« ルール | トップページ | 定年をとうに過ぎた私 »

2006.09.30

嗜好

 プロジェクト単位の昼礼のスピーチで、派遣仲間の一人が久しぶりに映画を観に行ったという話を始めた。一体何の映画だろうと思いながら耳を傾けてみると、何と、『パイレーツ・オブ・カリビアン/デットマンズ・チェスト』だと言う。おお、これはこれは、どのようなエキサイティングな感想が語られるのかと思いきや、
「周りから、面白くないという評判を聞かされていたのですが、やっぱり面白くなかったです。三時間の上映が長く感じられました」
という感想をあっさり述べて、彼女のスピーチは終わってしまった。私は、面白かったという感想を期待していただけに、面白くなかったと聞いて思い切りずっこけた。

 私は、彼女の述べた「面白くなかった」という感想がどうしても腑に落ちなかった。あれだけの大作を、「面白くなかった」という一言で片付けてしまえる彼女は、この映画に対してどのような期待を抱いていたのだろうと興味があった。だから、仕事の区切りが良さそうなときに、彼女に声を掛けて確認してみたのだ。
「あの映画のどういうところが面白くなかったの?」
と。すると、彼女は、
「前作を観ました?」
と私に聞いて来た。私は、
「うん」
と答えた。彼女も前作は観ているらしい。もしかすると、彼女も私と同じように、エリザベスとジャックのキスシーンが残念だったのかと期待した。しかし、彼女が口にした感想は、私が感じたものとはまったく異なっていた。まず、敵役のディヴィ・ジョーンズがとても気持ち悪かったのだそうだ。更に、あまりにもたくさんの人たちが死んでしまうことに対し、納得が行かなかったらしい。それを聞いた私は、どのような反応をしたらいいか、戸惑ってしまった。映画を面白いと思えるかどうかは、まったくもって、その人の持つ感性によるものであり、その人がこれまで培ってきたものが作用して、映画の世界に入り込めるかどうかが決まってしまうと思ったからだ。面白くなかったと感想を述べている人に対し、「ここが面白かったのに」と、言葉で説明するものではない。

 このことを通して、私はいろいろなことを感じた。私自身も、観た映画にがっかりして、あまり詳細な感想を述べられないことがある。そのときに、私の理解不足や偏見により、その映画を面白いと感じている人たちをがっかりさせていないだろうかと。確かに、自分が情熱を持って面白いと思っている映画を面白くないと評価されてしまうのは、あまり気持ちのいいものではない。単に映画の感想を述べ合うだけなのに、永遠にわかり合うことのできない厚い壁のようなものさえ感じてしまう。

 彼女の感想をきっかけに、私なりに『パイレーツ・オブ・カリビアン/デットマンズ・チェスト』を振り返ってみた。映画を観終わった直後の「ガンまる日記」にも書いたように、私だって、両手放しに面白かったと感想を述べたわけではない。思えば、次回作まで待ち切れないような終わり方でもあった。「ええ? ここで終わってしまうの?」という不満は残っている。しかし、登場人物が好きだから、例え不完全燃焼的な終わり方でも許せてしまう。そう、好意を持つ対象に生まれる特有の許容が起こっているのだ。また、前作で感じた、いい意味での裏切りもプラスに作用している。その裏切りとは、海賊でありながらもヒーロー的な存在のジャックではなく、海賊らしい狡猾なところが生きているキャラクターであることだ。ジャックがそういうキャラクターだからこそ、ときどき正義に傾くことに対し、意外性を感じるのである。多くの映画は、最初から主人公のキャラクターを思い切りプラスに傾かせてしまうのに、パイレーツ・オブ・カリビアンはそうではない。そこが面白いのである。

 彼女に、
「他に面白い映画があったら教えてください」
と言われ、思わず言葉に詰まってしまった。『パイレーツ・オブ・カリビアン/デットマンズ・チェスト』を面白くないと断言してしまえる彼女だから、私が面白いと思った映画を紹介しても、彼女の嗜好に合わないような気がしたからだ。彼女は一体、何が好きな人なのだろう。何をテーマに生きている人なのだろう。映画を観て泣いたりすることはあるのだろうか。私は悩みながらも、最近観た映画で面白いと思ったものをいくつか紹介したあと、派遣会社の福利厚生で、映画のチケットが安く手に入ることを教えてあげた。

※皆さん、たくさんの応援クリックをありがとうございます。m(__)m 映画の感想を述べ合うのは、なかなか難しいものですね。まったく異なる感想であっても、相手の感想に対する完全な否定ではなく、お互いの見えていなかったものを示し合うような交流であれば、なかなか有意義な展開になると思います。また、同じ面白いという感想を持っているにしても、登場人物が好きなために、物語の展開に対する許容が大きく、盲目的に面白いと感じているのと、創り手の表現したかったものを充分理解した上で面白いと感じているのとではまた違って来ます。映画という擬似的な体験を通して、映画を観た人の人間像までが映し出されるのは、なかなか興味深いものです。

さて、今回も記事の中にボタンを埋め込ませていただきますが、どうぞよろしくお願い申し上げます。

哲学・思想[人気blogランキング]に

上記ボタンをクリックしてくださいますと、一日に一回、ランキングのポイントに加算されます。もしも毎日のように「ガンまる日記」を読んでくださっているならば、記事に共感したとき、あるいは応援してもいいと思ったとき、ポチッと押してくださると、大変うれしく思います。

|

« ルール | トップページ | 定年をとうに過ぎた私 »