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2007.05.19

映画『眉山-びざん-』とガンモのリベンジ

 最近、ガンモと二人で映画を観に行くことが多くなった。ガンモが興味を持ちそうな映画の前売券を、私が派遣会社の福利厚生サービスを利用してせっせと購入しているからだ。今回は、『眉山-びざん-』を観るために明石市にあるワーナー・マイカル・シネマズ明石まで、ガンモと車で出掛けて来た。

 我が家からワーナー・マイカル・シネマズ明石までは、電車でおよそ一時間十五分くらいのところにある。高速道路を利用すると、十五分ほど短縮されておよそ一時間ほどで着く。かつて私は、その近辺で仕事をしていたことがあった。ワーナー・マイカル・シネマズ明石や隣接しているサティには、仕事帰りにしばしば足を運んだものだった。同じ敷地内にはスポーツクラブや入浴施設があり、早く仕事を終えた日にはそれらの施設を利用していたこともある。私がその近辺で仕事をしていたのは、確か一九九八年から一九九九年にかけてのことだったと思う。あれ以来、ほとんど足を運んでいないので、およそ八年振りの訪問となったわけである。さすがに八年も経つと、周辺もかなり開発が進み、それまで影も形もなかったマンションがいくつも並んでいた。

 駐車場に車を止めたあと、すぐに映画館のカウンターに出向き、発券してもらった。ワーナー・マイカル・シネマズ明石は、先日出掛けた三田(さんだ)にあるワーナー・マイカル・シネマズよりも幾分空いている。上映時間までおよそ一時間半余りあったので、私たちはしばらくショッピングを楽しんでから再び映画館に戻った。

 この映画を語るには、『眉山-びざん-』の原作者の話から始めなければならないだろう。『眉山-びざん-』の原作者は、シンガーソングライターのさだまさしさんである。ガンモはさだまさしさんのファンで、彼のレコードを何枚も持っている。一方、ファンの皆さんには申し訳ないのだが、私は彼の音楽があまり好きではない。(ファンの皆さん、ごめんなさい。あくまで、好みの問題です)。ガンモには、さだまさしさんのコンサートに行こうと何度も誘われているのだが、私はなかなか「うん」と言わずにここまで来た。しかし、
「チケットが取れたら行ってもいいよ」
とは言ってある。

 それはさておき、一年ほど前にたまたま漫画を読んでいたときに、さだまさしさん原作の『眉山』が漫画化された作品を読んだ。そのとき、あまり好みではないはずのさだまさしさん原作の物語だとというのに、不覚にも感動して泣いてしまったのである。その漫画は、前編と後編に分かれて構成されていたのだが、私が購入した漫画は古本だったため、後編を読むことができずにずっともやもやしていた。そして、数ヶ月ほど前にこの作品が映画化されることを知ったとき、前編の漫画であれだけ泣いてしまったのだから、きっと感動的な映画に仕上がっているに違いない。ガンモもさだまさしさんを好きだと言っているし、派遣会社の福利厚生サービスで前売券も格安で入手できる。よし、ガンモと一緒にこの映画を観に行こう。そう思ったわけである。

 前売券を購入したあと、ガンモに、
「さだまさしさん原作の『眉山-びざん-』を観に行くからね」
と言うと、ガンモは「眉山」という名前に反応した。ガンモはかつて、仕事の関係で徳島市に住んでいたことがあるので、徳島にある「眉山」という山を知っていた。しかし、さだまさしさんが同名の小説を発表したことは知らなかったらしい。つまりこの映画は、私が漫画の前編だけ読んで、その感動的なストーリーに引き込まれ、さだまさしさんファンのガンモが徳島にある「眉山」という山を知っているという少し中途半端な状況で観ることになったのである。

 映画を観終わった感想から言おう。率直に言うと、私は漫画を読んだときほど大きな感動には包まれなかった。しかし、私たちの席の後ろからは、鼻をすすり上げる音がいくつも聞こえていた。先日、『ハンニバル・ライジング』にガンモを誘って、ガンモをひどく怒らせてしまった私だが、私自身の手応えからすると、今度もガンモをがっかりさせてしまったのではないかと心配だった。
「どうだった? あまり泣けなかったよね?」
と私が言うと、ガンモはしばらく黙っていた。そして、ようやく口を開いたかと思うと、
「涙が何度もこぼれて、顔から垂れて来た」
と言うではないか。
「ええっ? マジ?」
と私は驚いた。ガンモは眼鏡を外して、頬を伝った涙の後を私に見せてくれた。一体どうしたというのだろう。ガンモは、
「やっぱりさだまさしは凄い」
と言う。そして、どのシーンで感動したかを、饒舌に語り始めたのだった。私がきょとんとしていると、
「まるみは何にもわかってない。映画の表面的な部分しか観てない」
と言う。

※ここからネタバレ(ここから先はしばらくネタバレが続きますので、まだこの映画をご覧になっていない方で、ご覧になる予定のある方は読み飛ばしてください。ネタバレが終了するまで、色を変えて書いておきます。)

 二人でいくつもの映画のシーンを振り返りながら、ガンモが熱く解説を加えて行く。確かに、ガンモの解説を聞いていると、私自身、見落としてしまっている箇所がいくつもあった。例えば、松島菜々子さん演じる娘の咲子が東京で自分の本当のお父さんを探すシーンで、咲子はお父さんが開業している個人病院の診察室に入って行く。もしも私がこの映画の脚本を書くなら、お父さんの住んでいる場所だけ確認して、中には入らずに立ち去るように書くだろうと思う。しかし、咲子はそこで自分の本当の父に会う。それが実現できたのは、そこが一般の家庭ではなく、個人病院だったからだとガンモは解説する。なるほど、そこまで考えられて脚本が書かれているのだとしたら素晴らしい。しかし私は、そのシーンが妙に引っかかったのだ。咲子の立場からすると、本当のお父さんがどのような人なのか、知りたい気持ちもあると同時に、知りたくない気持ち、お父さんに迷惑をかけたくない気持ちもあると思うのだ。そうした葛藤が表現されずに診察を受けているようで、私には不自然に思えてしまったのである。

 また、阿波踊りのシーンで、咲子と宮本信子さん演じるお母さんたちと、本当のお父さんである篠崎氏が対岸に立つ。これが何を意味しているかということについてガンモは、現在の二人(篠崎氏とお母さん)の距離感を示していると語った。つまり、既に目と鼻の先で顔を合わせられるような関係ではなくなってしまっているということである。そうした二人の距離感を、ガンモは対岸のシーンから読み取っていた。

 更に私には、この映画の中で不自然に思えたところがある。それは、小児科の先生と咲子の会話が、お母さんのことばかりだったことだ。確かに咲子の頭の中はお母さんの病気のことで頭がいっぱいだったかもしれない。しかし、そのような状況の中にあっても人を好きになったのだから、もっともっと好きになった相手のことを知りたいと思うのが乙女心なのではないだろうか。小児科の先生の小さい頃はどんな子供だったのかとか、二人の会話の中に、咲子のお母さんのことだけでなく、もっと小児科の先生自身にまつわる話が挿入されていても良かったのではないかと思う。そのことを私が指摘すると、ガンモは、
「そういう話は映画のストーリーとは別のところで流れているはずだから」
などと言う。ガンモの解釈は完全に原作者の肩を持っているのだった。

  もう一つ、私が不自然に感じたのは、この映画の中では、不倫のどろどろした部分が一切表現されていないところである。私には、まるで不倫の美しいところだけを書き出したストーリーのように思えてしまった。咲子のお父さんは東京で個人病院を開いているが、患者さんからとても慕われている良い医師である。そのような良い医師ならばなおさら、不倫に対する自責の念にかられてもおかしくはないはずだ。しかし、そうした二股の苦しみは、この映画の中ではほとんど表現されていない。すなわち、医師の本妻との生活がほとんど描かれていないのである。こうした葛藤や苦悩は、原作にはちゃんと存在していたのだろうか。それは原作を読んでみなければわからないが、ガンモはさだまさしさんのファンであるばかりに、映画で表現されていない部分を自分で穴埋めしていたのである。

※ネタバレおわり

 映画を観終わった感触としては、先日の『ハンニバル・ライジング』とは正反対の状況となってしまった。私たち夫婦には、しばしばこういうことが起こる。何かが一方に傾くと、すぐにもう片方に傾いて、バランスを取ろうとするのだ。平たく言えば、私たちには素早くリベンジがやって来る。

 それにしても、何故、漫画を読んだときにはあれだけ泣けたはずなのに、映画ではあまり泣けなかったのだろう。この映画では必ず泣けるはずだと身構えていたからなのだろうか。それとも、単純に相性の問題なのだろうか。

※皆さん、いつもたくさんの応援クリックをありがとうございます。m(__)m もともと、私にはこの手のストーリーに身構えてしまう傾向があったのですが、漫画を読んだときは確かに感動したのです。しかし、「本当に好き」 ということについて、またしても考えさせられてしまいました。押したり引いたりするところで、自分の価値観と照らし合わせて考えました。更に、この映画には、献体というもう一つの大きなテーマも隠されています。献体とは、亡くなったあとに、遺体を解剖実習の学生さんたちに提供することです。自分の亡骸が、今後の医学のために役立つように、医学生を応援する形で行われているようです。

さて、今回も記事の中にボタンを埋め込ませていただきますが、どうぞよろしくお願い申し上げます。

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