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2007.03.05

映画『ボビー』

 バグズ・ライフから解放された私は、比較的早い時間に仕事を上がることができた。ガンモに電話を掛けてみると、ガンモは仕事で遅くなると言う。そこで私は、レイトショーを観て帰ることにしたのだった。実際のところ、レイトショーを観ると決めても、すぐには観たい映画を思いつくことができなかったのだが、レイトショーの開始時間と映画の紹介ページに書かれている内容を照らし合わせながら、予備知識もなく臨んだのがこの映画である。

 映画館に入ってみると、驚いたことに、観客が私を入れて三人しかいなかった。ひょっとして、人々の心を大きく揺さぶる映画ではなかったのかと、一瞬不安になったものの、映画が始まってみると、そんな心配は一気に吹き飛んだ。私はこの映画から、非常に多くのものを受け取ることができた。最も引き込まれたのは、映画の中の台詞である。一言で言うと、この映画はとてもスピリチュアルな映画だ。スピリチュアルな感覚が好きな人は、この映画の台詞に強く引き付けられることだろう。とにかく、一つ一つの台詞がとても深いのだ。私は、このような深い台詞を書いた脚本家がとても気になった。調べてみると、この映画の脚本は、この映画の監督である俳優のエミリオ・エステヴェスが手掛けているのだそうだ。私はこの俳優を良く知らないが、とにかくスピリチュアルで素晴らしい脚本だった。おかげで、映画を観終わったあとも、とてもいい映画を観たという満足感でいっぱいだった。

 この映画は、先に暗殺されたジョン・F・ケネディ大統領の弟であるロバート・ケネディが暗殺される日に、暗殺現場となったアンバサダー・ホテルに居合わせた二十二人にスポットを当てたヒューマン・ドラマである。タイトルとなっている『ボビー』とは、ロバート・ケネディの愛称である。

 時代は一九六九年のアメリカである。ベトナム戦争の時代で、人種差別が深く根を下ろしている。登場人物は、アンソニー・ホプキンス演じるかつてのドアマン、金銭的に裕福な老夫婦、シャロン・ストーン演じるホテルの美容師、デミ・ムーア演じるアルコール依存症の歌手とその夫、ベトナム行きを回避するために結婚式を挙げる若いカップル、ドラッグでハイになっている若者たち、ホテルの厨房で働くメキシコ国籍の男性たちと、黒人の料理長などである。彼らが織り成すヒューマン・ドラマと、生前のロバート・ケネディの画像が巧みに繋げられている。当時を思わせるファッションや周りの雰囲気が、当時の画像と見事にマッチしている。個人的には、アメリカを代表するクラシックカメラが登場していたのが気になった。インスタマチックやアーガス、それから一六ミリカメラ(多分)などが、その時代の現役として活躍していた。

 ロバート・ケネディが政治活動を行っている映像が流れたとき、私はもう、映像を観ただけで、
「この人は政治家ではない」
と強く感じた。何だろう、この慈悲深い姿は。ロバート・ケネディは、貧困地区を視察し、その実像から目を背けることなく、そこで多くのものを受け取っていた。私はすぐに、現代の政治家を思い浮かべた。現代の政治家は、貧困地区を視察したりはしないのではないだろうか。ロバート・ケネディは、私が認識している政治家とは、顔の表情がまったく異なっていた。そして、気がついたのだ。私が政治家だと認識している人たちは皆、政治家という職業を演じている人だということに。政治家という職業を演じている人たちと、真に人の上に立つ人とは違うのだ。ロバート・ケネディは、真に人の上に立つ人だった。

 真に人の上に立つ人は慈悲深く、人種差別をしない。ロバート・ケネディは、国と国の違いを認めようと、政治演説の中で人々に訴えかけていた。力のこもったその政治演説に、彼の慈悲深さを感じて感動せずにはいられなかった。長い長い政治演説を、紙に書いた内容を読み上げるのではなく、自らの中から導き出しているという印象を受けた。そう、自発的に湧き上がって来るエネルギーを感じたのだ。ロバート・ケネディは、ベトナム戦争にも反対し、自分の国が平和でないのに、他の国に遠征すべきではないと訴えかけていた。真に人の上に立つ人は、政治演説をしても真実の言葉を使う。当時の彼の政治演説が大きなスクリーンに映し出されると、政治演説なのに、何故か聴いているだけで涙が出て来る。何故、涙が出て来るのだろう。何故ならそれが、真実の言葉だからである。

 アンバサダー・ホテルに居合わせた登場人物の中に、金銭的に裕福な老夫婦がいた。六十代後半と思われる老人には持病がある。ホテルの部屋でくつろいでいるとき、彼は長年連れ添った奥さんの目をじっと見つめ、
「君の服や靴ではなく、君の存在が愛しい」
と言う。ああ、この映画は素晴らしい。何でもないときにふと出て来る台詞が真実なのだ。相手をじっと観察し、相手の存在から愛を実感している証拠だ。その表現に思わず胸がじーんと熱くなる。私はこの映画が好きだ。この映画の脚本が好きだ。心からそう思えた映画だった。

 この映画を観れば、ロバート・ケネディの存在が多くの人たちから支持されていたことがうなずける。しかし、出る杭は打たれてしまった。その事実を変えることはできない。しかし、今のアメリカは、暗殺されたロバート・ケネディの遺志を継いだ未来になっているのだろうか。なってはいない。だからこの映画を、私は現代のアメリカ大統領や日本の首相、政治家たちに観て欲しいと思うのだ。誰が見てもわかることだろう。ロバート・ケネディが政治家という職業を演じているのではないことを。

※皆さん、いつもたくさんの応援クリックをありがとうございます。m(__)m 脚本が好きだと思えるような映画にはなかなか巡り合えないものですが、今回は巡り合うことができました。この映画を観て、アメリカに対する考え方が大きく変わりました。アメリカにも素晴らしい政治家がいたのですね。(苦笑)もしもロバート・ケネディが大統領になっていたとしたら、今のアメリカは大きく変わっていたかもしれませんね。上に誰が立つかで、国自体が大きく変わるのではないでしょうか。果たして、日本の今の首相の政治演説は、これが真実の言葉だと涙を流せるような内容でしょうか。

さて、今回も記事の中にボタンを埋め込ませていただきますが、どうぞよろしくお願い申し上げます。

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