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2007.11.06

2007~2008 さだまさしコンサートツアー Mist

 めまいから一夜明けると、身体の調子はすっかり良くなっていた。私は、日頃の睡眠不足を少しでも解消しておきたくて、休暇を取っているのをいいことに、午前十時半頃まで寝ていた。そのおかげで、睡眠不足は少し解消されたようである。

 夕方になり、そろそろライブに出掛ける時間になった。私が何となく出渋っていると、
「俺だって、まるみの行きたいライブに何度も付き合って来たんだからね」
とガンモが言う。そう、確かにガンモの言う通りだった。ガンモは私の行きたいライブに何度も何度も同行してくれた。
「ミッチーのライブだって行ったんだからね」
と言うガンモに、
「はいはい」
と答えるしかない私であった。ミッチーというのは、説明するまでもなく、及川光博氏のことである。七年ほど前、私は彼のキャラクターにはまり、大阪や横浜で行われたライブに足を運んだり、また、現在は脱会してしまったが、一時はファンクラブにまで入会していたこともあったくらいなのだ。当時のガンモとしては、ミッチーのライブに参加するのは、あまり気が進まなかったらしい。そんなガンモにしてみれば、
「俺だってあんまり気が進まなかったけど、ミッチーのライブに付き合ったんだから、まるみも今日のライブ、付き合ってくれ」
と主張したくなるのも当然のことだろう。

 さてさて、記事のタイトルにもあるように、ガンモの好きなアーチストというのは、シンガーソングライターのさだまさしさんである。我が家には、ガンモが独身時代に購入したさだまさしさんのレコードが何枚もある。一方、バンド志向の私は、ソロアーチストに対して食わず嫌いなところがある。自分たちの好きな音楽を演奏しながら、一つになろうとしているバンドの結合力がとても好きなので、ソロアーチストのバックで演奏しているミュージシャンたちを見ていると、職業的ミュージシャンのような気がして、何だか気の毒に思ってしまうのだ。

 ファンの方には大変申し訳ないのだが、私はとりわけ、さだまさしさんと松山千春さんが苦手だった。おそらく、私自身がおしゃべりな男性を苦手に思っているせいだろうと思う。ガンモは、さだまさしさんだけでなく、松山千春さんのことも大好きで、さだまさしさん同様、独身時代に購入したレコードをたくさん持っている。二年前の夏休みに北海道旅行に出掛けたときも、足寄まで足を伸ばし、千春の実家に足を運んだほどだ。

 そろそろ出掛ける時間になったので、私は渋々立ち上がり、ライブに出掛ける準備を整えた。渋々と書いたが、実はそれほど渋々というわけでもなかった。ガンモの好きなアーチストなので、ガンモの世界に触れられるチャンスでもある。また、コンサートが行われる会館までは、我が家から自転車で行けるほど近かった。それほど私たちに近い場所にさだまさしさんがやって来るのだから、ガンモの喜びもひとしおだったのだ。
 
 自転車で行ける距離にあるというのに、二年前にオープンしたばかりのその会館に、私たちはまだ一度も足を運んだことがなかった。普段は、ミュージカルなどの舞台が上演されている会館である。今回のコンサートが行われる大ホールに入ってみると、またしてもオペラハウスを思わせる切り立った造りに、思わず息をのんだ。五階まであると思われる客席は、木の優しさが十分に生かされ、会場を取り囲むように配置されていた。

 コンサートのために次々に集まって来た観客に埋もれながら、まず驚いたのは、年齢層の高さだった。何と何と、参加者のほとんどは、私たちよりも年上の人たちばかりなのである。平均年齢は五十五歳くらいだろうか。さだまさしさんは、私たちよりも上の世代の、おじさま、おばさまたちに支持されていたのだった。もちろん、今回のチケットは完売である。届いたチケットを見たとき、平日にもかかわらず、十八時開演となっているのは珍しいと思っていた。私たちのような立場では、仕事を休まなければこうして駆けつけることはできないが、このような年齢層が中心ならば、平日に十八時開演であっても差し支えはないのだろう。

 十八時を少し回った頃、いよいよコンサートが開幕した。開幕という名の通り、本当に幕が開いたのだ。ということは、コンサートが始まる前までは、幕が閉まっていたわけである。開幕と同時に、会場からは、一斉に大きな拍手が沸き起こった。一曲目は『道化師のソネット』だった。古いナンバーである。ありがたいことに、コンサートが始まる前から、ロビーに本日のセットリスト(演奏曲目)が掲示されていた。一部のアーチストは、こうした方法を取ってファンに曲目を提示し、CDなどの売り上げにも繋がっているようだ。

 コンサートはたっぷり三時間余りもあった。私は、以前から、「さだまさしさんは歌よりもステージトークのほうが面白い」とか、「歌を歌ってる時間よりも、ステージトークのほうが長い」と噂に聞いていた。しかし、ロビーに提示されていたセットリストには十七曲も挙げられている。「十七曲も、本当に演奏できるの?」と半信半疑で構えていたのだが、やはり、二曲、三曲、演奏する度に、長い長い爆笑トークが始まる。さだまさしさんは、おしゃべりが得意と言っても、関西のお笑い系の乗りではない。ポリシーを持った、人間的な笑いを招く人である。おそらく、会場に足を運んだおじさまやおばさまたちは、そんなさだまさしさんの人間的な部分に強く惹かれているのだろう。

 入場時に受け取ったチラシから、これまでのコンサートの爆笑トークがCDになって販売されていることを知る。観客は、さだまさしさんの歌を聴きに来ているのか、それとも、爆笑トークを聞きに来ているのだろうか。実際、さだまさしさんからも、こんな話が飛び出した。演奏中にトイレに立つお客さんがいらっしゃったので、
「できれば話をしているときに行ってください」
とお願いしたところ、そのお客さんに、
「だって、歌はCDで聴けますからね」
と言われたらしい。それを聞いた会場は大爆笑である。

 さだまさしさんは、日本で最も多くコンサートを開催しているアーチストなのだそうだ。今回のコンサートは、通算三千五百三十九回目のコンサートになったという。年間百本コンサートを開催したとしても、三十年以上掛かる数字だ。それを考えると、さだまさしさんがどれくらい多くのコンサートを開催して来たかが想像できるだろう。

 前から十一列目くらいの席に座っていた私には、ステージの上で爆笑トークを繰り広げているさだまさしさんの姿が、時には円広志さんに見えたり、コロッケさんに見えたり、志村ケンさんに見えたりした。さだまさしさんの様々な表情を見守りながら、この人は、世の中に対して真剣に何かを伝える役割を持って音楽に出会ったのだと、はっきりわかった。例えば、
「信号を守りましょうよ、関西の皆さん」
とさだまさしさんは言う。当然、信号無視を得意とする関西在住の人たちが集まっている会場からは、どっと笑いが沸き起こる。さだまさしさんは、夜中に誰もいない交差点に立っているときでさえ、きちんと信号を守る人なのだそうだ。そして、信号を守らないような風潮が、世の中を悪くしているとおっしゃった。また、相撲の話を例に挙げながら、
「時代の申し送りをしたい」
としきりにおっしゃっていた。そう、さだまさしさんの中には、今の若い世代に伝えて行きたいことがたくさんあるのだ。さだまさしさんの中には、今のままの世の中ではいけないという危機感があり、どこか「世直し」的なエネルギーが感じられるのだった。そうした世直し的なエネルギーを、ステージで振りまいている人なのである。  

 食わず嫌いだったさだまさしさんのコンサートは、アコースティックなサウンドが響き渡る、とても心地の良いライブとなった。ガンモも大満足の様子で、
「まっさん(さだまさしさんの愛称)はまだ現役だから」
と、喜びを隠し切れない様子だった。ガンモの言う現役とは、新曲を発表し、それをライブで歌うことだ。確かに、今回のコンサートは、新しいアルバムからの曲が多かった。五十歳を過ぎても、過去のヒット曲にしがみつくことなく、いつまでも新曲を発表し続けているさだまさしさん。ガンモはさだまさしさんのライブがえらく気に入ったようである。実はガンモにはまだ内緒だが、私もちょっぴり気に入って、次回はもっと気持ち良くライブに出掛けられそうな気がしている。

※皆さん、いつもたくさんの応援クリックをありがとうございます。m(__)m 「さだまさしさんのコンサートに行って来た」と派遣仲間に話したところ、まだ二十代の彼女は何を思ったか、『神田川』を歌い始めました。「いや、違う違う。それは『かぐや姫』」とフォローしたのですが、彼女たちの世代には、同じようなものとしてカテゴリ分けされているのでしょうか。

さて、今回も記事の中にボタンを埋め込ませていただきますが、どうぞよろしくお願い申し上げます。

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