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2005.11.07

やけっぱちのガンモ

 職場近くの映画館がレディースディだったので、そわそわしながら、定時過ぎに仕事を上がった。ガンモに電話を掛けると、忙しさのせいでとてもキリキリしている。私が映画を観たいと思ったときは、いつも、ガンモの仕事が忙しい。まるで、
「今は忙しいから、一人で映画でも観てなさい」
と言われているかのようだ。私は、
「じゃあ、映画を観て帰るから」
と言って電話を切り、映画館へと向かった。

 今回観たのは、『ALWAYS 三丁目の夕日』。昭和三十三年の日本を描いた素晴らしい映画だ。都電がまだ東京の中心部を走っている。作りかけの東京タワーが見えている。そんな、東京の下町で繰り広げられる人情ドラマ。映画を見終わったあとの余韻がものすごく良かった。心を交わすことの大切さを遠回しに教えてくれるような映画だった。

 映画を観て帰宅し、再びガンモに電話を掛けてみたが、ガンモはまだまだ忙しそうだった。それから間もなくしてガンモは帰宅したが、イライラした口調で、まだこれから自宅で仕事が残っていると言う。ガンモは、
「俺、四十二歳でもう死ぬから」
などと弱音を吐いた。ガンモは仕事が辛くなると、ときどきこんなふうにやけっぱちになる。精神的な余裕がなくなってしまうのだ。私は、
「ばっか言ってんじゃないよ。あのね、私だって、結婚してすぐに派遣された会社で、毎晩、二時、三時まで働いて、タクシー帰りしてたことがあったでしょ。あのときだって、仕事中に、五階のトイレから飛び降りたら楽になれるんじゃないか、なんて思ったこともあったよ。仕事上で、誰も頼れる人がいなかったしね。でもね、ガンモが居たから踏ん張れたんだよ。ガンモを悲しませちゃいけないと思って。仕事が忙しいからってね、甘えるんじゃないの!」
私の言葉に、ガンモはようやく正気に戻ったようだ。そして、ガンモはてきぱきと仕事をこなしたあと、自分のWeb日記も更新した。

 本当に仕事が忙しいとき、思わず逃げ出したくなる気持ちは私にも良くわかる。しかし、逃げ出さないように思い留まらせるのは、愛する人を大切に想う気持ちなのだ。私たちは、愛する人のために生きていると言っても過言ではない。どんなに感情が突っ走ってしまったとしても、私たちはいずれ、戻るべきところに戻るようになっている。一人で突っ走って行く感情は、ほんの一時的なものであり、私たちがずっとそこに留まることはない。そんな一時的な感情に翻弄されることなく、突っ走ってしまいそうになったときには、自分の軸になっているはずの愛をしっかりと思い出すことが大切なのだ。

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