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2007.06.15

こむら返り

 今日は、久しぶりにショートショートをお届けしよう。

 私は数ヶ月に一回程度の割合で、明け方近くに強烈なこむら返り(足がつること)のために目を覚ましてしまうことがある。足がつると、
「アイタタタタ」
とうめき声をあげ、つってしまった足が一刻も早く元通りになることを切に祈りながら、足に両手を添え、痛みが引いて行くのを歯を食いしばってじっと待つことになる。

 あるとき、やはり明け方近くに突然、こむら返りが起こった。私はいつものように、つった足に両手を添えようとしたのだが、何やら周りがやけに騒がしいことに気がついた。一体何ごとかと思いながら眠い目を開いて周りを見渡してみるると、私が足を抱えている姿を応援するかのように、たくさんの老人たちが声援を送ってくれているのが見えた。

 「ようし、そうじゃ! 来ておるぞ! さあ、引っ張りなされ!」
「おうおう、その調子じゃよ、その調子!」
「ほうら、来ておる、来ておる! 今じゃよ! 力いっぱい引くのじゃあ!」
私は、自分の身に何が起こっているのかわけがわからなかったが、とにかく言われるがままに自分の足を一生懸命引っ張った。すると、私の足の小指の先に赤い糸が結び付けられ、その糸が更に下に向かってピンと伸びているのが見えた。しかも、その糸の先からは大きな手応えを感じるのだった。いつの間に誰が何のために私の足の小指に赤い糸を結んだりしたのだろう? 私は不思議に思いながらも、とにかく自分の足を一生懸命引っ張った。

 すると、足の小指に結び付けられた糸の先から、人間の足が見えて来た。
「ほうら、釣れた。それがアンタの赤い糸の相手じゃ。思い切り引っ張りなされよ」
そう言われて、私は力の限り、自分の足を引っ張った。私が引っ張っていた赤い糸の先は、その男性の足の小指に結び付けられているようだった。その男性が私の赤い糸の相手だと言う。私の赤い糸の相手はどんな人なのだろう。そう思うとわくわくして、足を引っ張る力にもいっそう力がこもった。

 ある程度、力をこめて引っ張ると、糸は磁石のように操作して、素早く二人を引き合わせた。気がつくと、私の隣にその男性が立っていたのだ。私は、初めて会ったその男性のことを、どこかで会ったことのあるような懐かしさを覚えていた。それだけではない。初めて出会ったばかりなのに、彼のことをとても好きだと感じたのだ。出会ったばかりのその男性は、私に向かって照れ臭そうにこう言った。
「はじめまして。小村(こむら)と言います。よろしくお願いします」
こむら返りを通じて出会ったから、苗字が小村なのだろうか。私はおかしくてクククと笑った。
「はじめまして。私は谷口えりと申します。こちらこそよろしくお願いします」
そう言って、ぺこりと頭を下げた。

 私を応援してくれていたはずの老人たちは、いつの間にか姿を消していて、代わりに高校生か大学生くらいの男女が私たちの様子を見守っていた。その中の一人が私のところにやって来て、こう言った。
「ありがとう。あなたが赤い糸の人と出会えたおかげで、私たちもこうして若返ることができました。私たちの役目はこれで終わりね。どうかお幸せにね」
そう言って、若い男女はどこかへ立ち去って行った。あとでわかったことだが、こむら返りからの復帰を応援すると、老人たちが若返るらしい。だから老人たちは、こむら返りに悩まされている人の所在を聞きつけると、どこからともなく集まって来るのだそうだ。シャレみたいな話だが、小村と私の仲人(なこうど)をした人たちが、若人(わこうど)になったということだ。

 小村と私はすぐに意気投合し、恋人同士になった。ほどなくして私たちは結婚し、私の苗字も小村に変わり、私は小村えりになった。こむら返りには一字足りない小村えりである。

 小村と出会ってからの私は、こむら返りに悩まされることもなくなった。私は今ではすっかり確信している。私にこむら返りの症状が表れていたのは、小村と出会うためだったと。いや、むしろ小村のほうがもっと確信しているはずだ。何しろ、小村がえりに出会うための症状だったのだから。今、こむら返りに悩まされている人は、赤い糸の人と出会える前兆かもしれない。

※皆さん、いつもたくさんの応援クリックをありがとうございます。m(__)m 先日、こむら返りで早朝に目を覚まし、こむら返りを何か物語にできないかと模索していたところ、少々強引ではありますが、このような物語が出来上がりました。辛い辛いこむら返りですが、赤い糸の相手と出会うために、赤い糸同士が引き合っているのだとしたら、とてもロマンチックなものになるでしょうね。

さて、今回も記事の中にボタンを埋め込ませていただきますが、どうぞよろしくお願い申し上げます。

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