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2007.02.01

敬意を払う

 「今日も『ガンまる日記』を書きたい!」と思っていると、まるでこれを書いて欲しいと言われているかのような出来事が身近で起こる。

 仕事を終えてひとまず三ノ宮に着いて、三ノ宮からJRに乗り換えるために駅のホームに上がってみると、新快速電車が到着しようとしているホームに、見慣れない制服を着た男性が二人、立っていた。外はとても寒かったが、その人たちは制服姿で仕事をしているためか、コートも着用していなかった。しかし、その人たちは寒そうな様子を微塵も見せず、顔には笑みさえ浮かべて、二人で何か会話を交わしながら新快速電車の到着を待っている様子だった。

 彼らは、ポケットに何十枚もの白いペーパーの入ったベルトを腰に巻き付け、手には塵取りを持っていた。更にその近くでは、年配の駅員さんが携帯電話で誰かと話をしていた。部分的に漏れ聞こえて来た会話の内容は、
「これから清掃です」
というものだった。

 電話を終えた年配の駅員さんが、制服を来た男性たちに何やら場所を示すと、彼らは指定された場所に少し移動し、そこで待機した。どうやら彼らはJR西日本の清掃スタッフで、これからやって来る新快速電車の停車中に車内を清掃するらしい。時間的にも遅い時間帯だったので、おそらくお酒に酔った乗客が車内を汚してしまったのだろう。

 お酒に酔った人が口から戻したものを始末するのだとすると、その作業は決して心地のいいものではないはずだ。しかし、彼らは相変わらず笑みさえ浮かべながら、新快速電車の到着を待っていたのである。

 私は、これから到着する新快速電車に乗車するつもりだった。しかも、彼らが立っていたのは、たまたま私がいつも乗車している場所に近かったので、これから彼らがどんな仕事をするのかをそっと見守りたいと思っていた。

 やがて到着時刻になり、新快速電車がホームに入って来た。降りる人たちが降りてしまうと、彼らは私たち乗客を気遣いながら、車内へと入って行った。車内に目をやると、閉まっているほうのドアの上部から下部にかけて、嘔吐物でべっとりと汚れている。

 彼らは手際良く嘔吐物の処置に取り掛かった。私は、すぐ近くの補助椅子に座ってその様子を見守っていた。かつて、いつも通勤に使っている地下鉄に乗っていたときにも、このような光景を目にしたことがある。そのときは、途中の駅から駅員さんが乗り込んで来て、処置をしていた。そのときの駅員さんの態度からすれば、あまり楽しそうに作業しているとは思えなかった。他にその仕事をする人がいないので、仕方なくやっているという感じだった。しかし、三ノ宮駅で待機していた彼らは、丁寧に、そして乗客に敬意を払いながら手際良く処置をしていた。一人がペーパーでふき取ると、もう一人が液体スプレーを振りかけて更にきれいにする。そして、使用したペーパーを塵取りの中に素早くしまい込む。

 新快速電車は、彼らの処置が終わるまで、三ノ宮駅でしばらく停車していた。私は、彼らの処置を見守りながら、詰まるような感動で胸がいっぱいになっていた。ここに居る人たちは、他人の嘔吐物を処理することを、こんなにも気持ち良くこなしている。しかも、処置の最中に、他の乗客に敬意を払うことを忘れない。

 彼らは実に手際良く処置を終わらせ、乗客に一礼して電車から降りて行った。彼らが降りようとしているそのとき、四人掛けのクロスシートに座っていた中年の男性が、
「ありがとう」
と彼らに言った。私も同じ気持ちだったのに、「ありがとう」を言い損ねてしまった。

 彼らは降りたあともすぐには立ち去らず、新快速電車が発車してしまうまでドアの外に立ち、見送っていた。何という敬意の表し方だろう。彼らは決して、嘔吐物を処理することが嫌ではなかった。むしろ、電車をきれいにすることを喜びとしていた。彼らの仕事もまた、神との仕事に違いない。

 帰宅してから、彼らの制服にプリントされていた会社名から、彼らの会社のHPを調べてみた。彼らは、ジェイアール西日本メンテックのスタッフだった。私も、彼らが電車を降りて行くときに「ありがとう」と言いたかった。だから、このことを記事に書かせていただいた。私たちの乗る電車をきれいにしてくれてありがとう。



神との仕事をしているジェイアール西日本メンテックの清掃スタッフ。感動のあまり、携帯電話に付属のカメラで思わず撮影してしまった。

※皆さん、いつもたくさんの応援クリックをありがとうございます。m(__)m 思えば、彼らは清掃を専門に行う仕事です。それに対し、私がかつて地下鉄で見掛けた駅員さんは、普段の業務とは違うことをしなければならないことで、「何で俺がこんな後始末をしなきゃいけないの?」という気持ちだったのでしょう。私は、全国あちらこちらを旅していますが、ジェイアール西日本メンテックのスタッフの方たちのような仕事ぶりは、他でも見たことがありません。乗客に対するあの敬意は一体何だったのでしょうか。まるで、自分たちのためにお急ぎのお客様をお待たせしてしまって申し訳ないといったように見受けられました。乗客に対し、そこまで敬意を払う必要はないと思いますが、一つの仕事を右から左に流さずに、笑みさえ浮かべながら素早く丁寧にこなしてくださったことに、私からも敬意を表します。

さて、今回も記事の中にボタンを埋め込ませていただきますが、どうぞよろしくお願い申し上げます。

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