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2005.05.20

喧嘩にはならなかった

 金曜日くらい早く上がってもいいだろうと自分に言い聞かせ、私はコソコソと会社をあとにした。ガンモの待つ我が家へ帰る途中、ガンモに電話を掛けた。ゆうべ夜勤だったガンモは、午前十時頃に帰宅し、お昼くらいから睡眠を取っていたと言う。睡眠時間がしっかり確保できていないらしく、ガンモはまだ眠そうだった。

 明日はガンモも休みなので、午前中から二人で一緒に出掛けることになっている。しかし、先日パンクしたガンモの自転車は、パンク修理は終えたものの、空気を入れてしばらくすると、空気が抜けてぷよぷよになってしまった。どうやら、チューブごと取り替えなければならないほど、タイヤの損傷が激しいようだ。

 実は、我が家には、自転車のメンテナンスができるようにと、タイヤやチューブの買い置きもいくつかある。しかし、
「チューブを取り替えるのは面倒臭い」
とガンモは渋り始めた。私は、ガンモがただ単にダラダラしたいだけなのだと思い、ちょっと腹が立って来た。何故なら、もともと明日は鍼灸治療の予約を入れていたのに、午前中から出掛けることにしたため、わざわざ予約を変更してもらったからだ。チューブを取り替えなければ気持ち良く出掛けられないことはわかっているはずなのに、一度宣言したことを撤回しようとするガンモに、だんだん腹が立って来たのだ。

 一時間半後に私が帰宅したとき、私はすぐにはガンモのいる寝室には行かず、しばらくトイレにこもり、これからの作戦を練っていた。さて、この腹の虫をどのように退治しようかと思いながら。私がなかなか寝室に寄り付かないでいれば、やがてガンモのほうから私を探しに来てくれるのではないかと期待していたが、待てど暮らせど一向にそんな気配はなかった。

 私はとうとうしびれを切らして、寝室に乗り込んだ。しかし、寝室のドアを開けた途端、寝室の電気が消えていることに気がついた。つまり、ガンモはまだベッドで眠っていたのだ。

 私は、そのときになって初めて、ガンモの疲れが相当ひどいことを悟った。私がガンモの眠っているベッドに歩み寄ると、ガンモは目を覚まして私の名前を呼びながら、大きく両手を広げた。そんなガンモの姿を見た私の腹の虫は、瞬く間に治まってしまい、私はガンモの広げた手の中になだれ込んだ。

 ガンモは本当に疲れていた。だんだん年齢を重ねて来て、昼と夜が逆転した勤務に、体力が追いつかなくなってしまっているのだ。
「疲れた、疲れた」
とガンモは言う。再会を果たした私たちは、しばらくの間、ベッドの中で固く固く抱き合っていた。

 一日半ぶりに会って、いきなり喧嘩が始まってしまうのかと覚悟していたが、喧嘩にはならなかった。喧嘩は、相手の立場を理解しないために起こることなのだと、改めて気づかされた。

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