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2005.10.12

意思は一つ

 朝、目覚めると、隣で寝ているはずのガンモが居ないということが良くある。私の寝ている間に、コールセンタから呼び出しが掛かり、障害の発生した客先まで車を走らせたのだ。一つのシングルベッドに寝ているというのに、私はガンモの仕事用の携帯電話が鳴ったことも、ガンモがベッドから起き出して、支度を整えて出掛けて行ったことも、まったく気がつかずにいる。そして、朝、目覚めてから、夜中に眠い目をこすりながら出掛けて行ったであろうガンモのことを不憫に想うのだ。

 目覚めてからガンモに電話を掛けると、ガンモはやけにハイになっている。自分からハイにならなければ、徹夜作業では仕事モードを維持できないのだろう。私は、仕事に対してすぐに弱音を吐いてしまうが、仕事に対するガンモの精神力の強さには、目を見張るばかりである。ガンモに、
「いつ出て行ったの?」
と電話で尋ねると、
「まるみは全然気づかないね」
と、ガンモは言う。その言葉に、私は苦笑いする。

 普段、とりわけ音に敏感な私は、集中して仕事をするために耳栓を愛用している。道を歩いていても、すぐ後ろを歩く人の話し声が気になってしまうため、わざとゆっくり歩き、おしゃべりをしている人たちに前を歩いてもらう。独身の頃は、睡眠中でも地震の前に目が覚めてしまうほど敏感だった。だから、眠りも比較的浅いほうだと思い込んでいたのだ。しかし、ガンモと一緒に寝ていると、私はぐっすりと眠りこけてしまう。ガンモが携帯電話の音に気づくのは、仕事に対する責任感が強いせいだろう。

 映画『恋愛適齢期』の中で、歳を取ってから運命的な出会いを果たした二人が、一つのベッドでぐっすり眠れることを驚異的に感じるシーンがある。これまで二人は、誰かと愛し合ったあとも、一つのベッドで眠るということをして来なかった。それだけ、自分自身を愛する必要があったのだろうと思う。しかし、そうした恋愛を経て、ようやく一つのベッドでぐっすり眠れる人に出会ったという映画だった。一つのベッドで快眠できるということは、二人の意思が一つであることの証だと私は思う。

 しかし、もしも本当に意思が一つなら、私もガンモの仕事用携帯電話の音で目覚めてもいいのでは? と思われる方もいらしゃるかもしれない。おそらくだが、ガンモがそれを望んでいないのだろう。そんなところにも、ガンモの優しさが感じられるのだった。きっと、私が目を覚まさないように、ベッドからそろそろ起き出して、物音を立てないように注意しながら静かに支度を整え、出掛けてくれているに違いないのだった。

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