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2007.03.13

ペンション

 さて今回は、旅行中に予告させていただいた通り、ペンションについて書いてみようと思う。

 ペンションという言葉を辞書で引いてみると、「民宿風の小ホテル。民宿の家族的雰囲気とホテルの機能性を兼ね備えた宿泊施設」とある。今回宿泊したペンションにこの定義を当てはめてみると、「なるほど」と思った。

 いつもはホテルか旅館に宿泊している私たちが、今回に限ってペンションを宿泊先に選んだのは、すぐ近くにある大きな宿泊施設が満室のために予約ができなかったからである。私は学生時代にペンションに宿泊したことがあったのだが、ガンモは初めてだったようである。しかし私は、既に遠い昔の学生時代のことできれいさっぱり忘れてしまっていたので、ガンモと一緒に新鮮な気持ちでペンションの家庭的な雰囲気を楽しませていただいた。

 宿泊したペンションの外観は、以下のような感じである。

三角屋根のペンション

 この写真は出発直前の朝に撮影したものだが、着いたときは夜だったので、三角屋根の建物に明かりが灯され、いかにもメルヘンチックな雰囲気が漂っていた。

 ペンションを経営されているのは、熟年のご夫婦だった。昭和六十三年からの営業許可証が掲げられていたので、バブルの終わり頃に脱サラしてペンションを購入されたのかもしれない。

 先日の日記にも書いたように、私たちは迷いに迷ってようやくペンションに辿り着いたので、到着後、部屋に荷物を置いてすぐの夕食となった。入口の隣に吹き抜けの食堂があり、そこでオーナーの奥さんの手料理である洋食のコース料理をいただいた。

 食堂には、品のいいピアノ曲が流れていて、私たちはその雰囲気に酔いしれていた。チェックインの手続きをしてくださったオーナーの奥さんが、少しずつ手料理を運んでくださる。奥さんとご主人さんの他に従業員らしき人はいない。本当にご夫婦二人だけで運営されているペンションだった。

切り立った三角屋根

 宿泊客は、私たちの他にもう一組、カップルが居た。あとでわかったことだが、夕食を食べない六人組のグループも宿泊していた。

 コース料理には、肉料理のメインディッシュのほか、自家製の生野菜と温かいスープ、食後にはハーブティーと自家製のケーキが出された。また、あのあたりはおいしい水が豊富にあるらしく、おいしい水で炊き込まれたご飯がまたおいしかった。どのお料理もとてもおいしかったのだが、私が特に注目したのは、自家製のブレンドハーブティーである。

 そのハーブティーは、自家製のケーキと一緒に運ばれて来たのだが、その色合いからして勝手に緑茶だと思い込み、ケーキに緑茶とは珍しいものだと心の中で密かに思っていた。しかし、テーブルに並べられるときにオーナーの奥さんによって添えられた言葉は、ミントとカモミールをブレンドしたハーブティーということだった。私は、職場でもハーブティーを好んで飲んでいるのだが、このハーブティーは、これまで出会ったこともないくらい素敵な味だった。ミントとカモミール、両方のおいしさが存分に引き出されていて、私は感動のため息を漏らした。ああ、この感動をオーナーの奥さんご本人に伝えなければ・・・・・・と思っていたのに、オーナーの奥さんは、私たちがゆっくり食事が出来るように気を遣ってくださったのか、すべての食事を運び終わると、奥に引っ込んでしまわれたのである。

 オーナーの奥さんがケーキを運んで来てくださったときに、食事をしていたもう一組のカップルに向かって、
「あちらに本棚があるので、よろしかったらどうぞ」
と案内されているのが聞こえて来た。そのカップルたちは、食事が済むとさっさと部屋に上がってしまったが、私は本棚を見に行った。その本棚には、ハーブティーに関する本がたくさん並べられていた。本棚には張り紙がしてあり、本を部屋に持ち出しても良いが、必ず元の位置に戻しておいて欲しいと書かれてあった。私は、ハーブティーの本を一冊お借りして、部屋に戻った。この本は、さきほどいただいたばかりのおいしいミントとカモミールのブレンドハーブティの一部を作っているはずだ。そう思いながら、私はハーブティーの本から何かを学び取ろうと、必要な事項を書き留めたりしながら読ませていただいた。

 部屋にはベッドが二つ設置されていた。つまり、ツインルームである。傾斜のきつい天井には天窓があり、床暖房の暖かい空気が優しく私たちを包んでいた。
「床暖房、いいねえ。喉に優しいよ」
と言いながら、私たちははしゃいでいた。私たちの家にも床暖房の設備はあるのだが、フローリングされたリビングではなく、カーペットが敷かれた寝室にある。寝室にはものがいっぱいに溢れているので、現在は床暖房が機能していない。ペンションにあったフローリングの床暖房は、とても贅沢ではあるが、喉にとえてもやさしく、床にぺたんと座って本を読んだり、パソコンを開いたりすることがとても気持ちが良かった。人間の身体は、下から暖めるのが一番心地いいのではないだろうか。エアコンが苦手な私はそう思うのだった。

天窓

 私たちが部屋でくつろいでいると、ドアをトントンとノックする音が聞こえて来た。
「はあい」
と返事をすると、
「お風呂にはもう入られましたか?」
とオーナーの奥さんの声がした。そう言えば、さきほど、お風呂は地下一階にあり、二十三時までと聞いていた。まだ二十時を過ぎたばかりだったが、オーナーの奥さんがおっしゃるには、別のグループの方たちがそろそろ帰って来られるので、早めにお風呂に入っておいたほうがいいということだった。部屋にはトイレの設備はあるがお風呂はない。そこで私たちは、すぐに支度を整えて、お風呂に入りに行ったのである。

 お風呂と言っても温泉ではなく、普通の家庭のお風呂を大きくしたような浴室だった。浴室に続く更衣室には鍵を掛けられるようになっていて、グループ単位で占有することができた。つまり、いつも自宅で入っているのと同じように、ガンモと一緒にお風呂に入ることができるのである。温泉の大浴場だと男女別々に入るしかないが、家族風呂のように二人で一緒にお風呂に入れるのはありがたいことだと思った。お風呂を占有するためには、お風呂に入る前には「お風呂使用中」の札を掲げておくのである。

 お風呂は温泉ではないので、掛け流しでもなく、一般のお風呂と同じように風呂蓋がついていた。それも、大きな浴槽用にあつらえた大きな蓋だった。お湯が減った場合は、次の方たちのために注ぎ足してくださいと張り紙があったので、私たちは減った分のお湯を注ぎ足してお風呂から上がった。

 ホテルならば、歯ブラシや石鹸、シャンプー、浴衣などの備品が備えられているものだが、私たちが宿泊したペンションにはそれらの備品は用意されていなかった。しかし、私たちはそれらのものを用意して来たので、決して困らなかった。以前、飛行機のスカイマークエアラインズに乗ったときも思ったが、必要最小限のサービスで十分だと私は思う。

 トイレは洋式で、いまどきの暖かい便座ではなく、便座カバーが取り付けられているオーソドックスなものだった。ハンドソープと思われる石鹸は、洒落た模様付きの擦りガラス風のビンに収められていた。そして、トイレ内にも、室内にも、オーナーの奥さんの趣味と思われるちょっとした小物が飾られていた。私はそれらの小物を見ながら、ペンションの運営とは、オーナーが好きなもので固めた設備で訪問者をもてなすという意味で、ホームページの運営に似ていると思ったのだ。客室内や通路には、オーナーの奥さんの好きなものが至るところに飾られている。おそらく、そうした雰囲気を気に入った人たちがリピーターになるのだ。

おそらく、オーナーの奥さんの手作りのリース

ドライフラワー

 私たちは、暖かい床暖房の部屋でぐっすり眠った。翌朝の朝食は、手作りのパンとコーヒー、それからスクランブルエッグやサラダなどでもてなしてくださった。焼き立てと思われる手作りのパンが、これまたおいしくてため息が出た。ガンモもこのペンションがとても気に入ったらしく、
「また来るから」
と言った。

 朝食には、前日の夜には見掛けなかった六人グループが顔を出していた。大学を卒業して間もない社会人のグループのようだった。彼らはペンションに停車している車の台数を数え、「車の台数からすると、歩きのカップルがいる」と言っていたらしい。歩きのカップルとは、私たちのことだった。

 こんなふうに、快適な一夜を過ごしたペンションは、私たちに特別な思い出を残してくれた。冒頭に掲げたペンションの定義をもう一度掲載しておこう。「民宿風の小ホテル。民宿の家族的雰囲気とホテルの機能性を兼ね備えた宿泊施設」。確かに、民宿の家族的雰囲気とホテルの機能性を兼ね備えていた。しかし、もう少し宿泊客に干渉してくださっても良かったのにと思う。おいしかったハーブティーの感想や、お料理の感想をオーナーに直接話してお聞かせしたかった。音楽の趣味もとても良かった。それらを伝えそびれてしまったので、ここに書かせていただいた次第である。

※皆さん、いつもたくさんの応援クリックをありがとうございます。m(__)m ペンションは、オーナーが自分流にもてなす宿泊施設なのだと思いました。ホテルは会社が運営していますが、おそらくペンションは個人経営のところが多いのでしょう。他に従業員がいない分、ペンションへの思い入れもひとしおだと思います。掃除や洗濯、それから宿泊客の食事の支度、後片付け、お部屋のコーディネイトなど、すべてが好きでなければなかなか続けられないことだと思いました。でも、自分流のもてなしを気に入ってくださる方がいるなら、それは大きな喜びに繋がると思います。しかも、ペンションで自分流にもてなすというのは、家庭に導きいれるにも等しい行為です。単に電話やインターネットの予約だけで、どんな利用客がやって来るかもしれないというのに、家族的にもてなすというのは、なかなかできないことだと思いました。そうしたことへの守りの部分が、オーナーたちなりの工夫として、利用客と適度な距離を保つという態度に現れていたのかもしれません。

さて、今回も記事の中にボタンを埋め込ませていただきますが、どうぞよろしくお願い申し上げます。

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