« ペンション | トップページ | 週末婚の予感 »

2007.03.14

映画『パフューム ある人殺しの物語』

 これまで観たこともないような映画を観た。他の映画を鑑賞するために映画館に足を運んだときに、この映画の予告編を何度となく観ていたのだが、予告編を観る限りでは、単なるサスペンス映画なのだろうと思っていた。ところがどっこい、そんな先入観は見事に打ち砕かれ、知らず知らずのうちに映画の中の独特の世界に引きずり込まれてしまった。映画の紹介ページを見てみると、この映画の原作は、世界中で千五百万部も売れたベストセラー小説だとか。確かに、ベストセラーに輝くだけの内容である。

 タイトルにもある通り、この映画は殺人者の物語だ。しかし、彼は単なる殺人者ではない。香を求めて殺人を繰り返す、人並み外れた嗅覚を持つ調香師なのである。この物語は、殺人を繰り返す男の話ではあるのだが、ある意味とても純粋な物語とも言える。この映画を観ると、目的に対してあまりにも純粋であり過ぎることについて、深く考えさせられるのだ。

 誰しも、曲がりくねった道よりも、まっすぐな道を歩きたがるのではないだろうか。しかし私たちは、決して自分一人だけで生きているわけではない。自分が歩こうとする道の途中には、第三者が立ちはだかっているかもしれないのだ。曲がりくねった道を歩くということは、自分の目的を達成しようとするときに、第三者の自由意思を尊重して避(よ)けて通っていることに等しいのではないか。反対に、まっすぐの道を歩くということは、第三者の自由意思を尊重せずに突き進んでしまうことに等しいのではないか。この映画を観ながら、私はそんなことを考えていた。

 この映画の中でのまっすぐな道とは、「匂いを保存したい」という調香師の目的を達成することである。しかしその匂いは、生きているからこそ存在している女性の匂いでもある。その匂いを何とかして「保存」するために、調香師は次々に女性たちを殺害し、究極の香水を作り上げて行く。つまり、調香師がまっすぐな道を進むためには、女性たちの「生きたい」という自由意思は尊重されず、彼によって奪われてしまうのである。それでも、調香師はどこまでもまっすぐな道を歩いて行こうとする。目的に対してどこまでも純粋で、障害をものともしないのである。

 そしてもう一つ、この映画を観ながら思い出したことがあった。それは、かつて神戸で起こった連続児童殺傷事件のことである。あるとき嗅覚の優れた調香師は、自分自身に体臭がないことに気が付く。そのとき調香師は、かなりの衝撃を受けたのではないだろうか。何故なら、彼の鼻は遠くのものの存在を正確に嗅ぎ分けられるほど発達していたからだ。

 それほどの嗅覚を持った彼が、自分自身の体臭を感じることができなかったということはつまり、彼にとっては、彼自身が世の中に存在していないのも同然だということだ。そこで彼は、「究極の香水を作り、その香を保存する」という方法で、何としてでも自分の存在を世の中に知らしめたかったのではないだろうか。確か、神戸の連続児童殺傷事件の少年Aも、自分の存在意義について考えていると犯行声明文に書いていたと記憶している。皮肉なことに、この映画の調香師には体臭がないために、他の人たちに彼の存在を印象づけることなく、殺人を繰り返すことができた。体臭がないということは、目的達成のために殺人を繰り返す上では大変好都合なのだが、もともと存在が薄いからこそ、究極の香水を作って世の中に自分の存在を知らしめたくなる。彼は、そんな矛盾と戦っていたのではないかと思う。

 私がこの映画を神戸連続児童殺傷事件と重ねたのは、それだけの理由ではなかった。もう一つ、愛し愛される喜びを実感しながら生きることの大切さについて、深く考えさせられたからだ。罪の意識もなく、連続的に人を殺めることができるということ。それはすなわち、加害者が愛し愛される喜びからかけ離れたところにいるということの証ではないかと思ったのだ。

 この映画の中の調香師は、生まれた直後に母親に捨てられ、誰からも愛されることなく大人になってしまった。愛のぬくもりを知らないのだから、命を持つ者が存在することの尊さもわからないのかもしれない。

 この映画には、娘を溺愛するハリー・ポッターのスネイプ先生が登場する。正確には、スネイプ先生を演じているアラン・リックマン扮する貴族の娘の父親だ。その父親は、ある意味、調香師とは対照的な存在である。娘への愛が過剰で、娘を失うことを常に恐れているのだ。そんな娘を、調香師は嗅覚を駆使して追い掛けて行く。

 最終的に、調香師は愛を知ることができたのだろうか。いや、できなかったのだ。それどころか、この映画には驚きの結末が用意されている。この意外な結末に、私たちは、いつまでも映画の余韻を引きずることになる。殺人という内容はともかく、映画として割り切って観るならば、ストーリーといい、時代の雰囲気といい、キャスティングといい、完璧な仕上がりだと私は思う。

 こうした映画を観ると、殺人者を更生させようとして刑務所に送り込むことは無意味だと感じてしまう。特に、この映画の調香師のように、罪の意識を持たない殺人者にとっては。彼らに必要なのは、愛し愛される喜びを知ることだ。冷たい刑務所の中では、愛し愛される喜びを知ることなどできないのではないだろうか。

※皆さん、いつもたくさんの応援クリックをありがとうございます。m(__)m 最近、思わずレビューを書きたくなるような映画に巡り合えることが多いようです。この映画も、何気ない気持ちで派遣会社の福利厚生で前売券を購入して出掛けて行ったのですが、大当たりでした。もしもこの映画を観ようかどうしようか、迷っていらっしゃる方がいらっしゃいましたら、私がポンと肩を押して差し上げます。(笑)

さて、今回も記事の中にボタンを埋め込ませていただきますが、どうぞよろしくお願い申し上げます。

哲学・思想[人気blogランキング]に

上記ボタンをクリックしてくださいますと、一日に一回、ランキングのポイントに加算されます。もしも毎日のように「ガンまる日記」を読んでくださっているならば、記事に共感したとき、あるいは応援してもいいと思ったとき、ポチッと押してくださると、大変うれしく思います。

|

« ペンション | トップページ | 週末婚の予感 »

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/18521/14272404

この記事へのトラックバック一覧です: 映画『パフューム ある人殺しの物語』:

» ユーチューブ パフューム 動画 [ユーチューブ動画FAN]
ユーチューブでパフュームの動画が話題を呼んでいます。。。 映画 パフューム・・・ 世界各国でベストセラーとなった原作が待望の完全映画化です!!  奇想天外な香りの世界。。。 [続きを読む]

受信: 2007.03.26 02:44

« ペンション | トップページ | 週末婚の予感 »