期待と怠慢
今日は、月に一度の定時退社日だった。そのことをすっかり忘れて出勤したのだが、仕事中に、
「今日は定時退社日なので早く帰りましょう」
というメールが流れて来て妙に得した気分になった。月に一度の定時退社日は、正々堂々と定時に仕事を上がることのできるうれしい日なのである。
仕事を終えた私は、ガンモに電話を掛けた。ガンモはとても忙しそうに仕事をしていた。まだまだ仕事は終わらないと言う。私は、
「じゃあ、これから映画を観るね」
と言って電話を切り、映画館へと急いだ。上映時間が差し迫っていたからだ。
私の手元には、全部で七種類分の映画の前売券があった。どれも、派遣会社の福利厚生を利用して購入したものである。私は、それらの前売券の中から、『犬神家の一族』を選んだ。リメイクされた今回の作品は、三十年前と同じ市川崑監督の作品で、主役の金田一耕介役を三十年前と同じ石坂浩二さんがを演じている。しかし、正直言って、全体的に、三十年前の同じ作品よりもインパクトに欠けているように思えた。私には、大きな山場もなく、ただ流れて行くだけのドラマのように感じられたのだ。それでも、金田一耕介役は、石坂浩二さんにしかできないであろうことを再認識させられた。それだけ石坂浩二さんの存在は、金田一耕介役としてのイメージを世間に定着させているのだろう。また、三十年前と同じテーマ音楽が流れていたことも救いだった。
リメイクと言えば、今年リメイクされた『日本沈没』に対しても同じようにがっかりしたのを覚えている。この映画もまた、山場のない映画だった。映画を製作する技術は確実に進歩しているのに、映画を製作する側の情熱を感じることができなかったのは私だけだろうか。リメイクされた『日本沈没』が公開されているとき、あまりにも現代の技術に頼り過ぎているなどという声もちらほら上がっていた。同様に、今年見た『イルマーレ』も、リメイクされる前の韓国映画のほうが観た人の評価は高い。
過去に衝撃や感動を与えた映画をリメイクするのは、かなりのプレッシャーを背負う作業になるとは思う。何故なら、過去の作品を観て衝撃や感動を得た人は、新しい作品を観ても、かつてと同じくらいの衝撃や感動を得られるはずだという期待を抱いてしまうからだ。だから、過去の作品で衝撃や感動を味わった人たちの期待に応えるのは並大抵のことではない。過去の作品の衝撃や感動から生まれる期待に応えた上で、更に面白いと感じてもらうためには、リメイクされる作品は、過去の作品を絶対に上回らなければならないのだ。期待のないまま初めて映画を観ることと、過去の衝撃と同等の期待を抱いた状態で映画を観るということは、まったく別物なのである。
また、過去に大当たりした映画をリメイクする場合、過去にヒットした映画であることへの安心感が、返って映画作りを怠慢にさせてしまうかもしれない。過去の映画を観た人が抱く期待と、過去にヒットした映画であることへの安心感から来る製作側の怠慢が、リメイクされた映画から、映画作りの情熱や面白さや衝撃といったものを奪い去ってしまっているのではないだろうか。
※皆さん、いつもたくさんの応援クリックをありがとうございます。m(__)m 「リメイクされた映画が面白くなかった」という感想は、映画に対する期待から、感情がどれだけ動いたかで判断していたのですね。原作を読んでから映画を観る人にも同じことが言えるのではないでしょうか。ある意味、期待せずに映画を観るということは、その映画に対して完全に受身になることかもしれません。だからと言って、最後まで期待をまったく抱かないまま終わってしまうのは、投げやりな人生を送っているようにも思えます。もちろん、期待通りで面白いと感じることもあると思います。期待をまったく抱かずに、扉をぴしゃっと閉めてしまうのではなく、受け取るものを受け取ることができるだけの扉を開けてのぞむことが大切なのでしょうね。
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