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2005.06.18

鳩の巣

 私たちの住んでいるマンションには、ベランダが三箇所ある。そのうちの一箇所が、台所に面しているベランダなのだが、数日前から、私たちが台所で用を足していると、鳥がわさわさと飛び立って行く音が聞こえるようになった。最初は、カラスが台所のゴミを目当てにやって来ているのかと思っていた。しかし、今日になって、
「グルッポという声が聞こえるから、どうも鳩みたいだよ」
とガンモが言った。

 今日はガンモも仕事が休みだったので、私たちは、台所のベランダに近い寝室でくつろいでいた。ふと、寝室の窓からベランダをのぞいていたガンモが、興奮した様子で、
「俺のゴミ箱から、鳩が首を出してる!」
と言った。ガンモのゴミ箱とは、ガンモが学生の頃から使っていた金属製のゴミ箱のことである。もう使わないそのゴミ箱は、ベランダに出しっぱなしにしていたため、横になって転がっていた。

 その直後、バサバサバサという音がして、鳩が飛び立って行くのが見えたのだ。私たちは、顔を見合わせた。もしかすると、ガンモのゴミ箱の中に、鳩が巣を作っているのだろうか?

 私は、台所から回って、鳩が飛び立って行ったゴミ箱の中をそっとのぞいてみた。その中には、小さな卵が二つと、彼らが作りかけた巣があった。私は、すぐにガンモに報告した。
「卵があったよ! 作りかけの巣もある!」

 飛び立って行った鳩は、近くの建物に止まり、こちらの様子をチラチラと伺っていた。そして、私がベランダから離れたのを確認すると、再びガンモのゴミ箱の巣に戻って来たのだ。私は、懸命に卵を守ろうとする親心に心を打たれ、目頭が熱くなった。これから生まれて来るであろう子供のために、人間という危険な動物がすぐ側にいるにもかかわらず、卵を守るために巣に戻って来たのだ。そして、巣の中でしばらくゴソゴソすると、再び卵を温め始めたようだった。

 私は、その強い意志に感動した。ガンモは、
「俺らは鳩から子作りと子育てを教わるんじゃない?」
と言った。なるほど、そうかもしれない。

 更にガンモは、私に、
「鳩日記を書いたら?」
と言った。私は、
「いや、これ以上は無理だよ」
と言って断った。

 ネットで検索してみると、マンションのベランダに鳩が巣を作って卵を産んだという話が、あちこちでヒットした。中には、どうしたらいいか困っている人に対し、鳥の卵は鳥獣保護法で保護されているので、撤去したい場合は保健所に相談したほうがいいなどとアドバイスしている人もいた。例え、ここがマンションといえども、せっかく巣を作り、卵を守っている鳩を追い払うなんてとんでもない! と私は思った。もちろん、ガンモも私と同感だった。しかし、ネットに書き込まれている状況から、ベランダに鳩が卵を産むという同様の現象を体験しても、家庭によって事情は様々なのだと実感せざるを得なかった。

 私は、鳩を安心させるため、鳩にテレパシーを送った。たいていの動物は、テレパシーを感じ取ってくれる。道を歩いているとき、私はあなたに危害を与えるつもりはないとテレパシーを送ると、彼らはちゃんとそれを受け取ってくれて、私を警戒することはない。だから私は、私たち夫婦は、あなたたちに危害を加えるつもりはない。むしろ、あなたたちの雛が誕生し、巣立って行くことを応援していると、テレパシーを送った。

 実は、子供の頃、私の実家では鳩を飼っていたことがある。だから、卵から孵った鳩の雛が、どのように成長して行くかを、私はちゃんと知っている。親鳩がきちんと餌を運んで来るのであれば、手がかかるのは、糞の始末だけだ。他の住民からのクレームがなければ、ベランダでの新しい生命の誕生は、私たち夫婦に大きな感動をもたらしてくれるに違いない。卵を守るために巣に戻って来た親鳩のことを思うと、彼らを応援しないではいられないのだった。

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