用できるので、新幹線を利用するよりも割安である。

 大きな荷物はなかったので、リュックと手提げ袋を機内に持ち込むことにした。チェックイン手続きを終えると、チェックインカウンターのスタッフから、
「お客様、ハサミなどの尖ったもはお持ちではないですね?」
と尋ねられたので、
「はい、持っていません」
と答えた。

 チェックインを済ませたあと、羽田空港のトイレを利用したところ、トイレの個室に液晶パネルがあり、コマーシャルが放送されていた。羽田空港の女子トイレで、液晶パネルを使ったコマーシャルが流れているということは、ニュースの記事を読んで知っていたのだが、実物を見るのは初めてのことだったのでとても珍しく、しばらく見入ってしまった。珍しさもさることながら、ちょうどいい位置に目線が来るので、ついつい見入ってしまう。なかなか良く考えられたものである。

羽田空港の女子トイレに設置された広告用のディスプレイ

 トイレを利用したあとは、しばらく空港内に設置された椅子に座ってくつろいでいたが、そろそろ離陸の時間が近付いて来たので、手荷物検査を受けることにした。最近は、以前にも増して手荷物検査のチェックが厳しくなっている。私は、デジタル一眼レフカメラとノートパソコン、携帯電話などの電子機器を、空港に備え付けの籠に選り分けて通った。すると、リュックの中に残っていた何かが反応したようで、係の女性に呼び止められた。係の女性に、
「リュックの中を拝見してもよろしいですか?」
と尋ねられたので、
「はい、どうぞ」
と答えた。そう言えば、リュックの中には、ノートパソコンの予備のバッテリや折り畳み傘や様々な缶ケースなどが入っていることを思い出した。私はそれらを取り出して係の女性に見せた。そのとき、私はふと思い出したのだ。道具入れにハサミが入っていることを。

 私は、どんなときも困らないように、普段から様々なものを持ち歩いている。例えば、ピアスがかぶれたときの消毒液、マスク、髪の毛のゴム、裁縫道具、替えのピアス、カットバンなど、これまで持っていなかったことで不便を感じたものをできるだけコンパクトにまとめてポーチに入れてリュックの中に収めている。実はその中に、小さな文房具セットに入っていた先の尖っていないハサミがあったことを思い出したのだ。裁縫道具の中にもハサミはあったのだが、機内に持ち込んではいけないのは四センチ以上のハサミだというので、裁縫道具の中に入っていた小さなハサミは該当しなかった。私は、道具入れの中から先の尖っていないハサミを取り出して、係の女性に渡した。

 係の女性は、私からハサミを受け取ると、ハサミの長さを計り、四センチ以上あることを確認した。係の女性は申し訳なさそうに、
「申し訳ありませんが、四センチを越えていますので、このハサミを機内に持ち込むことはできません。空港カウンターでお預かりすることもできますが、どうされますか?」
と尋ねられた。係の女性の話によれば、空港カウンターにはハサミだけを預けることもできるそうだ。しかし、空港カウンターに戻ってハサミを預ける場合、もう一度同じ手順を踏んで、手荷物検査を受けなければならないという。私には、それがとても面倒なことのように思えた。

 私はしばらく考えた。持ち歩いていたハサミは、もともと携帯用の文房具セットに入っていたもので、先の尖っていない安全性の高いハサミである。もしも私が機内で暴れる目的でハサミを持ち込むなら、先の尖っていない安全性の高いハサミよりも、先の尖ったハサミを選ぶことだろう。この小さなハサミを機内に持ち込んで、紙を切る以外に一体何ができるのだろう? 何もできはしないではないか。もともと、そんなことは、係の女性にもわかっているはずである。それなのに、四センチを越えるハサミを持ち込んではいけないというルールに縛られているために、柔軟性のない対応をするしかないのだ。

 考えた末に、私は、
「では、ハサミのことは諦めます」
と宣言した。残念だが、もともと活躍の場も少なかったハサミである。それに、これから空港カウンターに戻ってハサミを預けるとなると、手間と時間も掛かる上に、神戸に着いてからハサミを受け取るのにも時間が掛かってしまう。翌日も早起きしなければならなかったので、私は一刻も早く帰宅したかったのだ。

 ハサミを諦めて、そのまま立ち去ろうとすると、係の女性から、
「では、お客様ご自身の手で回収ボックスにお入れください」
と言われた。なるほど、利用客の持ち物を勝手に捨て去る権利はないので、持ち主に直接捨てさせるシステムになっているのか。私は、どこか腑に落ちない気持ちを抱えながらも、長年持ち歩いて来たハサミを泣く泣く回収ボックスに入れた。

 何となく後味が悪かった。私が回収ボックスにハサミを納めるのを見届けた係の女性が、
「申し訳ありません」
と言ってくださったのだが、そのとき私は、彼女もまた、私と同じように腑に落ちない気持ちを抱えているのではないかと感じて、
「いえいえ、とんでもありません」
と言った。

 規則に縛られているのは、何も利用客ばかりではない。きっと、毎日のように利用客の手荷物検査を行っている係員も、人間としての感情をどこかに置き去りにしているはずだ。つまり、人間としての感情を押し殺して仕事に徹しているわけである。私が回収ボックスに捨てた先の尖っていないハサミも、誰かに危害を与えるものではないことが一目瞭然であるはずなのに、四センチを越えてはいけないというルールに従うために、係の女性は人間としての感情を押し殺した。自分の持ち物を回収ボックスに捨てるなどという行為は、私にとっては初めての出来事だったが、おそらく彼女たちは毎日のように同じようなことに遭遇しているはずである。その度に毎回、人間としての感情を押し殺しているであろうことが少し気の毒にも思えて来た。そして、私自身もまた、仕事で自分の人間としての感情を押し殺していることを思い出し、彼女の姿を自分自身に重ねたのである。

 間もなく、搭乗案内が始まり、私は満席のスカイマークに乗り込んだ。窓際の席だったので、窓の外に映る宝石をちりばめたような夜景が、長年持ち歩いたハサミを失った私の気持ちを癒してくれた。二十時十五分過ぎに羽田空港を飛び立ったスカイマークは、二十一時半過ぎに神戸空港に着いた。夜行高速バスから始まって、飛行機で締めくくった二泊三日の有意義な旅だった。

※皆さん、いつもたくさんの応援クリックをありがとうございます。m(__)m ルールを守り続けるということは、人間としての感情を押し殺すことだったのですね。私は、大切なことは、人間としてどのように動くかであり、ルールを守ることではないと思っています。おそらく、人間の仕事にとって一番やっかいなのは、例外処理に対処することなんですね。例外を一つ認めてしまえば、あとからあとから同じような例外に遭遇し、それぞれの対処に困ります。臨機応変に対応して行くよりも、ルールを守ることに徹したほうが、仕事を進めやすいのでしょうね。

さて、今回も記事の中にボタンを埋め込ませていただきますが、どうぞよろしくお願い申し上げます。

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