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2006.01.25

愛は双方向

 年末に退職した女性の後任として、私と同じ派遣会社から、新しい仲間が私たちのプロジェクトに加わっている。と言っても、彼女は私が湯治に出掛けている年末から、引継のために出勤していたようなので、年末年始も入れてしまうと、そろそろ一ヶ月の勤務になる。業務拡大のため、彼女の他にもう一人、私と同じ派遣会社から女性が派遣され、私たちのプロジェクトはにぎやかになって来た。口ベタプロジェクトの新年会に書いた通り、彼女たちの歓迎会も、先日開かれたばかりだ。

 新しい仲間が加わると、仕事で使用するパソコンに新しいアカウントを設定したり、必要なソフトウェアをインストールしたり、メーラーの設定をしたりと、様々なセッティングに多くの時間が費やされる。特に私の職場では、親会社と子会社に勤務する人たち全員が同一のドメインにログオンできるアカウントを発行してもらっているので、そうした手続きや設定にも手間がかかってしまう。また、セキュリティに関して非常に厳しい会社で、ホームページの閲覧についても、どのページにアクセスしたかの履歴が取られているし、個人のWebメールはもちろん禁止、また、レンタル掲示板など、業務に関係のないページにはアクセスできないように制限されている。

 そうしたいろいろなお約束ごとを、新しく来られた人たちは徐々に覚えて行くことになるのだが、幸か不幸か、新しく仲間に加わった二人は、業務内容はまったく異なるのだが、同じ男性社員のもとに配属された。しかし、その男性社員は、普段から残業の多い人で、新しく入って来た二人の女性の対応に追われながらも、日常の業務をこなしていた。新たに人が増えるということは、最初のうち、とてつもなく多くのエネルギーを費やすことになるのだが、彼女たちが一人立ちできるようになれば、業務は次第に円滑に流れて行くものである。

 そんな中で、年末に退職した女性の後任として入った女性が、仕事の流れをつかめず、あたふたし始めた。どうやら、まだ業務に慣れないうちに、いくつかの締切がやって来てしまったようで、日に日に彼女の笑顔が失われて行くのがわかった。彼女からは、業務で使用しているメールを通じてその心のうちを少しだけ聞かせてもらったのだが、年末に前任の女性から駆け足で引継をしたため、業務の細かい部分まで理解できていないのだと言う。それにもかかわらず、次々にやって来る締め切りにあたふたし、自分で自分を追い込み、苦しくなっているようだった。私は、まだ仕事に慣れていないのだから、最初から完璧を求められるわけではないので、失敗しながらでも前に進んで行けばいいのだと彼女を励ました。彼女は残業時間に、トイレの中で泣いたりして精神的なバランスを取っていたらしい。
「でも、泣いたらすっきりしました」
と、ケロッとした表情で私に言った。何と素直な子だろうと思った。

 彼女は、派遣会社の営業担当に相談して、なかなか仕事に慣れることができないので、三月末の契約期間を満了して次の契約を更新しないでおくか、新しい人が見つかり次第退職したいと申し出たようだった。そして、後日、営業担当が職場にやって来て、派遣先の上司と面談した。派遣先の上司と営業担当が会議室にこもって話をしている間、彼女はずっと、「落ち着かない」と言っていた。私は、彼女の様子を見ながら、彼女はとても愛のある人だと思った。何故なら、彼女が今、緊張を感じているということは、派遣先でお世話になった人たちに対する愛だと思ったからだ。中には、自分は派遣社員なのだから、契約さえ満了すれば良いと割り切ることのできる人もいる。しかし、彼女はそうではないのだと思った。

 実際、彼女はとても愛のある人で、先日の飲み会でも、ご主人さんととても仲良しだと言っていた。ご主人さんとはインターネットのチャットで知り合って結ばれたらしい。東京生まれの東京育ちで、一度も関西に来たことのなかった彼女が、関西に住むご主人さんとインターネットで出会い、結婚のために関西にやって来たのだと言う。私も、ガンモとはパソコン通信で知り合い、東京から関西に移り住んだことを話した。私が、「私たち夫婦は世界一仲良しだ」と言うと、彼女も負けずに自分たちも世界一だと言った。そんな彼女だから、仕事に慣れないためにお別れになってしまうのはとても寂しいと思っていた。何とか彼女の力になりたいと思っていたが、勤務先では、話をするチャンスがなかなかない。勤務時間中にメールを交わすことも少々はばかられるので、近いうちに彼女の話を聞くために仕事を終えたあとに時間を作るつもりだ。

 派遣会社の営業担当が話を終えて帰ったあと、彼女は自ら席を立ち、直属の上司とそのまた上司にあいさつに行っていた。これまた愛ある行動だと思った。派遣社員というものは、派遣会社の営業担当に自分の言いたいことを言ってもらって、派遣先の会社から、自分の主張が受け入れられるのを静かに待つパターンが非常に多い。しかし、それでは一方通行なのだ。彼女は、派遣会社の営業担当が派遣先の上司との話し合いを終えたあと、自らフォローに回っている。自分の要求を伝えてもらった直後はとても恥ずかしいはずなのに、彼女はそれと向き合うだけの勇気を持っていた。何と愛ある行為だろうと私は思った。

 彼女に聞いてみると、二週間ほど、仕事の内容を少しずつ削りながら様子を見ることになったのだそうだ。派遣先の会社からは、できるだけ長く働いて欲しいと言われたそうである。彼女はそれを聞いて、うれしさの余り、涙と鼻水が大量流出してたまらなかったそうだ。彼女の涙は、愛を双方向に通わせたご褒美だと私は思った。

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