世界一への道
私は職場で、「世界一夫婦仲がいい」と自負している。そして、同じ職場には、私と同じように、「日本一夫婦仲がいい」と自負する女性がいる。かつて、職場の飲み会で夫婦のはなしになったとき、ガンモとの夫婦仲を披露したところ、私たち夫婦の仲良しぶりが彼女に世界一と認められ、
「それじゃあ、我が家は日本一にしておきます」
と、世界一を私に譲ってくれたのだった。
あるとき、日本一の彼女が世界一の私に、こんな質問を投げかけて来た。
「晩御飯はいつもどうされてますか?」
私は、お互い仕事のある日の晩御飯は、いつも夫と待ち合わせて外食していると答えた。彼女は、去年の年末から、残業の多い私たちのプロジェクトに加わったばかりだ。彼女たちご夫婦は、先に帰宅したほうがご飯を作る約束になっているのだと言う。しかし、ここのところ、彼女よりもご主人さんの帰宅のほうが早く、毎日のようにご主人さんが晩御飯を作っているのだと言う。そのため、彼女は、ご主人さんに負担をかけ過ぎているのではないかと心配しているようだった。
彼女によれば、彼女のご主人さんは、会社が自宅から近い上に、ちょうど仕事が忙しくない時期に当たっているそうで、何と、十八時前には帰宅されているのだという。私は、帰宅時間の早さに驚いた。しかも、彼女のご主人さんは、料理を作ることがとても好きらしい。だから、毎日のように晩御飯を作ることが苦ではないらしいのだ。しかし、彼女には作りたての温かいものを食べて欲しいらしく、毎日のように、
「今日は何時に帰って来るの?」
と尋ねられ、彼女の帰宅が申告された時間よりも遅くなると、ご機嫌斜めになってしまうのだそうだ。彼女は、
「まるで口うるさい嫁をもらった気分ですよ」
と笑いながら、トホホ顔で私に愚痴をこぼした。そのことが原因で、ご主人さんと何度か喧嘩をしたらしい。
私は、
「自分が好きでお料理を作ってるんだから、お料理を作っていることを押し付けずに、もっと楽しくお料理すればいいのにね」
と言った。彼女は、それはもっともだと私に同意した。
毎晩、妻の帰宅が遅くて寂しい気持ちになるというならわかる。しかし、一緒にいられない寂しさを感じているわけではなく、自分の作った料理が冷めてしまうから、申告された時間通りに帰って来いと願うのは、彼女のご主人さんのわがままなのではないかと私は思ったのだ。
それだけでなく、彼女のご主人さんは、いつも自分の本当の気持ちを言ってくれないらしい。最寄り駅に着いた彼女が、
「コンビニで何かを買って帰るけど、何か欲しいものはある?」
と電話を掛けても、
「何もいらない」
とご主人さんは答えるのだと言う。しかし、彼女が気を利かせて、ご主人さんのために何か食べ物を買って帰ると、おいしそうにそれを食べるのだそうだ。
「もう、彼が何を考えているかわからないですよ」
と彼女は嘆いていた。そして、
「これさえなければ世界一なんですけどね」
と苦笑いしたのだった。私は、
「世界一を目指すには、この問題について、二人でじっくり話し合わないとね」
と言った。
その後、彼女から、
「彼とじっくり話し合いました。仕事で遅くなるときは、お互いにそれぞれ自由にご飯を食べることで解決しました。ようやく仲直りしましたよ!」
との報告を受けた。
「でも、お互い、適当に食べようということに落ち着いても、家に帰ると私のご飯があるんです」
と言った。ご主人さんは、適当に自分の食べる分を作っているので、彼女の分は「ついで」なのだそうだ。私はそれを聞いて、「ああ、いい感じの展開になったなあ」と思ったのだった。
彼女もいよいよ、世界一への道を歩み始めたのかもしれない。
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