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2006.11.17

マフリャー(後編)

 国立蛇研究所の所長は、太ったおばさん夫婦の蛇に、強力な毒消しを注射した。その毒消しは遺伝子にまで到達し、今後この夫婦の蛇に生まれる子供は毒を持たない蛇となるという。
「チクリとしますが、いいですか。はい、チクリー」
本当にこの人に任せてしまっても大丈夫なのだろうかと不安になってしまうくらい、ギャグを連発したがる所長だった。所長は更に、蛇が寒い冬の間でも活動できるような改良を加えた遺伝子を組み込んだ。そして、最後の仕上げとして、暖かい毛皮を持ったミンクの遺伝子と、太ったおばさん夫婦の蛇の遺伝子を仲良く絡ませて、二匹の体内に埋め込んだ。この遺伝子がうまく作用すれば、およそ十日間ほどで暖かい体毛が生えて来るはずだという。太ったおばさん夫婦の蛇には、身体の中に起こって行くであろう大きな異変が予測されたため、蛇専用のベッドに縛りつけられたまま十日間を過ごした。

 「毛が生えて来てる!」
十日目の朝、目覚めた太ったおばさんの蛇は、自分の身体に毛が生えて来ているのを確認して、喜びの声をあげた。見ると、夫の蛇にも同じように毛が生えている。それらはまだ産毛だったが、太ったおばさん夫婦の蛇のほぼ全身を覆い尽くしていた。

 「やった! 成功じゃ! このあと、ご夫婦が性交すれば、ご夫婦の間に生まれて来る子供たちはみんな、ミンクのような毛を持つ蛇になるぞよ」
所長はまたしてもシャレを飛ばしながら大喜びしていた。所長のシャレは、いつも説明が必要になるくらいにわかりにくい。何はともあれ、所長が行った改良は、大成功を収めたのである。

 やがて、太ったおばさん夫婦の蛇の全身は、ミンクの毛皮で包まれるようになった。二匹の蛇が這っていると、高級なマフリャーが一人で勝手にもぞもぞと動いているかのようだった。

 太ったおばさん夫婦の蛇は、まもなく国立蛇研究所を出て、仲間たちのところへ戻った。二匹を迎えた仲間たちは、全身を毛皮で覆われた二匹を見て、驚きの声をあげた。
「大成功だ! これで人間たちと仲良くなれるぞ。ばんざーい、ばんざーい」
蛇たちは尻尾を取り合って大喜びした。更にありがたいことに、国立蛇研究所の所長からのプレゼントで、十日間飲み続けるだけで、太ったおばさん夫婦の蛇のような暖かい体毛を持つ蛇に生まれ変わることのできる秘薬を手土産に持たせてくれていたのだ。すべての蛇が我も我もとその秘薬を飲み、十日後には、すべての蛇に産毛が生えて来たのである。やがて、すべての蛇が高級なマフリャーに変身した。

 一方、人間たちの世界では、高級な毛皮に包まれた蛇が登場したということが広まり、大変な騒ぎになっていた。これまで気持ち悪いと思ってなかなか近づくことのなかった蛇が、高級な毛皮に身を包んだ動物に生まれ変わったのである。やがて蛇は、生きたまま捕獲され、値段がつけられ、マフリャーとして人間たちの首に巻かれるようになった。高級デパートのマフリャー売り場には、暖かい体毛に包まれた大蛇たちが並べられていた。彼らは人間たちの首を暖めることで、人間たちにかわいがられるペットとなったのである。これまで忌み嫌われる存在だった蛇たちにとって、こんなうれしいことはなかった。

 蛇たちは、人間たちのペットになると、おいしいものをたくさん食べさせてもらえることを知った。そして、これまで人間たちにかわいがられていた動物たちが、いかに優遇されていたかを知ったのである。蛇たちは、これまでにない待遇に浮かれていた。

 しかし、このような浮かれモードも、そう長くは続かなかった。冬の間は、首に巻かれて人間たちにかわいがってもらえる蛇たちだったが、蛇たちがもっとも生き生きと活動している夏の間は、マフリャーとしての役目を果たせないため、人間たちにかまってもらえないことが次第に蛇たちのストレスになって行った。また、夏の間、防腐剤の効いたタンスの中に仕舞われることに対して、不満を訴える蛇も出て来た。そして、とうとう、蛇のマフリャーを覆す、衝撃的な事件が起こったのである。

 それは、ある心ない人間の行為から始まった。彼女はとても裕福だったが、蛇に食べさせる餌を何とかして節約したいと思っていた。彼女がこれまで使っていた毛皮は、死んだ動物の毛皮だった。死んだ動物に餌を与える必要はない。蛇もそうあるべきだ。彼女はそう思い、使用人に命じてマフリャーの蛇を殺し、蛇の身体に生えている暖かい毛皮だけを剥ぎ取ったのである。そして、あたかも蛇が生きているかのように、蛇の模造品を作らせ、剥ぎ取った毛皮を貼り付けて、マフリャーとして首に巻いたのだ。

 人間たちにはわからなかったが、マフリャーとなって、別の人間たちの首に巻かれている蛇たちには、そのマフリャーがもはや生きている蛇ではないということがすぐにわかった。彼女は、マフリャーの蛇があたかも生きているかのように振舞い続けていたので、蛇たちはいよいよ不審に思った。そして、蛇の興信所を使って事実を調査したところ、自分たちの仲間が彼女の使用人によって殺されたことを知ることになるのである。蛇たちは、仲間の死を心から嘆き悲しんだ。

 彼女は、ある社交の場において、お酒に酔った勢いで、自分は死んだ蛇の毛皮を使っていると暴露した。すると、彼女の真似をする人がまたたく間に増えて行ったのである。人間たちは次々にマフリャーの蛇を殺し、暖かい毛皮だけを剥ぎ取って、蛇の模造品に毛皮を貼り付け、首に巻き始めた。多くの人間たちは、マフリャーの蛇の世話を面倒だと感じている上に、蛇に与える餌を節約したいと思っていたようだった。蛇たちは、この事実に強い衝撃を受け、もう二度と子孫を反映させないと誓った。

 「俺たちは、ずっと人間たちと仲良くなりたいと思っていたけど、人間たちが動物をかわいがる理由がやっとわかったよ。彼らは、自分たちの利益に繋がるかどうかで、どの動物をかわいがるかを決めるんだ」
最後に残った蛇が、恨み言のようにそう言って、森のどこかに去って行った。このようにして、暖かい毛皮を持ったマフリャーの蛇は、世の中から姿を消してしまったのである。

※皆さん、いつもたくさんの応援クリックをありがとうございます。m(__)m 動物に対する人間の愛情は、どこまでが本物なのでしょう。そもそも、動物を捕獲するという行為が、私には不自然に思えてなりません。ペットショップで動物を「買う」という行為にも、抵抗があります。ペットショップで「買って」、無責任に捨てられてしまう動物も、世の中には多いですよね。彼らは人間に対して、一体どのような感情を抱いているのでしょうか。餌を与えてくれる優しい人なのか、それとも、自分の都合のいいときだけかわいがってくれる人なのか。一度、彼らの気持ちを聞いてみたいものです。もしかすると、利用されているのは、私たち人間のほうだったりして・・・・・・。(^^;

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