まちぶせ
「まちぶせ」には、一方的なイメージがあるのだが、これは、一方的じゃない「まちぶせ」のお話である。
ここのところ帰宅時間の遅い私は、仕事帰りにガンモと待ち合わせをすることもできず、一人で帰宅している。先日、たまたま、いつもより三十分ほど早く帰宅できた日があった。仕事を終えてガンモに電話を掛けてみると、ガンモはまだ仕事中だと言う。私がガンモの働いている最寄駅まで移動するまでにはおよそ一時間かかる。それまでにガンモの仕事が片付いていてくれることを祈りながら、ひとまず三宮に着いた私は、再びガンモに電話を掛けた。すると、
「悪い。もうちょっとかかるから先に帰ってて」
とガンモが言う。久しぶりに一緒に帰宅できると思っていた私は、少々がっかりしながらも、電車に乗り、自宅の最寄駅まで移動した。しかし、あと少しだけ待てば、ガンモと一緒に帰れるのではないかと思い、駅のホームにある椅子に座って掲示板のコメントを書きながらガンモを待っていた。吹きさらしの椅子だったので、PDAに向かって文字を打ち込んでいるうちに、次第に手が冷たくなって来た。
二十分ほど待っていると、ガンモの乗った電車がホームに入って来た。電車の扉が開くと、中から見慣れた懐かしい人が降りて来るのが見える。私たちは、相手を認識しているときに使うポーズを取って、お互いに合図を交わした。私が待っていることを知ったガンモは、とてもうれしそうだった。
「先に帰っててとは言ったものの、昔はお互いに、仕事が終わるのを駅のホームでずっと待ってたのになあって思い出してたの」
とガンモが言う。
「そうだから」
と私は言った。既に皆さん、お気づきのように、「○○だから」という口調は、私たち夫婦の会話の特徴なのである。
「ガラス戸のある待合所に入ってれば良かったのに」
とガンモが私を気遣う。しかし、私が降りた目の前にホームに設置されている椅子があったのだから、仕方がない。
私たちは、自転車に乗って、久しぶりに一緒に帰宅した。私は、ガンモと一緒に帰宅するということが、こんなにもあたたかいことだということを改めて実感した。寒くても、ホームでガンモの帰りを待っていて良かった。その日の私たちは、外の寒さとはうって変わって、とてもあたたかい気持ちに包まれていた。
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