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2004.08.15

遠隔ヒーリング

 朝起きても、ガンモの頬の痛みは治まらなかった。ホテルは連泊だったが、清掃のため、いったん部屋を出なければならない。ガンモをなだめて起こして、お昼前にホテルを出た。ガンモは弱った口調で、電車に乗りたいと言う。私が話し掛けても、ガンモは首を縦に振ったり横に振ったりするのがやっとという状況だったのに、好きな電車に乗ることで、活力を取り戻そうとしているかのようだった。しかし、電車の窓から珍しい電車が顔をのぞかせても、ガンモはもはや、カメラを向ける力も持ち合わせていなかった。

 私たちは今回、東京近郊のJRに乗り放題できる周遊きっぷを購入していた。最初の計画では、今日は久里浜まで行き、そこから折り返して鎌倉で降りたあと、江ノ電に乗る予定だった。しかし、朝から雨が降っていたし、ガンモの今の体調では江ノ電に乗るのは難しかった。そこで、とりあえず、桜木町から大船まで行き、大船でお昼ご飯を食べることにした。

 お昼ご飯を食べ終わると、ガンモは
「久里浜に行こう」
と言った。そこにやって来た電車は新宿湘南ライナーという二階建ての電車だった。その電車が珍しくて、私たちは大喜びしながらそれに飛び乗った。横須賀で久里浜行きの電車に乗り換えたのだが、久里浜駅に降り立っても、特に行きたいと思えるような場所が駅周辺になかったため、すぐに折り返すことになった。横浜で根岸線に乗り換えたあと、桜木町で降りた。そして、ガンモはホテルに帰り、私は野外ライブに出掛けた。

 野外ライブのガンモのチケットは、2日間とも誰にも譲らずに私の手元に残っていた。チケット代金は1枚8000円だから、ガンモのチケット代金だけでも合計16,000円。当日券を求めようとする人に声をかけて、ガンモのチケットを譲ってあげることもできたのだが、私はそれをしなかった。例え空席になってしまっても、そこはガンモの席だと思っていたかったのだ。

 野外ライブの本編が終わりかけた頃、私の席の左隣で見ていた人に、
「前の席の人の背が高いので、私の席からだとステージが見えないのですが、もしもお隣の席が空いているのでしたら、一つ分、寄ってもらえませんか?」
と言われた。私は、とても複雑な気持ちになった。確かに私の隣の席は空いているのだが、ここはもともとガンモの席だ。彼女に言われたことを冷静に判断しているうちに、ガンモがいないことが、彼女の利益になろうとしているかのように思えて憤りを感じた。と、同時に、今頃、ホテルのベッドに横になりながら、頬の痛みを抱えて苦しんでいるガンモのことが、たまらなくいとおしくなった。私は、ガンモが頬の痛みを訴え始めてから、本気で心配したのだろうか? そう思うと、とにかくたまらない気持ちになり、涙が溢れて来た。そして、ガンモが歯医者さんで説明されたという細かな症状を少しずつ思い出しながら、ガンモの頬の痛みの原因になっているであろう三つの歯を詳細にイメージし、そこに光を送り込んだ。

 野外ライブでは、アンコールがかかっていた。おそらく、アンコールには2回応えてくれるだろう。私は、1回目のアンコールを、ほとんど上の空で聞いていた。ガンモのことが気になって仕方がなかった。2回目のアンコールが始まったら、会場を出よう。私はそう思って、2回目のアンコールがかかり始めた直後、会場をスタスタと後にした。

 ガンモに電話をかけると、やけに声が明るかった。さっき、歯茎から血が出たのだと言う。これまで気づいていなかったが、口の中で腫れている個所が見つかり、そこから膿が出たようだった。
「膿が出たのは何時ごろ?」
と尋ねると、ちょうど私が光を送っていた時間と一致していたのだ。ガンモが今、ようやく回復しつつある!

 ホテルに帰ると、ガンモはとてもおしゃべりになっていた。楽だ、楽だと言って喜んでいる。これまでしゃべれなかった分、うるさいくらいに良くしゃべる。「ガンまる日記」を書かせてよ、と今は大人しくしてもらっている。

 今回のことで、私はいろいろなことを学んだ。ガンモの頬の痛みに光を送ることに気づかせてくれたのは、私の左隣に座っていた女性だった。彼女の言葉がなければ、私はガンモの頬の痛みに光を送ることに気づかずに、自分にできることなどないと思い込んでいただろう。それを気づかせるために、彼女はわざわざ悪役をかってくれたのではないだろうか。

 病人の症状を把握した上で詳細にイメージし、涙を流しながらそこに光を送り込む。おそらく、病気はこういう形で治って行くのだろうと思う。だから、身近な人に病人が出たら、愛が試されていると思っていいのではないだろうか。

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