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2006.06.23

新しい席

 オフィスで大掛かりなレイアウト変更があり、木曜日から、フロアのあちらこちらにある荷物を移動したりなどして準備を始めていた。週末の間にLANの配線や机の移動などが行われ、月曜日から新しい席で仕事をすることになっている。

 派遣会社の営業担当が派遣先の企業にお願いしてくれたこともあって、席替えをするにあたり、上司から、空調の快適な席を選んでいいと言われていた。自分で席が選べるなんて、ありがたいことだと感謝した。私は、スカーフを外し、クーラーの冷たい風を感じながら、どの席が最も暖かい席であるかを念入りに調べた。しかし、プロジェクト単位で席を並べて仕事をするため、
「この列の席のどれかから選んでください」
と指定された場所には、現在の席の寒さとほとんど変わらないか、もっと寒い席しかなかった。私はてっきり、もっと暖かいエリアに移動できるものだと思い込んでいたのだ。

 後日、上司に、
「席は決まりましたか?」
と尋ねられたので、
「あまり選択肢がなくて困っています。この列ですと、現在の席が一番、冷たい風が来ないようです」
と報告した。そのとき、指定された列のほとんどの席に座ってみたのだが、上司の座っている席だけは空調の噴き出し口の真上だったので、その席には座って確かめなかった。何故なら、空調の噴き出し口の真下が一番寒いはずだと思い込んでいたからだ。

 私は、念のため、上司に聞いてみた。
「この席は、空調の真下ですけど、寒くないんですか?」
すると、上司は、
「寒くないですよ。あの噴き出し口を見てください。風が横に流れるようになっているでしょう」
と言う。そこで、上司の向かいに座っている人に尋ねてみると、上司の真上にある噴き出し口から冷たい風が流れ込んで来て寒いと言う。なるほど! 空調の噴き出し口は、周辺に向かって冷たい風を送出するが、台風の目の中にいるように、真下には送出しないようだ。

 上司は、そういう観点で空調の風を感じながら、私と一緒にオフィスを歩いてくれた。そして、空調の噴き出し口が真上にある席を見つけ、この席はどうかと提案してくれたのだ。確かにその席は、冷たい風が降りて来なかった。
「ありがとうございます。では、ここに決めたいと思います」
と私は答えた。上司は、
「とりあえず、暫定的にこの席に決めておきますが、本格決定は実際に机を移動した月曜日にしましょう」
と言ってくれた。他のプロジェクトのメンバも、そのことを了解してくれているようだった。本当にありがたい。中でも、上司が空調の噴き出し口を確認しながら一緒に歩いてくれたことが、何よりもありがたかった。

 部長も私のそうした事情をご存知のようで、
「席は決まった?」
と声を掛けてくださった。そして、
「一週間くらい、いろんな席に座って仕事してみたら? そうじゃないと、どの席がいいかわかんないでしょ?」
などと言ってくださったのだ。この部長は、宇宙から帰って来たロシアの人なのだが、コンピュータ業界には珍しく人間味のある方だ。人間味があるというのは、メールに綴られた文章からも感じ取れる。ビジネスで投げられるメールにも、ちゃんと血が通っているのだ。かつて、私が湯治を決意したときも、
「自分の納得の行くまで(医学に)抵抗してみなさい」
と言ってくださった部長である。

 引越し作業は、プロジェクト単位で行われているのだが、私たちのプロジェクトは歴史が長いだけに、抱えている荷物がとても多い。ドキュメント類や媒体、何台ものパソコンや周辺機器などを、みんなで手分けしながら箱詰めし、箱詰めしたダンボールにわかりやすくラベルを貼ったり、別の場所に運んだりした。慣れない肉体労働をしたため、へとへとに疲れてしまった。

 みんなで手分けしながら何とか頑張り、ようやく片付けが終わったときには、既に二十時を回っていた。週末には工事が行われ、月曜日に出勤したあと、箱詰めした荷物を元に戻して、新しい席での職場生活が始まる。

 新しい席でどのように快適に過ごせるのか、まだまだ未知数であるが、上司や部長が歩み寄ってくれたことは、私が拷問のような寒さを感じていた時期を何とか乗り越えることができたことへのご褒美なのではないかと思っている。もしもあのとき私が挫折し、
「もう、こんな環境では仕事を続けられません」
と自分の仕事を投げ出していたら、このような暖かい歩み寄りに触れることはできなかっただろうと思う。新しい席で快適に過ごせるなら、彼らの歩み寄りを決して忘れることなく、もうしばらく仕事に貢献して行きたいと思う。もっと自然に終わりが来るときまで。

※いつも応援クリックしてくださっている皆さん、ありがとうございます。m(__)m 私たちは、短いスパンの中で、少しずつ何かを受け取ったり、放出したりしながら、どんどん新しくなっているのですね。今回のことで、投げ出さなくて良かったと本当に良かったと思いました。受け取ったものに感謝することで、次への繋がりがスムーズになるような気がします。受け取ったものへの感謝が足りないと、どんどん歪みが出て来るのかもしれませんね。

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