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2007.02.09

ラストスパート

 いよいよWindows Vista対応の締切日である。めでたく三連休にできるかどうかは、今日の状況にかかっている。

 フレックス出勤すると、
「プログラムに修正が入ったので、修正の入ったプログラムを含むインストーラをすべてビルドしなおしてください」
とプロジェクトリーダーから指示を受けた。インストーラのビルドとは、最新のプログラムをビルド対象にして、セットアッププログラムを作成しなおすことである。何ということだ。前日の夜にもプログラムに修正が入ってビルドしなおしたばかりだというのに、もう一度、同じことを実践しなければならなくなったとは。修正の入ったプログラムに影響を及ぼすのは、私が担当している十製品のうち、八製品あった。私は再び悲鳴をあげながらも、慎重にインストーラの再ビルドに取り組んだ。

 ビルドが終わると、テストを担当してくれている派遣仲間と手分けして、OSごとにインストーラの正当性をチェックする。テストを始める前に、私はプロジェクトリーダーに、今日の予定を確認した。
「今日のこれからの予定はどうしますか? すべてのテスト項目を消化していると、もう間に合わないことは確実ですが、何が何でも納品してしまいますか?」

 厳密に言えば、Windows Vistaという新しいOSに対応するために従来のプログラムに手を加えたのだから、Windows Vista上で動作確認を行うのはもちろんのこと、旧OSでも動作確認を行っておく必要がある。特に今回は、プログラムに対してデジタル署名を行ったので、デジタル署名されたプログラムが古いOSでも問題なく動作するかを検証しておく必要があった。更には、OSがWindows Vistaのときだけインストールされることになっているファイルもある。それらのファイルが、Windwos Vistaには確実にインストールされ、旧OSにはインストールされないことも確認しておく必要があったのだ。

 しかし、ようやくすべてのインストーラをビルドし終えると、もう十四時近くになっていた。いつもフルセットでインストールテストを行うと、二人がかりで取り組んでも丸二日は掛かっている。この時間からすべての製品に対し、旧OSも含めてインストールテストを行うには、あまりにも時間がなさすぎた。

 プロジェクトリーダーは私の問いかけに対し、
「何とかして今日中に終わらせましょう」
と言った。そして、すべてのOSに対して動作確認を行うことは諦めて、Windows Vistaと、旧OSの中から一つのOSだけをピックアップしてインストールテストを行うことになったのだ。
「それじゃあ、土曜日の出勤はないですよね?」
と私が言うと、
「特に大きな問題がない限り、ないでしょう」
と言ってくれた。その一言で元気が出たのは言うまでもない。私の頭の中で、カニがピースマークのポーズを取っていた。ここまで来たら、とにかくラストスパートに向けて最善を尽くすしかない。

 それからは、目を皿のようにしてインストール確認を行った。いつも私たちの作ったプログラムのテストを担当してくれている派遣仲間が旧OS、私がWindows Vistaを担当した。何か一つでも問題点が見つかれば、ただちにプログラムを修正し、再びインストーラをビルドしなおすことになる。圧縮ファイルにして納品するため、インストールテストを行うにあたっては、いったん圧縮して解凍したものを使うことになっている。ごく稀に圧縮プログラムに潜在しているバグが悪さをして、圧縮前と圧縮後で中身が異なっていることがあるため、最も確実なこの方法を採用しているのだ。

 ここで万が一、インストーラをビルドしなおすようなことになれば、再びすべてのインストーラを圧縮して解凍し、圧縮する前のものとバイナリコンペアを取ってから再びインストールテストという手順になる。プロジェクトメンバーの間に緊張が走った。

 夕方になり、旧OSのテストを担当してくれている派遣仲間の担当分が終了したと報告を受けた。特に問題はないと言う。一方、Windows Vista上で動作確認を行っていた私は、わずかのテスト項目を残してはいたものの、特に問題もなく順調だった。どうか、このまま問題なく無事に終わってくれますように! そう願いながら、てきぱきとインストールテストをこなした。その結果、最後まで何の問題もなくインストールテストを終了させることができたのである。

 プログラムの開発に携わっている者にとって、納品直前に自分が作ったプログラムをテストするのは、かなりびくびくするものだが、このように、緊張の中でテスト項目を消化して行くと、やがて安心感に結び付いて行くものである。プログラムの開発段階で不透明な部分を残したままにしてしまっている場合、プログラムを作った私には不透明な部分があることがわかっているので、テストを始める段階から何となく落ち着かないものである。しかし今回は、十四時過ぎからインストールテストを始めてからずっと順調だったので、次第に確実な安心感へと変わって行ったのである。

 インストールテストが終了し、無事に納品を終えた。あとは、およそ一週間ののちに、圧縮して納品した製品がCD-ROMに焼き付けられて送付されて来るので、今度はそのCD-ROM媒体を使って再び同じインストールテストを行う。基本的には同じ動作確認になるのだろうが、そのCD-ROMがマスタ媒体となり、そのまま製品として世の中に出回って行くので、注意が必要なのである。

 フリーソフトでもない限り、皆さんのお使いのパソコンにインストールされているアプリケーションもまた、このようなプロセスを経て製造されたものだろう。特に、一つの製品が数多くのOSに対応している場合、このOSのときにはこの処理を行うといった分岐が、プログラムの中では行われている。納品前には、その分岐を網羅するためのに十分なテストを行うことが必須である。

 今回は、一般の方たちにはブラックボックスになっているであろうソフトウェアの最終テスト工程を敢えて詳しく記載してみた。しかし、私と同じ業界で働いている人たちにとっては、初歩的で物足りない内容になっているだろうと思う。それは、私自身がこの記事を書くに当たって、専門用語を多用し続けることに躊躇したからだ。何故なら、「ガンまる日記」を読んでくださっているのは、ソフトウェアの製造とは無縁の方が多いからである。

 去年の十二月くらいから今日まで、慌しく通り過ぎて行ったWindows Vista対応。まだ事務処理が残ってはいるものの、ここに来てようやく一息つくことができた。ラストスパートをあまりにもあっけなく駆け抜けてしまったので、忙しさから解放された実感がまだまだ沸いて来ない。これから自分の時間をどのように使ったらいいのか、あまりにも後回しにして来たものが多過ぎて、途方に暮れている。

 そう言えば、先週の金曜日は、好きなアーチストの公開録音に出掛けるために、いつもより早めに仕事を上がった。もしもあの公開録音が一週間後にずれていたとしたら、私はこのラストスパートに集中できなかっただろうし、そもそも公開録音に参加することもできなかっただろうと思う。何かに導かれているときは、道を開けて待ってくれているものだと実感した。

 ガンモにもWindows Vista対応が無事に終わったことを電話で報告した。帰宅して一緒にお風呂に入っているとき、ガンモは私にこんなことを言った。
「まるみが『かにカニ』って言うもんだから、俺の頭ん中もカニのことでいっぱいになった。俺も絶対カニを食べに行きたい!」

 どうやら、カニを食べたくなる気持ちは、コンピュータウィルスのように感染してしまうようである。感染しないようにするためには、最新のカニワクチンを適用しておくのが一番だろう。

※皆さん、いつもたくさんの応援クリックをありがとうございます。m(__)m Windows Vista対応も何とか無事に終了し、晴れ晴れと帰宅しました。掲示板の返信が滞っていたり、皆さんのサイトを訪問できなかったにもかかわらず、変わらぬご支援をいただき、ありがとうございました。これからぼちぼちと復活して行きたいと思います。知り合いの主婦の方に、「今、仕事がとても忙しいです。Windows Vistaと格闘してます」とメールに書いたところ、Windows Vistaが発売された頃、その方からメールが届き、「Windows Vistaの発売、おめでとうございます!」と書かれていました。どうやら、私がWindows Vistaそのものの開発に携わっていると思っていらっしゃったようです。(^^;

さて、今回も記事の中にボタンを埋め込ませていただきますが、どうぞよろしくお願い申し上げます。

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