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2006.11.16

マフリャー(前編)

 名古屋の人は、マフラーのことをマフリャーと言うのだろうか。そう思って「マフリャー 名古屋」という検索キーワードで検索してみると、かなりのサイトがヒットする。それはさておき、今日はマフリャーに関するショートショートをお送りしよう。

 蛇は、自分たちが人間たちに忌み嫌われる存在だということをはっきりと自覚していた。しかし、そのことは、蛇たちにとって大変不名誉なことだったのだ。何とかして人間たちに好かれるような存在になりたい。そこで、蛇たちは、皆で集まって会議を開いたのである。

 会議の席で、ある蛇が言った。
「人間たちが私たちのことを忌み嫌っているのは、私たちが体温を感じる存在ではないからじゃないだろうか」
それを聞いた別の蛇が口を開いた。
「なるほど。確かに、人間にかわいがられている犬や猫たちは、体温を感じられる存在ですね」
「その通りです。だから、私たちも体温を感じられる存在に生まれ変わればいいのです」
会議に参加している蛇たちは、これはいいアイディアだと思ったが、体温を感じられる存在に生まれ変わるのは、並大抵のことではないこともわかっていた。誰もそのことを口にしないでいると、中年の蛇が口を開いた。
「体温を感じられる存在に生まれ変わるのはかなり難しいと思います。せめて、人間たちに暖かさを与えられる存在になることはできないでしょうか」
それに対し、年配の蛇が口を開いた。
「そう言えば、人間たちにかわいがられている犬や猫には暖かい体毛がある。しかし、私たちには暖かい体毛がない。暖かい体毛さえあれば、人間たちにかわいがってもらえるのではないだろうか」
「なるほど! 体温を感じられる動物になるよりも、身体に毛を生やすほうがきっと近道に違いない」
「そうだそうだ!」
ほとんどの蛇が賛成意見で盛り上がっているところへ、水をさす蛇が出て来た。
「でも、暖かい体毛なんかなくても、熱帯魚のように、人間たちに気に入られている動物はたくさんいる」
せっかくいい案だと思っていたのに、水をさされてしまったので、蛇たちは揃ってため息を漏らし、やがてしんと静まり返った。しばらくすると、沈黙を破るかのように、のっぽの蛇が口を開いた。
「熱帯魚たちが人間たちに気に入られているのは、彼らの肌の模様が美しいからじゃないだろうか。それに、彼らは、人間が観賞するのに、手頃な大きさだ」
「なるほどなるほど。私たちは、肌の模様も美しくないし、大きさもまちまちだからね」
そう言うと、頭にリボンを付けたおしゃれな蛇が、
「あら、私の肌の模様は美しいですわよ」
と胸を張って言った。(作者注:実際のところ、蛇の胸がどこにあるのか良くわからない。)すると、おしゃれな蛇の隣で話を聞いていた蛇が、
「肌の模様は確かに美しいかもしれんが、お前さんには毒があるからねえ」
と言った。確かにその蛇の肌の模様は美しかったが、彼女は人間たちが最も恐れている毒蛇だったのである。
「ははあ、こういうところに人間が忌み嫌う原因があるのかもしれませんね」
学者タイプの蛇がそう言うと、おしゃれな蛇は、がくっとうなだれた。

 蛇たちは、長い時間、ああでもない、こうでもないと言いながら討論を繰り返していた。途中で何度も休憩を挟みながら、何時間も何時間も討論を続けた。やがて、討論に疲れて果てて皆が黙り始めた頃、
「マフリャー」
と誰かが言った。太ったおばさんの蛇だった。
「暖かい体毛を生やして、マフリャーになって、人間たちの首回りを暖めてあげればいいんじゃないかしら?」
彼女の瞳があまりにも輝いていたので、他の蛇たちの瞳にも輝きが移り、皆の瞳が次第に輝き始めた。すると、太ったおばさんの蛇とは対照的なやせっぽちの蛇が口を開いた。
「そう言えばおいら、以前、大きな病気をして、国立蛇研究所にお世話になったことがあるんだ。おいら、あそこの所長にとても世話になって、今でも交流があるから、相談してみようかな?」
「国立蛇研究所? そこに行けば、毒を取ってもらった上に、私たちにも暖かい体毛が生えて来るっていうのかい?」
「うん。日本で一番有名なところだから、大丈夫だと思うよ。そこの所長さんは、おいらたちのこと、何でも知ってるよ。おいらが知らないことまでさ。これはおいらの考えだけど、おいらたちの中から代表で男の蛇と女の蛇を一匹ずつ選んで、国立蛇研究所に連れて行って、暖かい体毛のある蛇に改良してもらうんだ。すると、その二匹の蛇から生まれるすべての子供には、暖かい体毛が生えるってわけさ。もちろん、毒を抜くこともできるはずだよ」

 その提案に対し、会議に参加していた蛇たちの間で一斉にどよめきが起こった。一体どの男女が国立蛇研究所を訪れるのか? 「俺が行く」、「お前が行け」、「私が行くのよ」。まあ、とにかく、やんややんや大騒ぎになった。しかしやはり、選ばれるのは、夫婦の蛇で訪れなければ意味がない。そうして、更にやんややんやと言いながら、蛇たちは一組の夫婦を選び出したのである。それは、マフリャーの言いだしっぺの太ったおばさんの蛇とその夫の蛇だった。

 「じゃあ、よろしく頼むよ」
仲間たちに期待を背負って送り出された太ったおばさん蛇の夫婦は、照れながらも、やせっぽちの蛇に案内されて、蛇の目(じゃのめ)町にある国立蛇研究所へと向かった。

 やせっぽちの蛇は、国立蛇研究所の所長の前で、仲間たちとの会議で決めたことを話して聞かせた。
「おいらたちのような蛇が、人間たちから忌み嫌われている存在だということは、所長さんもご存知のことと思う。でも、おいらたちは、これ以上、人間たちに忌み嫌われた存在であり続けるのはもう嫌なんだ。人間たちと友好的な関係を築きたいと思っている。そこで、どうしたらおいらたちが人間たちと仲良くできるか、仲間たちと会議を開いたんだ。その結果、人間たちに忌み嫌われているのは、おいらたちが暖かい体毛を持っていないからだという結論に達した。そこで、所長さんにお願いなんだけど、そこにいる蛇の夫婦に改良を加えて、暖かい体毛を持つ蛇にして欲しいんだ。そして、今後その夫婦から生まれるすべての蛇たちが、暖かい体毛を持つ蛇であるようにして欲しい。それから、どんな蛇も、毒を持たないようにして欲しい。おいらたちは、人間たちが寒いときに首に巻きつけるマフリャーに生まれ変わって、人間たちの役に立ちたいんだ。とにかく俺たち、人間たちと仲良くなりたいんだよ」
やせっぽちの蛇の熱弁にじっと耳を傾けていた国立蛇研究所の所長は、傾いた耳を元に戻しながらこう言った。
「それはそれは、思い切ったことを思いついたもんじゃね。人間たちとのこれまでの関係ではご不満なのかね? 長いものには巻かれろって言うじゃないか。しかも、こんなヘビーな話」
「・・・・・・」
「ん? 面白くないかえ? 一応、シャレを言っておるつもりなんじゃが」
「シャレなんて言ってないで、真剣に相談に乗っておくれよ」
「わ、わかったよ。そちらの蛇のご夫婦を暖かい体毛を持つ蛇に改良してあげよう。今後、このご夫婦の蛇から生まれる子供たちも、暖かい体毛を持つ蛇にしよう。それから、牙から一切の毒を排除しよう。これでいいのかえ? ああ、おやすいご用じゃよ。だから、これに対する謝礼はいらんよ」
「それを言うなら、シャレはいらんよ、じゃないの」
「何、何? 文句あるのかえ?」
「いや、ないない。所長さん、どうかこの二人をよろしく頼むよ!」

 こうして、やせっぽちの蛇は、蛇の夫婦をシャレ好きな国際蛇研究所の所長に預け、仲間たちのところへ帰って行った。

(明日の記事に続く)

※皆さん、いつもたくさんの応援クリックをありがとうございます。m(__)m またしても、はちゃめちゃなショートショートを書いてしまいました。それにしても、何故でしょう。最近、何か一つの存在や出来事を思い浮かべるだけで、思考がどんどん広がります。おかげ様で、楽しみながら記事を書かせていただいています。皆さん、ありがとうございます。一気に書き上げるつもりで書き始めたのですが、長くなってしまったので、前編と後編に分けてお届けします。この結末は、いかに?

さて、今回も記事の中にボタンを埋め込ませていただきますが、どうぞよろしくお願い申し上げます。

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