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2006.10.26

個人情報を守る

 郵便局からの不在連絡票が入っていたので、配達記録郵便を郵便局の時間外窓口に取りに行った。郵便局に着いて中に入ろうとすると、ちょうど同じ頃に時間外窓口にやって来た女性が、私よりも先に郵便局のドアをくぐり、時間外窓口の係の人を呼び出した。中から係の人が出て対応し始めたので、そのやりとりを後ろで何気なく聞いていると、その女性は、海外から送付された荷物を受け取りたくなくて、受け取り拒否をしたいらしい。そのためには事務的な手続きが必要らしく、係の人に渡された書類に住所や氏名などの情報を書き込んでいた。特殊な処理なので、時間が掛かるのではないかとやきもきしていると、係の人が、不在連絡票をそっと握り締めている私に声を掛けてくれた。前の女性が手続きのための書類を書いている間に、私の郵便物を引き渡す処理をしてくれるようである。時間が掛かると思っていた私は、ホッと胸をなでおろした。

 係の人は私宛の配達記録郵便を探し出して窓口に持って来ると、私に身分証明書の提示と押印を求めた。私は、係の人が持って来た郵便物に記載されている自分の住所が丸見えになっていることが気になっていた。何故なら、係の人のすぐ目の前には、さきほどの女性が居たからだ。その女性は、既に書類に住所や氏名などの情報を書き終えて待機している。係の人は、私が渡した保険証の住所と郵便物の住所を照らし合わせながら確認している。保険証に書かれている私の住所も、郵便物の住所も丸見えだ。いくらハンドルがまるみであったとしても、個人情報の丸見えは気になってしまうものだ。

 一方、先に並んだ女性は、書き終わった書類が私からは見えないように隠している。不思議なものである。その女性と言い、私と言い、自分の個人情報を守りたいという、時代に沿った行動を取っている。すなわち、今は、個人情報を守る時代になっているのである。

 先日も、ネットオークションで取引をした相手から、
「お取引が終了しましたら、こちらの個人情報を含んだメールをすべて削除していただけないでしょうか」
と持ち掛けられた。私が
「了解しました」
と返事を書くと、相手も私の個人情報を含んだメールを削除してくれると言う。これまで何百回となくネットオークションでの取引を重ねて来たが、このようなやりとりをしたのは初めてのことだった。確かに、最近は、Winnyというファイル共有ソフトのセキュリティホールを狙ったコンピュータウィルスが問題になり、数多くの個人情報がネット上から流出している。私はWinnyなどのファイル共有ソフトは使用していないが、約束通り、取引が終了すると、相手の個人情報を含んだメールをすべて削除した。

 そう言えば、一年ほど前に、私が働いている派遣会社の運営しているホームページが心ない人によって不正アクセスされ、Web登録を行った派遣社員の個人情報が盗まれた。派遣会社は、Web登録を行った人たちに対し、深く謝罪した。派遣会社の福利厚生のページでは、映画の前売券がわずか千百円程度で手に入るので、私はしばしば利用している。過去にそうした事件があったからなのか、映画の前売券を購入するときに、毎回、自分の個人情報を入力しなければならない。派遣会社のWeb上で登録スタッフの個人情報がきちんと管理されているならば、スタッフ番号とパスワードを入力すれば、登録スタッフの個人情報が引き出せても良いはずである。映画の前売券を申し込む度に、自分の個人情報を入力しなければならないのは、なかなか面倒なものである。しかし、一度でも個人情報が流出するようなことがあると、個人情報を保護することに関して慎重になってしまうのも無理はないのだろう。

 ところで、企業が今、しきりに気に掛けているのは、業務で使用しているノートパソコンを盗まれたり、電車の中に置き忘れたりすることである。ノートパソコンは、最も身近な個人情報の宝庫だ。ガンモの仕事用パソコンも、BIOSの設定でパスワード入力を促すような設定にしているのはもちろんのこと、万が一に備え、ハードディスクも暗号化している。もちろん、私の持ち歩いているノートパソコンもそうである。ガンモが業務用のノートパソコンを扱うときは、特に細心の注意を払っている。しかし、このノートパソコン、セキュリティをかけているパスワードを忘れてしまうとにっちもさっちも行かなくなる。以前、職場の人がこのパスワードを忘れてしまい、復旧させるのにかなり苦戦していた。パスワードを思い出せたから良かったものの、もしも思い出せなかったら、復旧できなかったかもしれない。ノートパソコンにセキュリティをかけている人がいたら、パスワードを忘れないような注意が必要だ。

 話は少し横道に反れるのだが、裁判所から督促状が届いたという話を派遣仲間から聞いた。どうやら、振り込め詐欺の一種らしい。彼女は、どのようにして自分の個人情報を入手したのだろうと不思議がっていた。それを聞いた私の元上司が、
「人に自分の個人情報を教えるときは、AとかBとか、まったく関係のない文字を、住所の後ろに付け加えておくといいですよ」
と言った。その方法を取れば、住所の後ろに付け加えられた文字が何であるかによって、個人情報がどこから流出したかを推測することができるということである。住所の後ろに付けておくアルファベットは、ヘンゼルとグレーテルが森の中を歩くときに撒いたパン屑のようなものだ。こんなことを思いつくとは、さすが、元上司である。なかなか頭が切れる。

 昔は、今ほど個人情報を隠すことにやっきになったりはしなかった。ここまで個人情報を守るようになったのは、やはり、景気の低迷とインターネットの普及が大きいと思う。景気の低迷により、人々の財布が固くなった。そうなると、人々の購買意欲を掻き立てようと、売り手は大胆な勧誘を始める。効率的に勧誘するためには、名簿を入手することが手っ取り早い。そして、不正アクセスなどの手段を使って個人情報を次々に入手する。入手した名簿は、インターネットなどで売られる。現在は、このような循環が出来上がっているのだろうと思う。

 隠すということと守るということが、ある時期に、どちらかの状態に傾いた。そして、隠せば隠すほど、不正に取得しようとし、不正に取得しようとすればするほど、守るという新たな循環が生まれた。実に皮肉なことではあるが、隠すということと、公開するということが同時に起こり、バランスを保っているのである。

 現在の延長線上に私たちが生きて行くなら、やがて人々は、街を出歩くときにさえ顔を隠すようになるのではないだろうか。お店に入っても、本名の名札を付けている店員さんはいない。付けているのはニックネームである。顔を隠すために様々な仮面が製造され、人々はまるで帽子を選ぶかのように、お気に入りの仮面を探す。そうなると、お化粧品が売れなくなる。売れなくなると、化粧品会社は仮面の製造に回り、次々におしゃれな仮面を生み出して行く。素顔を見せるのは、この人になら心を開けると感じた対象だけである。男女が出会っても、素顔を見せるまでに時間がかかってしまうため、独身を貫く人の数も増えるかもしれない。その代わり、仮面をつけていることを利用して、匿名で行動できるメリットを生かした商売や人間関係がどんどん成長して行くだろう。こうして軽く想像してみただけでも、個人情報を守り続けることの延長線上に浮かび上がる光景は、わくわくするような要素が少ない。

 個人情報を隠したり、不正に入手したりするのも、一つのブームになっているのかもしれない。かつて、いろいろなブームがブレイクしては、散って行った。それを考えると、個人情報に関しても、行くところまで行き着いて、あとは弾けるのを待つしかないのかもしれない。つまり、極を体験しなければ、ブームは去らないということである。

※皆さん、いつもたくさんの応援クリックをありがとうございます。m(__)m 数年前の私なら、郵便局で自分の住所が他人の前で丸見えになっていたとしても、それほど気にしなかったように思います。今は、こういう時代なのだということを、改めて認識させられました。そのうち、家の表札なども消えて行くのでしょうか。でも、もしも本当にそんな時代がやって来るのだとしたら、個人情報を入手しようとする手段は、今よりももっと悪質になってしまっているのでしょうね。

さて、今回も記事の中にボタンを埋め込ませていただきますが、どうぞよろしくお願い申し上げます。

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