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2007.05.30

ゲイフレンドリー

 夏休みに出掛けるロンドンの滞在先はなかなか決まらなかった。先日も書いたように、ロンドンのホテルはとても高いので、私は格安で宿泊できるユースホステルやゲストハウスなどを次々に候補に挙げていた。しかし、ガンモはそうした選択には消極的な姿勢を見せていた。ユースホステルは鍵が掛からないとか、部屋にシャワーが付いていないとか、いろいろなことを理由に挙げて来る。私がインターネットで検索して候補に挙げているのはダブルの個室なので、鍵が掛からないというようなことはないと思うし、お風呂付きは諦めたとしても、トイレが付いている部屋だってあるのだ。しかしガンモは、そうした冒険はしたくないようで、できればバス・トイレ付きの普通のホテルに泊まりたいと言うのだ。

 ガンモの職場には、イギリスに留学経験のある人がいる。その人は、いわゆる英語がペラペラで、世界を旅してはあちらこちらに友達を作り、帰国してからも、旅先で知り合った友達と互いに連絡を取り合い、再びその地を訪れるときには、友達の家に泊めてもらっているらしい。その人にユースホステルやゲストハウスのことを尋ねてみると、
「そういうところは怖いよ」
と言われたのだそうだ。そのため、ガンモは一層疑心暗鬼になっているらしい。しかし、私がインターネットで調査した限りでは、それほど怖いようなことはないと感じていた。

 先週の金曜日に病院で検診を受けたあと、映画の上映時間まで図書館でロンドン事情について調べてみた。図書館で読んだ本の中に、私が宿泊先として絞り込んでいたユースホステルのあるアールズ・コート周辺にはゲイの人たちが多いと書かれてあった。私は少し驚いた。その本の著者である男性がアールズ・コート周辺のアパート(だったと思う)を訪れたときに、トイレに入ったところ、トイレの鍵が掛からなかったそうだ。あまり気にも留めずに用を足していると、ふいにトイレのドアが開いて、後ろから男性に抱きつかれたのだそうだ。

 帰宅してからその話をガンモに聞かせると、
「アールズ・コート、禁止! 怖い」
と言った。確かに、異国の地でトイレに入ったときに、後ろからいきなり誰かに抱きつかれたら怖いだろう。しかし、それは私が候補に挙げていたユースホステルで起こった出来事ではない。私たちがアールズ・コートを訪れたからと言って、そういう出来事に遭遇するとは限らない。そう思うのは、私が女性だからだろうか。

 夏休みの訪問になるので、そろそろ本格的にホテルを予約しておかなければ選択肢がどんどん狭くなってしまうと思い、私たちは土曜日にあちらこちらのページを検索して、納得の行くホテルを洗い出していた。その中に、「ゲイフレンドリー」という記述があり、私たちは少し困惑したのだ。

 「ゲイフレンドリー」とは、文字通り、ゲイに対して好意的という意味だろう。ホテルのページに「ゲイフレンドリー」と書かれていたならば、「ゲイの方も歓迎致します」という意味にとらえて良いと思う。私たちは、この聞きなれない言葉に少々びびってしまった。「ゲイフレンドリー」という言葉から私たちが想像したのは、そのホテルに宿泊している人たちが、私たちを除いてみんなゲイであることだった。そして、寝ている間にガンモもゲイの仲間にされてしまうのでは・・・・・・。そんな勝手な想像を膨らませてしまい、そのホテルを宿泊の対象外にしてしまったのだ。

 しかし、良く考えてみれば、これは大きな偏見だったことに気が付いた。というのも、「ゲイフレンドリー」に関してインターネットで調べてみると、このようなページに辿り着いたからだ。そのページの回答には、「大概は、同性愛の人たちは同じように同性愛の人たちにしか恋愛感情のあるアプローチはしません」と書かれていた。目からウロコだった。私が図書館で調べたように、トイレの戸が開いて、後ろからいきなり抱きつかれるようなことは特例なのだろう。そしておそらく、そうした特例がゲイのイメージとして一人歩きしてしまっているのではないだろうか。

 大学時代、同じサークルに自分はゲイだとカミングアウトしている先輩がいた。先輩と言っても、私と同い年だ。私は別の大学を休学して翌年に再受験したので浪人扱いである。当時、私が所属していたのは、写真をまじめに撮る写真研究会というサークルだった。ゲイの先輩は、ライカ使いで芸術的な写真を撮る人だった。彼の住んでいた場所が私の住んでいた場所と比較的近かったので、学校帰りに一人で彼のアパートに寄せてもらったことがある。男一人、女一人、同じ部屋の中で数時間過ごしたが、何もなかった。先輩がゲイだということを知っていたので、私も構えがなかったように思う。

 結婚してから、東京の伊勢丹デパートで行われていた中古カメラ市に出掛けたときに、会場でその先輩にばったり会った。これまで中古カメラ市には何度も足を運んでいたが、大学のサークルで一緒だった人に会うのは初めてのことだった。先輩は、今でも芸術的な写真を撮り続けているのだろうかと、そのときふと思った。

 なるほど、そういうことか。私は、「ゲイフレンドリー」という言葉に慣れなくてたじろいでしまったが、ゲイという存在を思うとき、最も身近だったサークルの先輩のことを思い出せば良かったのだ。それなのに、つい最近本で読んだ、男子トイレに忍び寄り、後ろからいきなり抱きつくゲイのことを想像してしまった。そして、あたかもすべてのゲイがそうであるかのような偏見を抱いてしまった。サークルの先輩のような人が身近にいたにもかかわらず。サークルの先輩が、いきなりガンモに抱きついたりしないであろうこともわかっていたはずなのに。男女の恋愛だって、女性の同意なしに先へ先へと進められることだってある。それなのに、私が男女の恋愛を思うときは、そうしたネガティヴなイメージは排除してしまい、熱烈に愛し合う男女を思い描く。おそらく、男女の愛については、私自身が良ポジティヴな経験を重ねて来たために、常にポジティヴなイメージを引き出すことができるのだ。しかし、ゲイについては良く知らないために、本で読んだばかりのネガティヴなイメージを引き出してしまったのだろう。

 私は、同性愛に関しては偏見を持っていないつもりだったが、偏見を持たないという姿勢は、同性愛が自分とはずっと遠いところにあるときにのみ成立していたようだ。しかし、同性愛が自分の手の届くところまでやって来た途端、自分や周りの人に危害が及ぶのではないかと勝手な想像を膨らませてしまった。それだけ、同性愛を知らないということなのだろう。

 日本はまだまだ、同性愛を理解することに関して遅れを取っているらしい。言い換えれば、日本は他国に比べてオープンではないと言うことだ。イギリスのホテルの紹介ページでは「ゲイフレンドリー」という表現が使われているが、日本ではそのような表現を見たことがない。つまり、日本では、まだまだ「ゲイフレンドリー」である姿勢を公言することがためらわれる状態にあるということだ。男女の愛が大好きな私が同性愛主義者に変わることはないが、私自身もこれまでよりもっともっと偏見を捨てることができたらと思う。人と違うことの孤独なら、少しは理解しているつもりだから。

 結局私たちは、ガンモが見つけた四ツ星ホテルに滞在することになった。当初の予算よりも、ずっと割高になってしまった夏休みのロンドン旅行。そのロンドンで、まずはゲイの人たちへの偏見を取り除くプロセスを体験してみようと思う。

※皆さん、いつもたくさんの応援クリックをありがとうございます。m(__)m 「ゲイフレンドリー」という表現があることを、今回初めて知りました。思えば、歌手のエルトン・ジョンが男性パートナーと結婚されたのもイギリスでしたよね。むむむ、やはりイギリスは進んでいますね。ゲイのパートナーが見つかるだけでも凄いことなのに、長年寄り添うことができるというのも素晴らしいことだと思います。

さて、今回も記事の中にボタンを埋め込ませていただきますが、どうぞよろしくお願い申し上げます。

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