本籍地を思い出す
ガンモの仕事が休みだったので、私たちは自宅近くのスーパーで待ち合わせをした。早朝からの出勤と、深夜に及ぶ作業で寝不足気味だったガンモも、たっぷりと睡眠を取り、体力も回復したようである。
スーパーの外で、見覚えのある女性とすれ違った。しかし、どこの誰なのか思い出すことができない。彼女と会話をしたことがあるのは間違いないはずなのだが、一体、どこの誰なのだろう。しばらく考え込んで、ようやく思い出すことができた。彼女は、ガンモと私が結婚直後に住んでいた同じアパートの住人だった。そこまでは思い出せても、名前までは思い出すことができなかった。
そのアパートは、ガンモが独身の頃から借りて住んでいたアパートだった。閑静な住宅街にある所帯向けのアパートだったのだが、ガンモはそこに一人で住んでいた。私は、東京からガンモのところにお嫁に来たときに、ガンモの住んでいたそのアパートに転がり込んだのだった。何故、ガンモが一人で所帯向けのアパートに住んでいたかと言うと、一人住まいのアパートは、学生さんが多く、夜になるととても騒がしかったからだそうだ。私たちの住んでいる地域は、大学が多いせいか、学生さんが特に多いのである。
私たちは、そのアパートの二階の角部屋に住んでいた。一方、彼女は、一階の反対側の部屋に住んでいた。私は、結婚した直後から働き始めたので、他の住人の方たちとは挨拶程度の付き合いしかなかった。確か、そのアパートの家賃は、駐車場代を含めて十二万円だったと思う。毎月それだけ払い続けるなら、分譲マンションを買ったほうがいいのではないかという話になり、私たちは二年後に、そのアパートから歩いて五分ほどのところにある現在の分譲マンションに引っ越して来た。
郵便局に転送通知願いを提出していたにもかかわらず、私たちがアパートを引き払ってからも、私たち宛の郵便物は、かつてのアパートに頻繁に届いていたようだった。一度、パソコンに入力された住所がなかなか訂正されないことを実感したのはこの頃だった。彼女は、アパートに届いた郵便物をまとめて、わざわざ私たちのマンションに持って来てくださったのだった。そんなことがあったことを、こうして彼女とすれ違うまで忘れてしまっていた。
彼女は、私たちに気づくことなく通り過ぎて行った。彼女の隣には、小学生くらいの女の子が並んで歩いていた。彼女には確か、二、三歳くらいの女の子のお子さんが居たはずだ。あれから八年も経っているのだから、その小さな女の子が小学生くらいにまで成長していても、決しておかしくはない。成長までのプロセスを見届けていない私たちからすると、あれほど小さかったお子さんが、早くも小学生なのだという驚きはある。小学生の女の子は、お母さんの横に並び、しっかりとした意志を持って歩いていた。子供の成長は、何とめまぐるしいのだろうと私は思った。
私たちは、結婚当初に住んでいたあのアパートを、本籍地として登録している。私たちの結婚生活が始まった大切な場所だからだ。今のマンションに引っ越してからも、そのアパートで生活していたときのことが忘れられずに、ガンモと二人でこっそりアパートの様子を見に行っていたこともある。
あるとき、そのアパートに灯りが灯っているのを発見した私たちは、うれしいような寂しいような、不思議な感覚に襲われたものだ。私たちが新婚時代を過ごした大切な賃貸アパート。今よりもずっと狭かったけれど、新婚時代の想い出がたくさん詰まっているアパート。そのアパートを出て行くとき、ガンモと二人でそれぞれの部屋で過ごした想い出を語り合いながら、一つ一つの部屋にお別れのあいさつをしてから出て行った。そこに、新しい住人が住み始めた。もしかすると、彼らも新婚さんかもしれない。新しい住人が住み始めたのを確認してからは、私たちもあのアパートに足を運ぶこともなくなった。
スーパーの前で彼女とすれ違わなければ、そうした出来事も、記憶の彼方に追いやってしまったままだったかもしれない。私たちが思い出すように、彼女は実にタイミング良く、私たちの前に現れてくれたに違いない。
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