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2007.08.04

ミュージカル『メアリー・ポピンズ』

 あいたたたた。寝不足が続いていたからだろうか。朝、強烈なこむら返りで目が覚めた。時計を見ると、ロンドン時間の三時過ぎだった。ゆうべ二十二時過ぎにベッドに入ったので、およそ五時間は睡眠時間を確保できたことになる。しかも、私にとっては久しぶりの熟睡だった。完全とは言い切れないまでも、日本を離れる前からの睡眠不足はかなり解消されていた。こむら返りさなければ、もう少しゆっくり眠ることができたのに。と思いつつも、睡眠不足の解消は、睡眠時間ではなく、眠りの深さが重要であると感じてもいた。

 ロンドン滞在二日目の今日の最大の目玉は、「メアリー・ポピンズ」のミュージカルを観ることだった。ロンドンには、ミュージカルを上演するいくつものシアターがあり、「ライオンキング」や「レ・ミゼラブル」などの超メジャーなミュージカルがロングラン上演されている。私は、子供の頃から大好きだった「メアリー・ポピンズ」を是非とも観たいと思っていた。ガンモは「メアリー・ポピンズ」の愛読者ではなかったが、舞台がイギリスということで、「メアリー・ポピンズ」のミュージカルを観劇することに賛成してくれたのである。

 観劇好きの方なら既にご存知のことと思うが、ほとんどのミュージカルは夜に上演される。しかし、一部のミュージカルは、曜日を限って昼間に上演されている。夜の上演に対し、昼間の上演をマチネと言う。「メアリー・ポピンズ」は、木曜日と土曜日にマチネが上演されている。ミュージカルが盛んなロンドンでは、夜、ドレスアップしてミュージカルに出掛けて行くという習慣があるのだろうか。マチネのほうが比較的チケットを入手しやすいという話をどこかで聞いたことがある。そこで私たちは、「メアリー・ポピンズ」のマチネを観劇しようと計画していたのである。

 チケットについては、チケット業者がインターネットで売買しているチケットを入手すれば、既にソールドアウトになったチケットであっても、観劇することができるようだった。また、イギリスのeBay(ネットオークション)には、ホテルの宿泊とセットになったチケットが出品されていたりした。日本で言えば、「ライオンキング」の公演と、ホテルの宿泊券がセットになって売りに出されているようなものである。そのようなチケットが売買されているということからも、イギリスの人たちにとって、シアターに足を運んでミュージカルを観るということが大きな楽しみになっていることがうかがえる。

 しかし、インターネットで探し当てたどのチケットも、正規料金よりも割高なものばかりだった。そこで私たちは、劇場の窓口で当日券を求めるか、公式のチケット売り場で割安になったチケットを入手することにしたのである。

 マチネの上演時間よりも少し早めにホテルを出て、地下鉄パディントン駅に向かう。ロンドンの地下鉄は、九時半から利用料金が安くなるので、九時半過ぎにホテルを出た。みんな考えることは同じなのか、地下鉄のチケット売り場はチケットを求める人たちで溢れ返っていた。私たちは、一日乗車券を購入し、チケットを自動改札機に通して入場した。駅のホームを覗き込んでみると、片方のホームだけが混雑していたので、私たちは混んでいない反対側のホームに下りた。地下鉄パディントン駅は山手線のような環状線が走っているので、目的地が環状線の駅ならば、どちらのホームからでも乗車できるわけである。特に、私たちのような鉄道好きにとっては、乗車する時間が長いほうがありがたい場合もある。

 環状線が走っているとは言え、ロンドンの地下鉄事情は少々複雑だった。例えば、山手線を走っている駅には京浜東北線も並行して走っているように、いろいろな路線の列車が重複して走っている。そのため、途中の駅で何度も乗り換えをすることになった。日本と違うのは、ロンドンの地下鉄には行き先しか書かれていないことである。ただ、ロンドンの地下鉄に多少慣れた人ならば、色と小さく書かれた路線名で見分けることができる。ヨーロッパのすべての鉄道がそうなのかはわからないが、私も昔、フランスでヴェルサイユ宮殿に行くのに、別の路線に乗ってしまい、往生したことがあった。その土地に不案内な人は、やって来たすべての列車が自分の目的地まで連れて行ってくれると思いがちだ。

 何とか目的の駅に辿り着き、私たちはそこから元気良く歩いた。涼しいはずのロンドンが、何故か暑い。珍しく、三十度近くまで気温が上がっているようだ。それでも、日本よりも空気が乾燥しているからなのか、暑さに対する不快感は日本よりは少ない。

 「メアリー・ポピンズ」が上演されているのは、プリンス・エドワード・シアターだ。私たちは、そこを目指す前に、いくつかのチケット売り場を訪れた。さすが、ロンドンはミュージカルが盛んなだけに、チケット売り場の数も豊富である。土曜日ということもあって、チケット売り場はたくさんの人たちで賑わっていた。その中で、たまたま見つけて入ったチケット売り場で「メアリー・ポピンズ」のマチネの券があると言われ、二階正面の席を、定価よりも安い一枚三十五ポンドで購入することができた。私は、思いがけず、チケットを入手できた喜びに打ち震えていた。

 小躍りしながら迷い込んだ中華街であたたかい昼食を取り、私たちはマチネに臨んだ。日本では、宝塚歌劇団の公演をしばしば鑑賞して来た私たちである。ロンドンで観た「メアリー・ポピンズ」は、予想していたよりもはるかに感動的なものだった。

 第一に、出演者の本気が伝わって来る公演だった。一つ一つの演技に熟練という言葉が当てはまる。私は、ロンドンにはいくつものシアターが存在していることで、競争心がミュージカル全体のレベルを引き上げているのではないかと感じた。もちろん、人と人との戦いではなく、最終的には自分との戦いになるのだろうが。

 第二に、ミュージカルの世界にも現実の世界にも、太った人や痩せた人、背の高い人や低い人、子供や老人など、個性あるいろいろな人たちの存在が必要なのだと感じた。いろいろな人たちが登場することで、例えそれがミュージカルであったとしても、よりリアリティーが出て来る。ミュージカルは、商品のように均一化された役者さんたちばかりで構成されるべきものではない。見かけがバラバラであっても、個性が光り、一つの方向へと向かっている瞬間を感じさせてくれることに観客は感動を覚えるのではないだろうか。

 第三に、ロングラン上演ならではの大掛かりな仕掛けに驚かされた。上演期間が短ければ、念入りなセットを用意することに対し、消極的な姿勢を示してしまうだろうし、出演者が繰り返し同じ役を演じることでにじみ出て来る熟練の感触を感じ取ることもできない。更には一つのミュージカルのために注ぐ情熱。そういったものが、「メアリー・ポピンズ」には強く感じられた。

 第四に、台詞や歌の意味を完全に理解することはできなかったが、イギリス人のユーモア精神を垣間見ることができた。私の中には、イギリス人はプライドが高くてユーモアからはほど遠いという偏見があったのだが、それは彼らの言葉の抑揚から想像する偏見に過ぎなかったということに気がついた。アメリカ英語とは違う、イギリス英語特有の抑揚が、彼らをあたかもプライドの高い人間であるかのように見せ掛けていただけだった。

 第五に、ネタバレになってしまうが、「メアリー・ポピンズ」では、出演者の一人が壁や天井を歩くシーンがある。映画ではなく、生身の人間が観客の目の前でリアルタイムに壁や天井を歩くのだ。それがワイヤーで吊られた演出だとわかっていても、目の前でそのような光景を目にするのは驚きものだった。壁を歩けば身体は九十度傾き、天井を歩けば身体は逆立ちした状態になってしまう。それでも、その役を演じる役者さんは、あたかも普通に歩くように壁や天井を歩いたのだ。

 主人公のメアリー・ポピンズも、傘を手に持ち、風に乗って登場したり退場したりする。それらの大掛かりな演出に、会場は拍手喝采だった。ガンモも私も大満足で、
「いやあ、良かった、良かった」
と繰り返していた。英語を完全に聞き取ることができなくても、私たちにこれほど強いインパクトを与えたメアリー・ポピンズ。原作とは違う流れだったが、熟練された演技や完璧なセット、迫力のある仕掛けが私たちを十分に楽しませてくれた。

※撮影した写真のスライドショーを貼り付けておきます。

※皆さん、いつもたくさんの応援クリックをありがとうございます。m(__)m 「メアリー・ポピンズ」はやはり、子供さんたちに親しまれているミュージカルなのでしょう。お子さん連れのご家族で鑑賞されている方たちが多かったです。小さい頃から、このような迫力のあるミュージカルを観ることができる環境にあるのは、とてもうらやましく思います。小さい頃から、このようなミュージカルを観ることで、今の子供たちがミュージカルを勉強して行くことに大いに役立つという良い循環を作り上げていると思います。ちなみに、購入したプログラムには、「子役募集」を意味する表現がありました。その募集要項には、身長や年齢が指定されていました。子供はすくすく育って行くので、ロングラン上演になると、同じ子役さんで上演し続けるのは無理があるのでしょうね。プログラムにも、同じ役柄に数人の子供たちの名前が掲載されていました。これからロンドンに足を運ばれる方は、是非ともシアターに足を運んでみてください。当日であっても、チケットは何とかなると思います。

さて、今回も記事の中にボタンを埋め込ませていただきますが、どうぞよろしくお願い申し上げます。

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