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2006.10.17

何のために働くのか?

 「まるみ、ちょっと来てくれ!」
一体どこから声が聞こえて来るのかと思いながら、私はガンモを探していた。寝室の灯りは灯っているものの、ガンモの姿はない。トイレにいるのだろうかと思ったが、トイレには電気がついていなかった。
「ガンモ?」
と声を掛けながら家の中を探していると、洗面所のほうから声が聞こえて来た。

 洗面所に駆けつけてみると、ガンモは鏡を覗き込みながら、
「耳から毛が何本も出てる。これじゃ、じいさんだから」
と言って、電気剃刀を片手に持ち、小さなカッターに切り替えて、自分の耳の穴に向けていた。そして、私に電気剃刀を差し出して、
「とうとう俺もじいさんになってしまった。これじゃ恥ずかしいから切ってくれ」
と言う。寝室にいたガンモは、自分の両耳から長い毛が何本か出ているのに気がつき、ショックを受けたそうだ。そして、電気剃刀を持って、鏡のある洗面所に駆けつけたらしい。

 私はガンモから電気剃刀を受け取り、ガンモの耳を傷つけないように、小さなカッターでガンモの耳の毛を注意深くカットした。自分のことを「じいさんだから」と言いながら、ショックを受けているガンモを愛らしいと思った。鼻かんでいるガンモもいいが、はにかんでいるガンモもまたいい。
「耳から毛が出ていたってかまわないんだよ」
私はそう言ってガンモを抱きしめた。

 耳の毛をカットしてしばらくすると、ガンモの携帯電話に仕事の電話が掛かって来た。仕事の電話なのに、何やら楽しそうに笑っている。何がそんなにおかしいのだろうか。そう思っていると、電話を終えたガンモが、
「ちょっと行って来るから」
と私に言った。
「え? ちょっと行って来るからって、どこへ?」
と尋ねると、仕事にはまっている同僚を助けるために、これから客先に出掛けて行くのだと言う。時刻は午前〇時前だった。

 ガンモの話によれば、明日から休暇を取って海外旅行に出掛けることになっているはずの同僚が、現在、その仕事を担当しているらしい。しかし、はまりにはまってしまい、どうしても埒があかないらしいのだ。彼は、明朝の飛行機で日本を発つことになっているという。そのため、彼の仕事をガンモが引き継ぐことにしたようだ。私は、
「わかったわかった。そういうことなら行って来い。○○ちゃん(ガンモの同僚)がちゃんと旅行に行けるようにね」
と言って、ガンモを送り出した。こういうときは、ガンモが自分で車を運転して客先に出掛けて行くのが通例なのだが、我が家の車は壊れたままなので(車はヨ○バシカメラの通販では買えない)、ガンモはタクシーを呼んだ。最近は、早朝出勤のときもタクシーを呼んでいるので、タクシーの手配は手馴れたものである。

 無線で近くにいるタクシーと連絡が取れたのか、タクシーはすぐに迎えに来てくれると言う。こんなふうに、急に出掛けるのでなければ、おにぎりやあたたかいコーヒーを用意することもできたのに、タクシーがすぐにやって来てしまうので、ガンモは慌しく出掛けて行った。ガンモが出掛けて行くとすぐに、インターホンが鳴った。きっと、タクシーの運転手さんが鳴らしたのだろう。インターホンは途中で途切れたので、おそらくガンモが運転手さんに声を掛けたのだ。

 これまで何度となく、ガンモは夜中に呼び出されて仕事に出掛けて行った。しかし、今回はコールセンタからの呼び出しではなく、翌朝、旅行に出掛けて行くことになっている同僚に早く帰宅してもらうための仕事だったため、ガンモも気持ち良く家を出て行った。夜中にガンモを送り出す私も、いつものいやな感じはなく、とてもすがすがしい気持ちだった。

 私自身が、仕事に関していつも思うことがある。それは、企業の利益のために働くのはいやだということだ。企業ではなく、人に対する奉仕の喜びを感じたい。例えば私の職場には、休日出勤までして神戸からわざわざ新幹線に乗って客先まで出向き、深夜作業のため徹夜明けのまま、へろへろになりながら再び新幹線で移動して職場に戻り、仕事をする人もいる。そこまでへろへろに働いた人を、上司も代休を取らせてあげればいいのに、客先で発生した問題の状況を報告書を作成するために、実際に現地で作業を行ったその人の力がどうしても必要らしい。私は、そうした状況の中で人を動かす企業のためには働きたくない。むしろ、へろへろになっているその人のために働きたい。実は、私がすぐに仕事を辞められない理由は、そういうところにもある。そういう意味で、私は同僚のために気持ち良く出掛けて行ったガンモの気持ちが良くわかるのだ。

※皆さん、いつもたくさんの応援クリックをありがとうございます。m(__)m 朝、起きたら、ガンモは私の隣で寝ていました。仕事を終えて、三時頃にタクシーで帰宅したようです。○○ちゃん(ガンモの同僚)は、無事に海外に旅立って行ったでしょうか。きっと、○○ちゃんの奥さんも気が気じゃなかったことでしょうね。○○ちゃん自身も、パニックになりながら仕事をしていたのではないかと思います。でも、そんな状況にありながら、仕事を続けなければならない企業って一体何だろうと思います。おそらく、○○ちゃんは、客先での作業ということもあって、個人的な事情も説明せずに一人で頑張っていたのでしょう。もしも相手が企業ではなく一人の人間なら、翌朝から海外に出掛けようとしている人に遅くまで作業はさせないでしょう。企業とは、人間の感情の部分を抜き取って、利潤を追求して行く団体なのかもしれませんね。

さて、今回も記事の中にボタンを埋め込ませていただきますが、どうぞよろしくお願い申し上げます。

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