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2008.04.19

映画『悲しみが乾くまで』

 春の歓送迎会の帰り、いつも足を運んでいる映画館のスタッフの方にばったりお会いした。その映画館には何度も足を運んでいるためか、彼は私の顔を見るなり、会釈をしてくれた。私は、
「明日、映画館でお会いすることになるでしょう」
と心の中で思いながら、彼に会釈を返すと、足早に彼の前から立ち去った。

 明けて土曜日、ガンモが朝から仕事に出掛けて行ったので、私は映画を観るべく、映画館に出動した。ホットヨガ神戸店のすぐ隣にある映画館である。まずは一本目として、予告編を観て以来、絶対に観ようと心に決めていた『悲しみが乾くまで』を鑑賞した。どうやらゆうべばったり出会った彼は遅番なのか、まだ出勤されていないらしい。

 さて、この映画は、最愛の夫ブライアンを亡くした妻オードリーが、ヘロイン中毒だったブライアンの親友ジェリーと一緒に暮らし始めるという、一見、奇妙な物語である。ブライアンは、街角で出くわした激しい夫婦喧嘩の仲裁に入った際に、夫婦喧嘩をしていた男に射殺されてしまうのである。オードリーは、突然の夫の死をなかなか受け入れることができないでいる。

 夫の死からなかなか立ち直ることのできない妻が、夫の親友と暮らし始めるなどというのは、確かに奇妙なことのように思えるかもしれないが、実際に蓋を開けてみると、決して奇妙な物語などではなく、実に人間らしさに溢れた物語に仕上がっている。一言で言って、他の映画とは何かが違っている。

 ブライアンとジェリーは、子供の頃からの親友同士だった。ジェリーがヘロイン中毒になってからも、ブライアンはジェリーを見放すことなく、かつてと同じようにジェリーの誕生日をお祝いしていた。しかし、オードリーは、ブライアンを深く愛してはいたが、ブライアンがヘロインに手を染めたジェリーと交流を持つことを快くは思ってはいなかったようだ。

 映画を鑑賞していて、まず最初に驚かされるのは、オードリーがジェリーに再会するなり、さも憎らしげに"I hate you."と口にするシーンだ。一言で言って、この台詞は深いと思う。このような言葉を面と向かって言えるのに、相手を完全に拒絶していないところが深いのだ。私は、この台詞だけで心を打たれてしまった。さきほども書いたように、オードリーはヘロインに手を染めたジェリーを快く思ってはいない。そんな状況のまま、ブライアンの葬儀に参列したジェリーと再会し、"I hate you."と口にしたのである。オードリーの"I hate you."に心を打たれた私は、自分を取り巻く人たちについて想いを馳せる。そして、"I hate you."と言ったあと、オードリーのように、相手から目をそらしたり、立ち去ったりしないでいられるのは、ある程度親しい相手に違いないという結論に達した。そして、"I hate you."という言葉の中には、単なる憎しみだけではなく、親しさと憎しみが入り混じった複雑な感情が芽生えているであろうことを推測した。

 物語が進んで行くと、オードリーは"I hate you."よりももっと醜いことをジェリーに対して口にする。それは、「あなたが死ねば良かったのよ」という意味の言葉だ。この台詞も実に深い。どうしてオードリーの台詞がこんなにも深くなってしまうのだろうと考えたときに、これらの言葉を受けているジェリーの存在としての器の大きさが浮き彫りになる。つまりジェリーは、オードリーの言葉に惑わされることなく、どんなときもジェリー自身であり続けたということだ。そして、オードリーとブライアンを亡くした悲しみを共有できたということだ。

 台詞の他にも、興味深いシーンはいくつもある。確かこの映画の予告編では、「そう、きっとあなたを利用した」というキャッチコピーが流れていた。映画の中にも、そのキャッチコピーを思い起こさせるシーンがある。それは、深い悲しみのために不眠症になってしまったオードリーが、ジェリーの力を借りて眠りに就こうとするシーンだ。仲の良い夫婦ならば、お互いの身体を絡ませて眠りに就くのが日常だろう。その上、オードリーにとっては、愛するブライアンに自分の耳たぶを引っ張ってもらうことが心の安堵に繋がっていた。そう、オードリーにとってブライアンの存在は、子守唄でもあったのだ。そんな子守唄的な存在だったはずのブライアンを亡くし、不眠症に陥ってしまったオードリーが、かつてブライアンと身体を絡ませて眠っていたときのポーズをジェリーにねだる。こうしたシーンからも、この映画が他の映画とどこか違うことを感じさせるのだ。

 映画を観ている人たちは、果たしてオードリーとジェリーの間に男女の愛情が芽生えるかどうかについて注目するだろう。それは、映画を観てのお楽しみということにしておこう。全体を通して、カメラに収められている映像も他の映画とどこか違っていて、ところどころに、写真展に展示されている作品を鑑賞しているような映像が挿入されていた。それは、明るいレンズで被写体をズームアップして撮影し、周りをぼかしたような映像である。

 この映画を観ていると、愛と憎しみの区別がなくなってしまう。実際に、愛と憎しみはいつも隣り合わせだ。しかし、無邪気な子供たちは、きっと一つの感情しか持たない。だから、一緒に暮らし始めたジェリーを父親のように慕い始める。子供は、新しい環境に対する順応性が高いのだ。しかし、これまで築き上げて来たものをなかなか捨てることができないでいる大人は、愛だけでなく、憎しみとも仲良くすることで、自分自身を守りながら頑なに生きているのかもしれない。

※皆さん、いつもたくさんの応援クリックをありがとうございます。m(__)m 私にとっては、こんな表現方法もあるのかと、発見の多い映画でありました。そう言えば、この女性監督さんの映画は、過去に『しあわせな孤独』を鑑賞しています。『しあわせな孤独』も深く心に残る映画でありました。残念ながら、先日まで公開されていた『アフター・ウェディング』は見逃してしまいました。『アフター・ウェディング』には確か、『しあわせな孤独』にも出演していたマッツ・ミケルセンが出ていましたよね。ちなみに、『悲しみが乾くまで』で夫のブライアンを演じていたのは、『X-ファイル』でモルダー捜査官の役を演じていたデヴィッド・ドゥカヴニーであります。話は変わって、この映画をホットヨガ神戸店の隣にある映画館で鑑賞したのですが、映画を観終わって、次なる目的地に向かおうとエレベータに乗ろうとしたところ、ホットヨガの二人のインストラクターに見付かってしまいました。この日は、レッスンも受けずに映画だけ観に行ったのでした。(笑)

さて、今回も記事の中にボタンを埋め込ませていただきますが、どうぞよろしくお願い申し上げます。

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