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2006.02.27

ギラギラしない技術者魂

 仕事の帰りに私と同い年の社員の女性とばったり会った。駅までの道のりを一緒に歩きながら、彼女と、出勤時間についての話をした。以前は、出勤の途中にしばしば彼女を見掛けることが多かったのだが、ここのところ、めっきり見掛けなくなっていたからだ。
「最近、何時に出勤されてるんですか?」
と尋ねると、彼女から、
「八時半」
という答えが返って来た。それは、私の職場で仕事が始まる時間だった。しかし、ほとんどの人たちはフレックスタイム制度を適用していて、十時までの間にパラパラと出勤して来る。通勤に時間がかかることもあって、いつも十時前後に出勤している私は、かつて通勤の途中に彼女を良く見掛けていたものだった。

 彼女によれば、あまりにも仕事がきつかったために、社員の属性を変更したのだと言う。簡単に言えば、これまでの技術職から、事務職に転身したらしい。そのため、フレックスタイム制度が適用されなくなり、定時に出勤しなければならなくなったのだそうだ。それでも彼女は、
「お給料は減ったけど、肉体的にも精神的にもずいぶん楽になった」
とおだやかな口調で言った。これまでの彼女は、バリバリの技術者というわけではなかったが、とにかく残業の多い人だった。ときどき、ライブやお芝居を観に行くことを楽しみにしている彼女が、
「今日は定時で上がれるかなあ」
と心配しながらそわそわしていたことを思い出す。

 そんなふうに、私は、頑張って、頑張って、とにかく頑張り続けていた彼女を知っている。彼女は、肉体も精神もギリギリのところまで追い込まれていたのだと言う。私は思わず、
「良かったですね。壊れる前に宣言できて」
と彼女に言いながら、にこやかに笑った。その途端、彼女の表情がぱっと明るくなったのだ。

 彼女ほどのベテラン社員になれば、社員の属性を変更するのはかなり勇気のいることだったに違いない。しかし、そんなことよりも、彼女は自分自身が壊れない道を選んだのだ。しかも、会社を加害者にすることなく、会社に残ることをも同時に選択した。何て素晴らしいのだろうと私は思った。技術者が技術を捨ててしまうことは、これまでの自分の選択を否定することにもなりかねない。技術を持っているばっかりに、自分に対して厳しくもなる。しかし、あまりにも忙しい状況に陥ってしまうと、肉体と精神が、もはやどうにもこうにもついて来なくなってしまう。彼女はそういう状況に追い込まれていたのだと思う。

 彼女の表情がぱっと明るくなったのは、同じ技術者として、私が彼女の選択を理解できたからではないかと思うのだ。いつまでも技術者魂がギラギラしている人なら、技術を積み上げて来た彼女に対し、社員の属性を変更するのはもったいないと言うに違いないだろうから。

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