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2007.11.25

映画『この道は母へとつづく』

 ホットヨガのレッスンを終えて観たのは、先週、見逃してしまった『この道は母へとつづく』である。孤児院で育った六歳のワーニャが実の母を捜して旅をするという実話に基づいて製作されたロシア映画だ。私にとって、本格的なロシア映画を映画館で観るのは、初めてのことだったかもしれない。

 この映画を観ようと思い立ったのは、予告編を観たときに強く引き込まれたからだ。何と言っても、主人公のワーニャ役のコーリャ・スピリドノフ君がかわいい。私も子供に恵まれるなら男の子がいいと思ってしまう。物語は、そんな彼が、ある日、イタリア人夫婦に引き取られることが決まるところから始まる。

 本来ならば、孤児院で生活している子供たちにとって、養子としての引き取り手が決まるということは、喜ぶべきことだろう。何らかの理由で両親と離れ離れになってしまった子供たちが暮らす孤児院での生活は、同じような境遇の多くの仲間たちに囲まれてにぎやかに暮らしているとは言え、決して幸せであるとは言い切れないものがあった。孤児院にはボス的な存在の年長の男の子がいて権力を振るい、年下の子供たちが働いて得たお金を巻き上げていた。小さな子供たちが働くなんて、一体どういうことだと思ってしまうのだが、予算の少ない孤児院においては、与えられないのならば自分たちで働いて勝ち取るという仕組みが出来上がってしまっているのだ。

 そうした仲間たちの間で、イタリア人夫婦に養子として引き取られて行くことが決まったワーニャに対し、嫉妬心が生まれてしまったとしても無理はない。誰だって、与えられることの少ない孤児院の生活から抜け出したい。みんな、そのチャンスを手にすることができたワーニャがうらやましいのだ。そんな孤児院の子供たちからは、「何が何でも欲しい!」という強い感情が伝わって来る。お金が欲しい。あたたかい家族が欲しい。誰しも、与えられなくなると、自ら強く欲するようになって来るものだ。

 更に悲しいことに、孤児院から養子として子供を引き取るための斡旋業者が幅を利かせている。彼らは養子を切望する夫婦から、斡旋料として、高額の謝礼を受け取っているのだ。その謝礼はやがて孤児院の院長の手にも渡ることになる。つまり、孤児院から子供が引き取られる度に、誰かが利益を得ているのである。そうした背景からうかがえるのは、孤児院で暮らす子供たちが、子供を切望する家庭へと引き取られて行くことへの純粋な喜びではなく、斡旋料を手にすることのできる喜びだった。子供を望む家族と、あたたかい家庭を望む孤児たちは、高い斡旋料を介して結ばれているのだった。

 そうした状況の中、イタリア人夫婦に引き取られることが決まったワーニャは、どうしても実の母への想いを捨て去ることができなかった。引き取り手が決まるということは、孤児院にいるほかの子供たちからすればうらやましてくてたまらないはずのことなのに、自分がイタリア人夫婦の元へ引き取られて行くことを想像すればするほど、ワーニャは実の母への想いを募らせる。ワーニャのこうした気持ちは、心から愛する人がいるのに、自分を必要としてくれる人と結婚することになってしまった状況に置き換えて考えてみると良くわかる。そして、ワーニャはとうとう孤児院を脱走し、実の母を捜しに出掛けて行くのだ。しかし、既に高額の斡旋料を受け取った斡旋業者があの手この手を尽くしてワーニャを追いかける。言葉は悪いが、彼らにとって、ワーニャは金ヅルである。大切な金ヅルが逃げてしまっては、高額な斡旋料を受け取っているのに申し訳が立たない。そこで、猛烈な勢いでワーニャの捜索が始まる。斡旋業者に捕まってしまえば、イタリア人夫婦のところにたちどころに強制送還されてしまうだろう。そうなると、実の母にも会えなくなる。そこで、わずか六歳のワーニャは、孤児院の仲間の手引きにより、一人で列車に乗り、何とかして母の手掛かりを探そうと旅を始めたのだった。

 映像を通して見るロシアは、見るからに寒そうな土地だった。それでも、孤児院の部屋の中で、ワーニャはランニング一枚で過ごしている。以前、北海道を旅行したときに、地元の方がこんな話を聞かせてくれたのを思い出した。北海道の人たちは、暖かいはずの本州に行くと風邪を引いてしまうらしい。それは、北海道の人たちが、寒い冬の日に、部屋の中を薄着で過ごせるほど暖かくしているからだそうだ。しかし、北海道よりも暖かいはずの本州では、部屋の中を薄着で過ごせるほど暖房を使用する習慣がないので、北海道の人たちは部屋の中があまりにも寒くて風邪を引いてしまうというのだ。かくいう私も、部屋の中ではできるだけ暖房を使わずに厚着をしてしまうたちなので、極寒のロシアで薄着で過ごしているワーニャが風邪を引いてしまわないか、とても心配だった。しかし、北海道の方が聞かせてくださった話を思い出して、ワーニャが過ごしていた孤児院の部屋も、きっと暖房で暖かかったのだろうと想像した。

 この映画の見どころは、高額の斡旋料に対してやっきになっている養子斡旋業者と孤児院の院長、そして、ボスが牛耳っている孤児院の子供たちの描写だろう。あまりにもリアルで胸が痛む。映画を観ているはずなのに、本当にロシアの孤児院の事情が描き出されているのかと錯覚してしまったくらいだ。しかし、お金のために、やっきになってワーニャを追いかける人もいれば、ワーニャを援助する人たちもいる。この映画では、そうした陰陽が見事に描き出されている。前半のうちに主に陰が描かれ、後半で少しずつ陽が描かれて行く。前半の陰があるからこそ、後半の陽が際立っても来る。特に、以前の孤児院の院長のワーニャへのもてなしは素朴で素晴らしい。普通に考えれば当たり前のもてなしなのに、前半の陰があるから、余計に陽が際立つ。同じ孤児院の院長でも、お金に目がくらんでしまう人と、そうでない人がいるということだ。ワーニャの旅がクライマックスを迎えることができたのも、前の孤児院の院長のおかげだと言っても過言ではないだろう。ただ、ラストはもう少し余韻が欲しかったと思う。果たして、あの続きには何があったのだろうか。それは、私たち自身が想像するしかない。

※皆さん、いつもたくさんの応援クリックをありがとうございます。m(__)m とにかく、ワーニャ役の男の子がかわいいのであります。当たり前のことですが、六歳というのは、七歳でもなく、五歳でもないのですよね。一人で列車に乗り、旅をするのに絶妙な年齢だと思いました。決して、号泣するような映画ではないかもしれませんが、孤児院の事情がとてもリアルに描き出されていて、スクリーンから目を離せない映画でありました。

さて、今回も記事の中にボタンを埋め込ませていただきますが、どうぞよろしくお願い申し上げます。

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受信: 2007.11.27 14:12

» 「この道は母へとつづく」その向こうに幸せがありますように! [soramove]
「この道は母へとつづく」★★★☆ コーリャ・スピリドノフ、マリア・クズネツォヴァ、ユーリ・イツコフ出演 アンドレイ・クラフチュク監督、2005年、ロシア ロシアのある地方の孤児院、 ここで育つ子供たちにとって 他の国の裕福な養父母に引き取られるのが ...... [続きを読む]

受信: 2007.12.01 11:54

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