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2006.02.11

保険と愛情

 母の誕生日だったので電話を掛けてみたところ、親戚の人たちともめて、母が祖母の入院費を全額支払うことになってしまったと言う。母は四人兄弟の長女だが、母の兄である長男も、十数年前に倒れ、既に寝たきり状態。その家で一緒に暮らしていた祖母も倒れ、七年以上も入院生活を続けている。これまでは、母の兄の障害者保険と祖母の年金で、祖母の入院費を支払っていたと言う。母の兄嫁は、母の兄の世話で精一杯。だから、祖母の面倒は、これまで母が一生懸命看て来た。しかし、母の弟や妹は、祖母の世話を母に任せっぱなしである。そんなこともあって、親戚関係がずっとぎくしゃくしていたのだ。

 そうした状況の中、介護保険法の改正のため、毎月の祖母の入院費が跳ね上がり、支払いが苦しい状況になりつつあったようだ。そこへ、祖母の妹がお金のことで口出しして来て母の兄や兄嫁を怒らせ、母の兄を除く兄弟三人で祖母の入院費を支払えということになったと言う。しかし母は、これまで祖母の面倒を看ることのなかった弟や妹が協力的になってくれるはずがないし、あまりもめごとを大きくしたくないとのことで、父と話し合った末に、祖母の入院費を支払うことにしたのだそうだ。

 祖母は、そのことを知っているはずもないのに、病院で母の顔を見ると、涙を流すのだと言う。私は、母の話を聞きながら、涙が出て来た。母がずっと祖母の面倒を看て来たことを私は知っている。母は、ご飯の時間がやって来る度に病院に通い、祖母の様子を見に行く。祖母が長生きできているのは、母のおかげだ。これほどまでに、継続的な愛情を注げる人を、私は見たことがない。母は、そういう愛情を持っている人だ。だから、母の弟や妹と話し合って、みんなでお金を出し合ったらと提案したのだが、祖母が入院してからは、祖母の見舞いに来ない母の弟や妹とは既に断絶状態にあるのだと言う。こういうのをカルマ的と言うのだろうか。

 十年前に祖父が亡くなってから、母の兄弟の仲はこじれ始めた。母の兄が寝たきりであるために、兄弟をまとめる人がいないからなのだろうか。私は、祖母の妹がお金のことで口出しして来たことは、単なるきっかけに過ぎなかったのではと母に言った。母はそれに激しく同意していた。だから、今回のことで、母の兄も兄嫁も、肩の荷が下りたような気持ちになって、ほっとしているはずだと言った。

 いろいろな要因が合わさって、一つの事象へと流れて行く。私は、保険のことはさっぱりと言っていいほどわからない。自分が働いた給料の一部が、どのようにして国に収められているのかについても、まったくもって無頓着だ。民間の保険に関しても、保険屋さんから説明を聞いて加入するのは頭が痛い。これまで私は、保険というシステムが存在しているのは、愛のない証拠だと思っていた。しかし実際は、保険というシステムに、これまでずいぶん助けられて来たのだった。だとすると、そろそろ保険は愛があるという見方に変えざるをえない。民間の保険業者に加入して受け取る保険金は、個人に還元されるので、すぐさま愛に繋がるとは思えないが、国の運営する保険は、還元先が不特定多数であり、愛そのものだ。

 私が働いて国に収めている税金の一部が介護保険に回っているのならそれでいい。入院費が急激に高くなったというのも、何か事情があってのことなのだろう。その原因も、社会情勢に疎くて良くわからない。それらの原因を知るべきか知らないでおくべきかは別にして、親元を離れて暮らしている私ができることとしては、母に対する金銭的な援助だった。

 母は電話を切るときにこう言った。
「ガンモの両親を大切にしてあげんといかんよ」
それを聞いた私は、言葉にならなかった。自分たちがこのような状況に追い込まれても、まだガンモの両親を気遣える母の優しさに感動した。起こったことが母や父に必要な学びだとしても、このままでは済ましたくない。どうか、納得の行く形で事態が動き始めますように。そして、これらの学びに付き合ってくれるガンモにも深く感謝している。ガンモ、ありがとう。

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